【独自取材】郵船ロジスティクス、多様な働き方実現へ改革着手

【独自取材】郵船ロジスティクス、多様な働き方実現へ改革着手

介護支援制度を拡充、育児サポートも強化

 郵船ロジスティクスが従業員の多様な働き方を支える改革に乗り出している。2018年度は一定の条件下で自由に就業時間を設定できるフレックスタイム制度のスタートに向け、トライアルを実施。さらに介護支援制度を拡充するなど、性別を問わず、人生のさまざまなイベントを乗り越えて同社でキャリアを積み重ね続けていける環境の整備に心を砕いている。

 近年は物流の持つ重要性が広く認知されるようになり、物流業界を志す若い世代が増える一方、現場は人手不足が深刻化している。物流企業間の競争も激しくなる中、グローバル規模で成長していけるよう諸改革で貴重な人材の獲得と定着を図り、事業基盤を強固なものとしたい考えだ。

介護短時間勤務制度の利用上限を撤廃

 同社は現在、勤務時間帯を10種類の中から自由に選べる時差出勤制度の利用を奨励している。もともとは13年から導入しており、上司および同僚と調整できれば前日でも1日単位で勤務時間帯の変更が可能で、気軽に利用できるのが特徴だ。

 しかし、社内で周知が徹底していなかったこともあり、その思惑とは裏腹に制度の存在自体を十分知られているとは言いがたい状況だった。そこで本社人事部が先頭に立ち、制度の内容と趣旨をあらためて積極的にアナウンス、じわじわと利用が広がり出した。

 併せて、今年5~7月にフレックスタイム制度のトライアルも実施した。結果は好評で、時差出勤と2つの制度を並行して準備することでさまざまな働き方のパターンを自ら選択できるようにすることを目指している。

 同社人事部の吉田陽子労政課長は「お昼休みの時間も従来は正午から午後1時に固定されていたのを午前11時から午後2時の間に1時間取得することにし、幅を持たせて自分の都合に合わせて好きなタイミングで休めるようにしている」と細やかな配慮の重要性を強調する。

 最近は産業界で介護離職の存在が広くクローズアップされている。郵船ロジスティクスもそうした状況を懸念し、今年9月に社内規定を見直して介護支援制度を拡充した。

 介護短時間勤務制度の利用に関し、365日間と設定していた上限を撤廃。所定の勤務時間も4つのパターンから選択可能に変更した。介護休職制度についても、介護短時間勤務で働いていた期間は休職にカウントしない。さまざまな工夫を凝らし、家族の面倒を長期間見なければいけない場合でも同社に在籍し続けられるよう配慮している。

 吉田課長は「新卒の若い人たちは、企業がそうした介護面の配慮をしているかどうかを非常に良く見ている。当社としても対応していかなければ、今働いてくれている従業員をつなぎとめることも、若い人に当社を選んでもらうことも難しくなってしまう」と取り組みが不可欠な現状を強調している。

従業員対象アンケートで意見を汲み上げ

 同社は17年に中長期経営計画「TRANSFORM 2025」を発表した。その中で成長持続に必要なこととして、従業員の多様性を尊重する姿勢を明確に打ち出している。

 一連の改革も、同計画の理念に基づき、17年度からスピードアップして進められている。事業展開する上で主要な世界5極の中で「日本極」内の全従業員を対象にアンケートを実施、寄せられた膨大な回答から数々の要望と指摘を汲み上げ、担当部署とどういった対応が必要なのかを議論、順次制度改革に移している。

 吉田課長は「1年目の17年度で改革のプランニングが終わり、2年目の18年度にさまざまなアクションを少しずつ進めている」と説明。人事部の人事課と人事企画課でリーダーを務める松本明子氏は「前から進めてきた女性活躍促進などの取り組みがさらに加速している印象がある」と働きやすい環境整備へのグループ内の関心が高まっていることを指摘する。


働き方改革に取り組む(左から)吉田課長、松本氏、上田氏

産休前と復帰前に先輩ママからアドバイス

 改革は育児への支援にも目配りを忘れていない。今年8月には育児や介護に携わる社員を対象に、在宅勤務制度をスタート。原則として月4回までの利用を認めており、子どもを育てながらの勤務をやりやすくしている。

 他にも、従業員の中で出産休暇に入る女性、父親になる男性を対象とした情報交換のイベントを今年、試行的に開催。保育園入園に必要な申請書類と手続きといった“父親・母親1年生”の人たちにはありがたいアドバイスを先輩のママさん従業員ら経験者から聞ける場とした。人事課の上田真実氏は「とても好評だったので、今後また随時開きたい」と手応えを感じている。

 同社は育児休暇を終えて職場復帰する女性を集め、昼食をともにしながら仕事と育児を両立するためのポイントをやはり先輩経験者のワーキングマザーに指南してもらう「ランチケーション」を数年前から行っている。休暇前と復帰前という両方のタイミングで手厚くサポートすることで、より不安を確実に解消できるようにするのが狙いだ。

 前述の通り、同社は日本や米国、欧州など5極を軸にグローバルで事業展開している。今年5月には同社としては初の試みとなる世界各国の全従業員を対象にした意識調査「エンゲージメントサーベイ」を実施、各地域の実情に合った改革を進めていくよう求められていることを再認識した。吉田課長は「エンゲージメントサーベイは今後も定期的に継続していきたい。当社グループの改革は止まることなく、歩み続けていかなければならない」と意欲を示している。

(藤原秀行)

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