安定感ある海上輸送に切り替え検討の動き
今夏に西日本で相次いだ自然災害でJR貨物が長期間にわたって不通・運休となったことを踏まえ、物流企業やメーカーなどの間ではモーダルシフトとして内航船に対する注目度が高まっているもようだ。
これまで内航船は船員不足や限られた航路・便数、リードタイムなどの観点から鉄道の後塵を拝する格好で推移していた、日本は今後も巨大地震・台風・火山など自然災害の発生リスクが高いと予測されているだけに、一部の産業界ではBCP(事業継続計画)対応として災害影響を受けにくい内航船をより活用しようとする動きが見られる。
JR貨物が公表したところによると、今夏の自然災害により中国地区を横断する山陽線が7月5日~10月12日までの100日間、延べ4421本(コンテナ 4359 本、車扱 62 本)の貨物列車が運休を余儀なくされた。
ロジビズ・オンラインの取材に応じた複数の大手物流企業関係者からは、予見・事前回避が難しい自然災害の影響を理解しつつも、緊急時における鉄道の機動的・弾力的な運行オペレーションを求める声が多数聞かれた。
このうちの一人は「確かに鉄道は大切な輸送モードだが、特にモーダルシフトでは環境対策効果や一般社会へのなじみやすさなどイメージ先行の側面が多分にある」と指摘。その上で「今後は鉄道と内航船をバランス良く組み合わせた仕組みを考えていくべきではないか」とモーダルシフトの在り方自体を見直す必要性を訴える。
内航船の活用はメーカーにとってもメリットがあるようだ。大手食品メーカー関係者は「自然災害の影響とはいえ毎年のように(不通・運休が)続くとさすがに鉄道の脆弱性は否めない。その意味で安定感のある内航船は再び評価されつつある。ここに来て内航海運事業者には相当の引き合いが寄せられていると聞く」と一目を置く。
メーカー系物流子会社関係者は内航船を活用した輸送モデルについて「消費者向けの製品は納期や配送先の問題もあって難しいと思うが、製造拠点向けの原材料・資機材などはグループ企業間で調整が取りやすく納期・コストも吸収できる」と展望。
またメーカー、物流企業ともにトラックドライバー不足、拘束時間など労基面での対応力に期待する向きも見られた。大手物流企業関係者は「最も確保が難しい長距離幹線輸送を内航船に一定程度置き換えることができれば、ざっくり言って積み地と揚げ地のトラックを現地でそれぞれ手配すれば済む。これだけでも車両確保と労基への対応はかなり進展するのではないか」と期待を寄せる。
内航船業界では船員の高齢化、船体の老朽化なども課題となっているが、先ごろ商船三井フェリーが来年に新造船2隻の追加投入を発表。高速船による納期短縮サービスの提供を打ち出した。
物流業界関係者は「今後は輸送モードの多様化に加えて、製造・保管拠点の分散化なども並行して進めていくことが求められる。BCPとSCMを両立できる物流体制の検討・構築に加えて、内航海運事業者・トラック運送事業者・鉄道の連携も焦点になってくるだろう」と俯瞰している。
(鳥羽俊一)