物流施設の建築費高騰、過去1年で坪当たり1割程度上昇と指摘

物流施設の建築費高騰、過去1年で坪当たり1割程度上昇と指摘

JLLリポート、「地価に与える影響も大」と指摘

JLL(ジョーンズ ラング ラサール)は6月9日、建築費高騰が物流施設市場に及ぼす影響に関するリポートを公表した。

リポートによると、デベロッパーなどが2021年の前半ごろに想定した物流施設の建築費から現状では1割程度上昇していると解説。
物流施設はオフィスビルや住宅など他のアセットタイプより相対的に地価の低い場所に立地し、土地と建物を合わせた投資額に対する建物の割合が大きいため「建築費の上昇が投資額の上振れに強く作用し、土地価格に与えるインパクトは大きくなる」と指摘した。

その上で、建築費上昇を引き起こしている鋼材の値上がりは鉄スクラップといった原材料と電炉などのエネルギーコストの上昇が主因で、そうした状況を生み出しているロシアのウクライナ侵攻は収束が全く見えないため「建築費もさらなる上昇か高止まりすることが十分想定し得る」と懸念を示した。

一部で着工送らせるケースも

リポートは、デベロッパーなどが2021年の前半ごろに想定した物流施設の建築費は1坪当たり40万~45万円といったところだったが、現時点では45万~50万円/坪に達しており、この1年間でおおむね坪当たり5万円、1割程度上がっていると説明。

建設物価調査会が公表している倉庫の建築費指数も21年4月の工事原価が121.5だったのに対し、22年4月には133.5(暫定値)と9.9%上昇。デベロッパーなどの見方の正しさを裏付けていると言及した。


(建設物価調査会の公表データを基にJLL作成)

一般的に、物流施設が立地する用途地域の準工業地域、工業地域、工業専用地域で多く設定されている、200%の基準容積率を消化するような物流施設の建築を想定した場合、建築費が坪当たり5万円上昇すると、総投資額を変えない場合は土地に対する負担余力を単純計算で坪当たり10万円縮小させると計算。「坪当たりの土地価格が数十万円程度と市場の中で相対的に低いエリアは建築費上昇が地価水準に与える影響は大きい」と展望している。

リポートはさらに、既に首都圏外縁部の物流施設素地案件などで、建築費上昇により売主から「希望する土地価格を提示することができない」といった反応が聞かれたり、土地を取得済みの場合は「採算が合わなくなっている」として着工を遅らせるケースも一部で耳にするようになったと報告している。

建設物価調査会が、倉庫と類似の用途の工場について、建築費上昇における各要因の寄与度を公表しており、22年4月と前年同月の比較で純工事費の指数は7.95上昇しているが、そのうち、「鋼材」の上昇の寄与度が4.42と、上昇要因の半分以上を占めていることを引用。


(建設物価調査会の公表データを基にJLL作成)

「倉庫も工場も基本的にスケルトンに近い形で建築されることが多く、建築費の多くを躯体が占めていることから、倉庫においても同様の傾向であることが推測される」と述べている。

鋼材価格を押し上げている原材料やエネルギーコストの上昇については、原因のウクライナ情勢などが短期的で落ち着く状況にはないという見方が大勢だろうと予想。建築費もさらなる上昇か高止まりすることが十分想定し得ると結論付けている。

リポートは最後に、「これらの建築費の上昇が、先述のとおり賃料の上昇や売却時の利回り低下により吸収されていくのか、または土地価格への影響を与えていくのか、注視したい」とのコメントで締めくくっている。

(藤原秀行)

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