【独自】2030年頃には物流施設に“AIセンター長”が登場

【独自】2030年頃には物流施設に“AIセンター長”が登場

船井総研ロジがWebセミナーで自動化の必要性と取り組むべき課題を指摘、運賃動向も予想

船井総研ロジは7月27日、「2022年下期物流業界時流予測セミナー」と題したオンラインセミナーを開催した。

講師として同社取締役常務執行役員の赤峰誠司氏が登壇。世界経済の混乱に加えて新型コロナウイルス禍による海上運賃の高騰、燃料費をはじめとするコスト上昇など、物流を取り巻く環境が厳しさを増す中、特に荷主企業に向けて今取り組むべき課題を指南した。

国内の物流に関しては、「ウィズコロナ」が常態化する中で再び人手不足の問題が頭をもたげてくると予想。コロナショックによる物量減少で一時的に鎮静化していたドライバー不足が、荷量の回復とともに再び本格化するとの見方を示した。さらに、コロナ禍に伴う外出減少で商業施設などサービス業のスタッフ需要が落ち込んだ影響で比較的集めやすくなっていた倉庫のパートタイム勤務者も、また他業種との取り合いになってくる可能性があるとの見方を示した。

赤峰氏はさらに、トラックドライバーの長時間労働規制が強化される「2024年問題」への対応を物流業界全体が迫られ、運送事業で利益を生むことが一層厳しくなる中、国内の運賃がいまだほとんど上がっていないことに強い危機感をあらわにした。


赤峰氏(セミナー画面よりキャプチャー)

時間外労働規制を乗り越え成長するには「標準的な運賃」が必要

船井総研ロジの調査によると、2020年の国土交通省告示による「標準的な運賃」と比較した実勢運賃は、地場の輸配送で15~30%、中長距離で30~50%低い水準にあるという。

赤峰氏は「2024年問題を乗り切るのに必要な運賃水準が、ちょうどこの『標準的な運賃』の水準。本来はコロナ前から毎年徐々に値上げをすべきところだったが、コロナ下での荷量確保の動きもあり、この3年間ほぼ上がっていない。あきらめムードも漂いつつあり、非常に厳しい状況だ」と指摘。特に中小の運送事業者では事業売却のニーズも高まっており、廃業も今後増えてくるのではないかと展望した。

荷主企業への影響としては、「運賃とサーチャージ、合わせて20~30%の値上げは必要になるだろう」と予測。その他にも集荷の締切時間前倒しや特に手作業を中心とした荷役の料金アップ、センター便をはじめとした配送と荷積み・荷下ろし業務の分離が加速するなどの流れが考えられると予測。「コロナ下で今は物流企業も耐え忍んでいるが、荷主はこの波に乗り遅れると最終的には取引縮小や契約更新拒否につながるリスクもある」と警鐘を鳴らした。

宅配、路線、3PL――下期のトラック運賃相場を占う

赤峰氏は前述の点から、物流業界の本音としては、2024年に向けて30%程度の値上げをしたいという思いがあったとの持論を披露。ただし、17年頃からの値上げ基調の中で一度も値上げに応じていないような場合はともかく、今年の秋に大幅な値上げはしにくいのではないかとの見解を示した。

その上で「大手宅配3社に関しては、来年4月までに5~10%、そして2024年までにもう10%、計10~20%値上げする思惑で動いていくと予測している。路線便大手は現在少々弱含みで値上げに向けて動けていないが、来年の4月までに10%ないし5%、駆け込みで10月ないし11月に10%、合計で上限20%程度の値上げがあるのではないか。そして宅配・路線便の値上げに突き上げられて、3PLや地場大手などの元請けが来年の4月に10%、次の値上げでプラス10%という動きになる」との見方を明かした。

中小の値上げについてはなかなか厳しく、駆け込みで10%上げられれば上々だという。しかし、赤峰氏は荷主としては経費上昇分だけでも負担しなければ、今後運べない状況が本当に発生してくる恐れがあると強調、元請けとともに取引先の構造を見つつ、来年4月から何らかの予算化を考えるよう要望した。

帝国データバンクが公表している、増加したコストの価格転嫁率のアンケート調査(2022年6月時点)の結果を見ると、運輸・倉庫業は19.9%にとどまっている。赤峰氏はこれまでの物流費の上昇は海上運賃の調達価格が中心だったが、国内に関してはこれから値上げが一気に押し寄せると見ておく必要があると危機感を見せた。


運賃の上昇傾向が続くのかどうかが気掛かり(イメージ)

次に取り組むべきは脱炭素とDX

2024年問題は目下最大の懸念事項だが、荷主は同問題の対応にめどが立ったとしても、次に脱炭素問題への取り組みに進まなければならない。物流のオペレーションは通常物流企業に任せているので、荷主が行うのは選択と評価になる。

赤峰氏はこうした現状を踏まえ、まず自社物流のCO2排出量を測定・把握することから始め、CO2削減における委託先の評価基準を策定して脱炭素の取り組みを進めている物流企業を選択していくことが必要だと説明。荷主として確認すべき具体的な項目としては、専属便の積載率、輸送モードの構成、燃料電池トラックやEV(電気自動車)トラックなどの利用状況、過剰在庫、梱包、共同物流の可能性などを挙げた。

物流企業においては、今年第一に注力すべきはやはり2024年問題対策としながらも、併せて業務DX化の重要性を強調。まずはドライバーの残業規制を乗り越えて成長するために「運賃改定、賃金改定、荷主との取引改定の『3改』に取り組まなければならない」と訴えた。加えて、取引先に対しては、荷主ごとに運賃水準や業務プロセスを洗い出して不採算や残業超過の取引を見直すこと、社内に関しては賃金テーブルを精査し、歩合から時間給ベースの賃金に移行することを促した。

物流事業者が取り組むべきDXとしては、特に「省人化」と「省紙化」を早急に実践することを勧めた。他方、荷主サイドとしては、自社の支払運賃が業界の中でどの程度の水準なのかを把握して、値上げに備えた予算計画をしておく必要があると念押しした。その上で、ドライバーの付帯作業や待機の状況を3PL事業者と一緒になって精査していくなどの取り組みを提案。また、取引が過剰な多重構造になっていないかも見直すべきポイントだと指摘した。赤峰氏は「荷主→元請け→実運送会社の3段階構造までに収めることが今後は望ましい」と力説、これからの3PL事業者は集車力を高めることが大きな価値を生み出していくだろうと語った。

運賃の値上げが避けられない分、保管や荷役などの部分でコスト圧縮の可能性があるかどうか見極めるため、あらためて現状を洗い出す必要があると強調。営業部や調達部との連携による在庫の見直しも提言した。

荷主主導で自動化を果たすべき理由

赤峰氏は、日本で物流センターなどへのピッキングロボット、AGV(無人搬送ロボット)、無人フォークリフトなどの普及がなかなか進まないと危惧されている点についても持論を述べた。ピッキングロボットで言えば、現状で導入が進んでいるのは大手通販会社、物流子会社、荷主直轄の物流センター。各者に共通する特徴は①倉庫の稼働日・稼働時間が長い②物量の予測など中期計画が立てやすい③荷主が現場業務変革を主導できる――ことだと列挙。分かりやすい事例として、次のような事例を引用した。

例えば、AI搭載のピッキング支援AGVを100台導入すると、4億円程度の投資になる。日本企業では5年での投資回収を目安とする場合が多いが、パートスタッフ1人のコストを月額10万8000円として、5年で4億円の投資対効果を得るには毎月62人のスタッフを削減できなければならない計算だ。日本のパートスタッフは勤勉で生産性が高く、賃金水準も欧米諸国に比べ安い上、日本の物流現場は一般的に稼働日・稼働時間が少ない。100台のロボットではスタッフ30人程度の削減効果にしか相当せず、投資回収に12年も要する計算となる。

荷主と物流会社の契約はだいたい3~5年。まずは10年を投資回収の目安にしなければ自動化は進まない。それに合わせて物流会社との契約も、荷主がリスクを取って10年にすることが求められる。もしくは倉庫の稼働日数を増やす、機器を共同で利用するなどの取り組みが必要となる。

赤峰氏は、物流業界の自動化のロードマップとしては、AIピッキングロボットは上記のような理由から多くの企業ですぐ導入に踏み切るのは難しいにせよ、自動倉庫や仕分けソーター、パレタイザー、AGVなどは5年以内にどんどん導入が進んでくるだろうとのシナリオを描いてみせた。2030年頃にはAIが現場を指揮する“AIセンター長”が登場し、商材によってはほぼ無人化が完実現できるだろうとの見方を示しつつも、やはりコストの問題からどのあたりの産業までがこのレベルに近づくかは興味深いと語り、予想の難しさもうかがわせた。


自動化のロードマップとは?(イメージ)

(川本真希)

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