全体の利用効率アップを確認、各地の卸売市場に展開へ
AIを活用したソリューション開発を手掛ける東証グロース上場のヘッドウォータースは8月12日、東京青果が農林水産省の令和3年度(2021年度)補助事業として取り組んだ「場内流通のAI動態分析による物流改善施策検討・検証」を全面的に支援したと発表した。
青果物の物流は、青果物輸送のドライバー不足を背景として、大都市拠点市場への出荷集約が進む中、東京青果の年間取扱量は年々増加傾向にあり、課題の1つとして「卸売場の狭隘化による場内渋滞」があった。場内卸売場の運用は、限られた場所と時間の中で、東京青果社員および仲卸業者の経験に基づく工夫により実現されているものの、場合によっては属人的かつ部分最適な行動が見られ、商品の滞留やフォークリフト・ターレの動線混雑といった問題が発生していた。
問題解決を目指して、全体最適の視点から現状の運用と課題を把握し施策を講じるため、商品配置およびフォークリフトやターレ(小型運搬車)の動線について、カメラ画像によるAI動態分析を行った上で、最適化に向けた施策の検討・検証を実施した。
商品配置が最適化され、フォークリフトやターレの動線が適切に確保された状態になれば、商品探索やピッキングといった仲卸業者の荷引き時間が短縮されることで、「より多くの荷物を、より鮮度良く、低コストで供給する」ことが可能になるとみている。関係者は拠点市場のハブ機能の強化、さらには国産青果物供給の国際的な競争力強化につながると考えている。
AI動態分析の取り組みは、東京青果が農林水産業の補助事業として「令和3年度食品等流通持続化モデル総合対策事業」のうち「持続的サプライチェーン・モデル確立事業」に応募の上実施。ヘッドウォータースは東京青果に伴走する形で、企画段階からAI動態分析の仕組み構築、施策の検討・効果検証までの一連の業務を支援した。
肝となる商品動態分析については、大田市場内の東京青果利用スペース内にWebカメラとエッジデバイスを設置し、撮影した画像に基づいて商品動態をデータ化する仕組みをクラウド「Microsoft Azure」上に構築し、Microsoft Power BIで可視化・分析する仕組みを構築した。
仕組みを活用したデータ分析に加えて、東京青果の協力を得て現地視察や協議を重ねることで、より実効性のある施策を検討し、実施および効果検証することができた。フォークリフトとターレ動線の分析については、東京青果が導入した映像解析ソフトウェア「BriefCam」を活用した。
BriefCamは、イスラエルのBriefCamが開発したソフトウェアで、数時間の録画映像を数分の映像に要約し、様々な条件で検索・分析できるのが特徴。キヤノンマーケティングジャパンが導入を支援した。
AI動態分析では、最終的に東京青果利用スペースの一定範囲を対象とした施策の試行と効果検証を実施し、「実施した施策が、全体の利用効率向上につながる」との結論を得た。今後は可視化・分析の対象を拡大し、利用スペース全体の最適化に向けた取り組みが進行していく予定。
ヘッドウォータースはこうした取り組みは、全国の卸売市場など俯瞰的なデータ分析が必要な場所へ広がり、より大きな範囲でスペースの有効利用が図られることで、物流の状況を変えていく可能性があると考えている。
同社は今回のAI動態分析で支援したような「データ化されていない情報のデータ化、可視化、分析」および「データに基づく施策の検討、試行、効果検証」に加えて、「日々収集されるデータに基づく継続的な改善」に関する支援を推し進め、今後も物流業界の課題解決に貢献していく方針。また、各産地の収穫状況、拠点市場への配送状況、拠点市場の利用状況、仲卸への移送状況、仲卸の保管状況、小売店への配送状況など、青果物サプライチェーンにおけるデジタルツインの取り組みも進める計画。
(藤原秀行)※写真はいずれもヘッドウォータース提供