中部横断道と組み合わせリードタイム短縮、海外に「鮮度」売り込み
静岡県などは9月5日、静岡市の清水港から山梨県産のシャインマスカットを初めて船で輸出するトライアル輸送を開始した。2021年8月に全線開通した静岡市~長野県小諸市を結ぶ中部横断自動車道と清水港を活用し、農産物を山梨県や長野県を含む県内外の産地から海上輸送で海外まで迅速に届けられるようにして輸出拡大を図るのが狙いだ。
国土交通省関東地方整備局の甲府河川国道事務所は、中部横断自動車道の全線開通で山梨から静岡までの移動時間が、一般道の国道52号を使うよりも70分程度短縮されたと試算。そこで静岡県などの関係者は、清水港と中部横断自動車道を組み合わせれば農産物の出荷から輸出までのリードタイムを短縮できると期待を込めている。
トライアルは、山梨の自社農場などでぶどうを栽培・出荷しているアグベル(山梨市)が手掛けたシャインマスカットを、冷蔵が可能な20フィートリーファーコンテナ1本で輸出。県から委託を受けている農産物商社の日本農業(東京都品川区西五反田)も携わった。地元の物流事業者らが協力し、9月5日に静岡市の興津定温倉庫でバンニングした後、9月8日に船へ積み込み、タイのレムチャバン港へ届ける。現地到着は9月18日を予定している。
シャインマスカット
積み込みの様子(いずれも鈴与提供)
アグベルは従来、主に航空便で東南アジア向けを中心に作物を輸出してきた。中部横断自動車道の全線開通で山梨~静岡間のアクセスが向上したことなどを踏まえ、最寄りの清水港から海上輸出することで取扱量を増やし、海外で山梨産シャインマスカットの存在感を高めていくことを目指している。
同社はマスカットを含むフルーツの国内市場規模は人口減少などの影響で今後縮小が避けられないと予想している半面、海外マーケットはまだまだ伸びる余地があると商機に期待。日本農業としてもより多様な農産物を取り扱えるようにしたい考えだ。
清水港は2018年2月、国土交通省から農水産物の輸出促進拠点の認定を受け、冷凍プラグが増設されるなど整備が進められている。東南アジア向け直航便が多く寄港しているだけに、静岡県の関係者らは経済成長が続く東南アジアに地域の高品質な農水産物を売り込めるとともに、清水港の存在感アップにもつながると期待。着実に実績を重ねていきたい考えだ。今後はタイのほか、香港や台湾なども有力な輸出先の候補になりそうだ。
(藤原秀行)