【独自取材】住友商事、消費地近接の「都市型」物流施設を推進

【独自取材】住友商事、消費地近接の「都市型」物流施設を推進

中本不動産投資開発事業部長、首都圏や近畿圏で今後も機会探ると強調

 首都圏を中心に先進的な物流施設の大量供給が続き、荷主企業や物流企業の選別眼が厳しくなる中、住友商事は自社で開発する「SOSiLA(ソシラ)」ブランドの案件の付加価値を向上させる独自策として、「都市型物流施設」を推し進めている。人口が密集し消費地にも近いエリアで用地を確保、周辺環境にも配慮した施設とすることで配送拠点としての魅力を高めるのが狙いだ。

 昨年末には東京・板橋で23区内初となる開発の計画を発表した。同社の中本昭人不動産投資開発事業部長はこのほどロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じ、「都市型施設には非常に強いニーズがあると肌身で感じている。グループで展開している物流事業の知見を生かすことで、お客さまのニーズを的確に捉えた施設の高機能化が可能だ」と強調。今後も首都圏や近畿圏で都市型を意識した物件開発の機会を探る構えを見せた。


インタビューに応じる中本部長

車路を工夫し騒音や排気ガスなどの影響抑制

 同社は2015年に打ち出した「SOSiLA」ブランドの目指す姿を表現したキーワードとして「社会とのつながり(=Sociability)」「環境への配慮や持続的成長(=Sustainability)」「人と労働環境への配慮(=Individuality)」を明示。独自性を出すために物流業務の効率化や流通加工への対応、施設内の空間の可変性などを追求している。

 都市型物流施設もその一環に位置付けており、象徴的な案件が18年3月に稼働した「SOSiLA横浜港北」だ。人口密集地で一大消費地にも近い横浜市内に建設した同施設は、1階から3階までトラックが直接乗り入れられるランプウェー型の半屋内中央車路方式を採用。荷物の積み下ろしを効率化するとともに、周辺への騒音や排気ガスなどの影響も抑えられるよう配慮した。地の利の良さなどが評価され、大手物流会社が配送拠点に活用している。

 他にも、昨年末には同じく神奈川県の海老名市で「SOSiLA海老名」の工事をスタート。圏央道の海老名ICや東名道の海老名JCTに近接し、小田急線・JR相模線の厚木駅から徒歩圏内という立地が配送効率の良さと労働力確保の両面で強みとなり、既に床面積の7割以上で賃貸借契約の締結にこぎ着けた。敷地内に小規模の公園「ポケットパーク」を設けて外部にも開放、地域社会と共生していくことを想定している。

 東京・板橋も23区内で都営三田線やJR埼京線の駅から徒歩圏内というロケーションを全面に打ち出していこうとしており、城北エリアへの多頻度配送拠点としてのポテンシャルに期待するとともに、庫内労働力を採用する上で大きな武器になると見込む。


「SOSiLA海老名」の完成イメージ。工事完了は20年2月末を見込む(住友商事提供)※クリックで拡大

 中本部長は「当社が物流施設開発を本格的に始めたころは明確に『都市型』というイメージを持っていたわけではないが、開発を進めていく上で基本的な戦略とするために主要エリアをランク付けしていた。今から思い返せば、その結果はまさに都市型に重きを置いた評価となっていた」と発端を振り返る。都市型とすることで配送効率をアップし、トラックドライバー不足の潮流にも対応できるようにする狙いもある。

 都市型を志向するとなると、用地取得や開発に時間を要する上、どうしても賃料が高くなる傾向にある分、テナント企業からは建物のスペックとして効率性が非常に重視されることが見込まれる。開発にも工夫が必要となってくるが、そうした点で有利になるのが、自社グループで物流事業を展開している点だと中本部長は強調。

 「住商グローバルロジスティクスは千葉県習志野市の茜浜でテレビ通販向けの大型センターを運営しており、オペレーションの効率向上などのノウハウが相当蓄積されている。知見は社内で共有し、SOSiLAシリーズの物流施設開発に反映させている」と自信を見せる。さらに、住友商事は傘下にスーパーマーケットのサミットやドラッグストアのトモズなどを抱え、小売り事業に長年参画している経験も生かせていると指摘する。

 都市型の他にも、かねて施設を開発するに当たり定番の機能をそろえて満足するのではなく、顧客の商品特性といったポイントを踏まえて機械化に備えた高い天井高の仕様を提案するなど、きめ細やかなソリューションに踏み込んでいる。住友商事としては柔軟性を持って対応する姿勢を「次世代SOSiLA」と表現しており、中本部長は「当社の造り込む姿勢を徐々に評価していただけている」と手ごたえを感じている。

開発の数値目標は設定せず

 中本部長は今後の事業展開について、定量的な目標は特に設定していないと説明。その真意を「数値目標を持つとどうしても物件を仕込む際、年度終わりになって目標達成のために無理をしてしまいがち。そんなやり方はリスクが大きい。あくまでもお客さまのニーズをしっかりと踏まえてお役に立てる施設を地道に開発していくことが重要だ。部内では年間300億円くらいの用地取得を想定してはいるが、あくまで願望であり、当社として絶対視している数字ではない」と語る。

 米中経済摩擦や消費税率引き上げなどの影響で、今後国内外で経済成長が鈍化するとの懸念が広がっている。そうなれば物流施設需要も影響を受けることが避けられないが、中本部長は「当社の不動産事業は08年のリーマンショックで市場自体は非常に冷え込んだがほぼ痛手をこうむることなく乗り越えてきた。巡航速度で開発を進めるマネジメントの仕方は分かっているつもりなので、数にこだわらず有望な案件に絞り込んで事業を進めていく」と冷静な事業展開をアピールする。

 都市型のコンセプトや次世代SOSiLAの取り組みを徹底していくことで、景気が減速したとしてもeコマースなどの需要は引き続き着実に捉えていけるとのスタンスだ。ロジビズ・オンラインでも既に触れたように、同社は2月に大阪市内で開催した「SOSiLA西淀川Ⅱ」の内覧会で、初の試みとして最新のロボットやマテハン機器などを展示し、来場者の希望に応じて具体的な活用方法を紹介する説明会「ロボ・スタジオ」を同時に行った。テナントの機械化・省人化のニーズによりきめ細かく応えていけるように、との思いだ。

 今後は首都圏と近畿圏に加え、まだSOSiLAの実績がない中部圏での第1号案件着手を目指していく方針だ。中本部長は「箱だけ造るデベロッパーではこれからもう生き残っていけない。庫内のオペレーションまでトータルでソリューションを提供できるデベロッパーになりたい。それは商社の中にある不動産部隊という強みを生かし、グループの抱えるリソースを最大限活用していくことで実現できると思う」とアピール。子会社で情報システム開発を手掛けるSCSKなどとも連携し、ソリューションの幅をより厚くしていくことを目指している。

(藤原秀行)

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