2023年物流カレンダー・待ち受ける大きな変革の契機

2023年物流カレンダー・待ち受ける大きな変革の契機

トラックドライバーの労働規制強化、ロボット宅配やドローン物流の基盤整備も

2023年は物流業界にとって、大きな変革の契機となり得るイベントが多く予定されていたり、目前に迫ったりしている。年始に当たって、それぞれの概要と今後の動きを紹介する。

▼改正「改善基準告示」の適用開始まで残り1年

トラックドライバーの労働時間などの条件を定めた厚生労働省の改正「改善基準告示」が2024年4月1日、適用される。働き方改革の一環として2024年度からトラックドライバーの長時間労働規制が強化されるのに合わせた措置だ。

労働時間と休憩時間を合計した「拘束時間」の上限を現行の「年間3516時間」から「原則3300時間・最大3400時間」に短縮。1カ月当たりでは現状の「原則293時間・最大320時間」を「原則284時間・最大310時間」に変更する。

それぞれ284時間を超える月が3カ月を超えて連続しないよう定めるなど、例外規定を見直す。併せて、1日の休息期間は現行の「継続8時間以上」から「継続11時間以上を基本とし、9時間を下限」に修正。長距離・泊り付きの場合は運行を早く切り上げ、ドライバーがまとまった休息を取れるよう例外のケースを細かく規定する。


改善基準告示の改正内容を周知するリーフレット(厚生労働省ホームページより引用)

改善基準告示は違反しても直接の罰則はないが、労働基準監督署から労働実態是正の勧告や指導を受けたり、国土交通省から車両の運行停止などの行政処分を科されたりする可能性があり、実質的に強制力を備えている。

2024年度からは、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に制限され、長時間の労働がさらに難しくなる。物流事業者とトラックドライバーの双方にとって、収益や収入の減少に直面する可能性が大きくなるため、業務の効率化と併せて、運賃の適正化がますます重要度を増してくる。

荷主企業にとっても「自社の商品を運べない」事態が現実味を帯びてくるだけに、運賃の見直しや輸送の効率化などを物流事業者と連携して真剣に検討することが責務となる。

▼日立物流が社名を「ロジスティード」に変更、新体制スタート

3PL大手の日立物流が4月1日付で社名を「ロジスティード」に変更する。米投資ファンド大手KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)の傘下に入ったのに伴い、日立物流が2017年からビジネスコンセプトとして活用している、ロジスティクスを超えてビジネスを新しい領域に導いていく意思を表す「ロジスティード(LOGISTEED)」を社名に採用。新体制発足を強くアピールする。

日立物流は「グローバル3PLリーディングカンパニー」を目標に掲げており、KKRが持つ多様なグローバル企業との関係などのリソースを活用し、アジアや欧米で3PLをはじめ国際事業を拡大させることを目指す。シナジー効果が期待できる事業会社を共同出資パートナーとして招聘することも検討するほか、KKRは事業の成長を実現した後に株式を再上場させることも想定している。

日立物流は2016年にSGホールディングス(HD)と資本・業務提携することで、海外の事業基盤拡大を目指したが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う環境変化もあって、その思惑は十分実現できなかった。国内外で多数の投資実績を重ねるKKRの力を借り、仕切り直しとなる。今後数年で欧米の物流大手と伍していけるだけの存在に飛躍できるかどうかが試される。事業成長の手段として、国内外の物流企業などのM&Aが有力となりそうだ。


新社名ロジスティードのロゴマーク(日立物流提供)

▼ロボット宅配と「レベル4」自動運転サービスが解禁

ロボットが公道を走行し、荷物や飲食物を届けることが可能になる改正道路交通法と関係政令が4月1日施行される。併せて、特定の条件下で車の運転を完全に自動化する「レベル4」の輸送サービスも解禁となる。

宅配ロボットの活用を促進し、配送現場の人手不足をカバーできるようにするのが狙い。新制度で宅配ロボットは「遠隔操作型小型車」に分類し、最高速度は人の早歩きと同程度の時速6km以下と設定。歩道を通り、信号に従うなど歩行者と同様のルールを守るよう明記している。

非常停止装置の基準として押しボタン式に限定し、取り付けてある場所がすぐに分かるよう周囲の部分と色を変えることや、指定する標識をロボット本体に取り付けることを盛り込むなど、宅配ロボットを使って配送を行う事業者に対し、安全性に十分配慮するよう求めている。

「レベル4」の自動運転は、地方で住民や荷物を輸送することを念頭に置いている。宅配ロボットの場合と同じく、バスなどを運行する事業者に、都道府県公安委員会へ事前に運行計画を提出、許可を得るよう義務化。車両に同乗したり遠隔で監視に当たったりする「特定自動運行主任者」の配置も求める。遠隔監視装置が外部からのサイバー攻撃で乗っ取られないよう対策を講じることも示している。

既に楽天グループが2022年11月、茨城県つくば市でロボットを使った定常的な自動宅配サービスを開始。今年4月1日以降は、無人でロボットが市内の対象エリアを走行できるようにする準備を進めている。つくば市でロボット宅配のノウハウを蓄積し、他の自治体にも広げていくことを検討している。「レベル4」自動運転も、地方自治体が相次ぎ、人や荷物の輸送を行う実証実験に乗り出している。ロボット宅配や自動運転車による荷物輸送が見慣れた光景となる日が数年で訪れるかもしれない。


楽天グループがつくば市で公開した宅配サービス用ロボット

▼ドローン物流普及に向けた体制整備が加速

ドローンの安全飛行に関するルールを定めた改正航空法が2022年12月5日に施行され、ドローンが有人地帯で補助者を置かず、目の届かない目視外のエリアまで長距離を飛行する「レベル4」が解禁された。条件を満たせば、人が多く行き交う住宅地やオフィス街でドローンを使った荷物配送が可能になる。

人口が減少し、物流事業者としても採算を取りにくい地方部の物流ネットワークを維持する有力な手段として期待されている。CO2の排出削減効果も見込まれる。

政府はレベル4解禁と並行して、ドローンの機体ごとに所有者の身元などの情報を登録することで不審な機体の飛行を阻止する登録制度を22年6月に開始。同12月にはドローンの機体の強度や性能などが国の安全基準に適合しているかどうかを検査、証明する「機体認証制度」と、ドローンを安全に操縦できる技能や知識を有していると国が認める「技能証明制度(操縦ライセンス)」を正式に始めた。

加えて、ドローンを安全に飛ばすための共通ルールを拡充。飛行計画の国への事前提出や飛行日誌の作成、事故発生時の負傷者救護や報告などを課している。政府は国家免許となる操縦ライセンスの試験について、22年度中にも第1回を実施する方向で準備を進めており、23年度以降、なるべく早期に都市部でドローン物流などを実現したい考え。

ただ、ドローンの積載可能重量アップやより長距離を繰り返し飛べるバッテリーの開発など技術的な課題がまだ残っており、専門家やドローン物流を準備している事業者らの間では、実際に東京のような大都会でドローン物流を始められるようになるまで少なくとも数年を要するとの見方が強い。

今回の法改正では、住民や歩行者らがいないエリアで目視外飛行する「レベル3」についても規制を緩和し、安全性など条件に合致すれば以前よりもドローンを飛ばしやすくした。既に山間部や離島ではドローン物流の実証実験が盛んに行われ、有料サービスとして提供が始まったエリアもある。

まずは事業者や地方自治体がレベル3で経験を積み、地方の各地でドローン物流が一般的に行われるようになってから、地方都市でレベル4のドローン物流が始まる公算が大きそうだ。需要の拡大を見据え、適正な価格で安全に輸配送を成し遂げられるよう、ドローン物流事業者の免許制度についても議論が急がれる。


A.L.I.Technologiesが2022年12月、千葉市幕張エリアで実施した「レベル4」を視野に入れたドローン物流の実証実験の様子(石原達也撮影)

(藤原秀行)

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