【独自】「異端児のわれわれが物流自動化・標準化の起爆剤になる」

【独自】「異端児のわれわれが物流自動化・標準化の起爆剤になる」

ソフトバンクロボティクス・坂田常務執行役員兼CPO単独インタビュー

ソフトバンクグループ傘下でロボット事業を展開しているソフトバンクロボティクス(SBR)の坂田大常務執行役員兼CPO(最高製品責任者)ロジスティクス事業本部長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

坂田氏はSBRが2022年9月に公表した物流自動化事業の本格展開開始に関し、まずは庫内作業の効率化・省人化に注力するとともに、輸配送など他の工程にも携わっていくことにあらためて強い意欲を示した。ロボットや自動化機器は国やメーカーを問わず、顧客の現場オペレーションを改善できる優れた製品を積極的に取り扱うほか、自社でも新たな技術を開発していく可能性があると説明した。

物流領域の自動化については、既に手掛けている人型ロボット「Pepper(ペッパー)」や清掃、食事配膳のロボット並みの事業規模まで数年で成長させていきたいとの見解を表明。国や業界団体が中心となって推進している物流の輸送機器や伝票、荷姿などの標準化にも貢献したいと語った。


取材に応じる坂田氏

掃除や配膳の領域で培った経験を生かせる

――御社は2014年に人型ロボット「ヒューマノイド」の事業を開始し、「Pepper(ペッパー)」が非常に有名です。既に国内で2万台以上を販売しています。ヒューマノイドと併せて清掃や配膳・運搬向けのロボットも取り扱い、世界70カ国以上で業務用の屋内サービスロボット事業を展開されています。新たに物流領域へ本格的に参入しようと決断した背景を教えてください。
「おっしゃる通り、当社はもともと、ヒューマノイドから清掃や配膳・運搬のロボットを手掛けてきました。そこでは単純に業務の自動化が可能なロボットを現場に入れるというよりは、そもそも現場が抱えている課題は何なのかを踏まえ、その一部は人間が解決し、残りはロボットが解決するというように、人とロボットの組み合わせで業務効率化の最適解を出すということにずっと取り組んできたんです。ロボットだけで100%自動化できる領域はほとんどなく、実際には8~9割ぐらいの業務を自動化した上で、残りは人とロボットを組み合わせてオペレーションを改善していくのがいいのではないかと感じています」

「そうした流れで言えば、技術である程度、課題を解決することができて、かつ、もう課題が見えている領域が有望です。清掃や配膳がそうですし、物流も以前から抱えている課題が大きく、自動化がようやく進み始めてきたところであり、まさにそうした有望な領域です。われわれは様々な技術を世界中で見てきましたが、自動化の技術自体がかなりこなれてコストが下がり、実際に現場で本当に使えるようになってきました。われわれが展開している事業のドメインと親和性が良く、ピボット(方向転換)するにしても既存の領域と比較的近いのかなというところを重視しました」


ソフトバンクロボティクスのロボットのラインアップの一部(同社提供)

――これまで培ってきたロボット領域の知見は物流でも生かせると?
「そうですね。もちろん、掃除や配膳と物流は世界がかなり違いますから、完全に100%生かせるというわけではありません。ただ、ロボット導入に至る段階でのお客様との開発プロセスみたいなものや、そこに必要な物の考え方、リソースや経験は掃除や配膳の領域と共有できるものが多いと思います。物流のプロフェッショナルを当社のチームに招き入れて技術を組み合わせ、当社の強みである新たなビジネスを創出・発展させていく力を発揮し、新たなビジネスとして本格的に始めようとしているところです」

――物流領域は先ほど指摘されたように、単独でロボットを入れればそれで問題解決、ということはまずなくて、顧客の課題を踏まえた上で最適な技術を融合させ、ロボットをうまく現場で稼働させ、フォローもしていくというような、多岐にわたる問題を解決していくマネジメント的な役割が強く求められていると思います。そういう部分で御社は強みを発揮できそうですか。
「配膳や運搬もそうですが、われわれはIoTのセンサーやPOS(販売時点情報管理)システムといったような、いろいろなものとロボットを連携させることができます。お客様の声も最初は業務をロボットで改善したいという大まかな内容だったのが、徐々にオーダー連携したいとか、本当はもっと課題があるのでそちらを解決していきたいといったように、具体化されていきます。そうした声に対して、われわれ自身も既存の事業で、他の企業の担当の方々を連れてきて、例えばこの人たちはIoTのセンサーからデータを収集・分析してアウトプットを出せる、といったリソースを組み合わせてお客様に提供することをかなり長く展開してきました。ペッパーもそうなんですが、課題の解決方法を発想して現実のソリューションに落とし込んでいく経験値は間違いなく高いですし、スピード感もすごくあると自負しています」

――ソフトバンクグループは2021年、ノルウェーで自動倉庫型ピッキングシステムを展開しているAutostore(オートストア)に投資しました。そのことは御社にとってもかなりプラスになっていますか。
「オートストアがグローバル規模のディストリビューターに成長できた一因はおそらく投資があったからだと思いますので、オートストアの製品を活用する当社としてもメリットは当然ありますね。ただ、われわれとしてはいきなり海外というよりは、まずはとにかく国内でしっかり実績を作った上で、APAC(アジア太平洋)を中心に事業展開していきたいという話を内部でしています。例えばソフトウェアの面で、オートストアに対してこういう新しい使い方をしたい、一部はわれわれ側のシステムで変更を吸収するので、一部はオートストア側のソフトウェアを少し修正してもらいたいとお願いできるくらい、一歩踏み込んだ形の関係を築けているのは、当社が国内で事業展開していく上でも望ましいことだと思います」

「われわれはグローバルの企業とパートナーシップを組むということもずっと手掛けてきました。うまくパートナーを見つけ出し、協力関係を構築できるだけの知見を持っているというのは、ロボット事業を展開する上で非常に大きなプラスではないでしょうか」

――御社自身で何かしらの新しい技術を開発していくパターンもあるのでしょうか。
「あり得ると思いますね。実際、当社が2022年9月、千葉県市川市に開設した専用拠点『SoftBank Robotics Logistics Innovation Lab(ソフトバンクロボティクス・ロジスティクス・イノベーション・ラボ)』で展示しているGAS(ゲートアソートシステム)などは、一部にわれわれが自社で開発した技術が入っており、パテントを取る手続きを進めているものもあります。今後は取り扱うポートフォリオをどんどん増やしていきますが、間違いなくこのソリューションは優れているというものがあれば、自社で技術を開発しに行くこともあるでしょう。当社は絶対、何年以内に何かを作ろうと決めているわけではなく、ビジネス的にはフレキシビリティを持ちながら、お客様のニーズなどを踏まえて取り組んでいくべきではないかと感じています。ロボットやAIに関する基礎的な研究開発は専門チームが手掛けており、そこと連携して活動を広げていこうというような話をしています」


ソフトバンクロボティクス・ロジスティクス・イノベーション・ラボの内部。様々なロボットや自動化機器を見学、実際の効果を試すことも可能になっている(2022年9月撮影)

拙速にやり過ぎず、しかし時間はかけ過ぎず

――物流自動化というと、どうしても倉庫内のピッキングなどがまず頭に浮かびがちですが、御社の技術が活躍するのはその工程が軸になりますか。
「ピッキングだけでも十分、巨大なマーケットですし、われわれはまだ物流ロボットの領域には新規参入したばかりですから、あれもこれもというよりはまず庫内作業に絞った方がいいでしょう。ただ、われわれに関しては、事業展開の上で制限は特にありませんから、輸配送であろうが自動運転であろうが、全部やってもいいと思っています」

「法規制や技術的な成熟度の問題のほか、ビジネスモデルとして成立するかしないかという部分について、ある程度展開が見えたものは一気呵成に取り組むということを当社はこれまでにもやってきていますし、これからもそうした姿勢を継続しようと思っています。まだまだ手を出さないところもありますが、ここはやらないと決めてる領域があるんですか?と尋ねられれば、別にないですとお答えします。様々な企業の方々からいろんな形でお声掛けをいただくことが多いですから、それをきっかけに検討が始まるようなケースも多々あります」

――ロボットやAIといった先進技術は中国の存在が無視できないほど大きくなってきていると思いますが、御社が取り扱われるロボットなどについても、国は問わずに良いものを探していくというスタンスでしょうか。
「特にこのロボット・AI業界は、中国と米国がやはりものすごく強い。特に中国はコスト競争力がかなりあります。一方で日本のお客様が求めるのは単純にピッキングの精度だけではなく、サービスレベルや安全性などのリクエストが非常に厳しい。そのあたりの日本市場に入るために必要なものを追加で手掛けていかないといけません。当社は米国、中国、欧州のほぼ世界中の技術動向を網羅できていると思っていますので、そこは1つの国にこだわらずに取り組んでいきたいですね」

――従量課金制のRaaS(Robot as a Service)といった新たな形態も採用しますか。
「そうですね、先ほども申し上げた通り、われわれはビジネスモデルの作り方は非常に重視していますので、市場を活性化しながらお客様の導入ハードルを下げるようなことに取り組んでいきたいですね。お客様に提案するソリューションもそれこそ、技術の組み合わせ方は何万通りもあるでしょうから、日本にまだ入ってきていない技術を取り入れることもあるでしょう」

「もちろん、お客様の現場で新たな技術を実験する気はありませんから、市川の専用拠点であらかじめ、かなり性能などを検証した上で、お客様にちゃんとお使いいただけると確証したものを基本的にご提供します。物流ロボットなどを現場に投入するためのスピードはより高速化していけるよう取り組みたいですね」


ソフトバンクロボティクス・ロジスティクス・イノベーション・ラボのイメージ(同社ホームページより引用)

――御社のサービスを物流業界が採用した先に実現したい物流の姿はありますか。
「お客様ごとに、荷主の要求を踏まえてオペレーションを変革していきますが、本来は物流の業務自体がもっと標準化、プラットフォーム化されていき、ある程度のところまでは皆さん同じものでできます、同じソリューションでいけますというような姿にしていきたい。即日配送のような本当に差別化したい領域以外の、普通に入庫して保管して出荷して、みたいなところは伝票を全部統一しましょうとか、荷姿を統一しましょうとか、標準化をするだけで全然業務効率が違ってくるでしょう。ロボット化するにはそうした方がいいという流れです」

「オペレーションを機械でやろうとした瞬間に、ある程度標準化、共通化されればメリットをみんなで享受しやすくなる。その段階に物流業界が入っていくところをやはり後押ししていきたいですね。その結果、自動化できている業務の領域がどんどん増えて、それ以外の手でやってる領域がどんどん減ってきて、持続が難しくなってきているといわれる日本の物流が、持続可能で生産性が上がって給料も増えて、という好循環に入ることができる」

「飲食店舗ですと、店のレイアウト自体が差別化のポイントであったりするので標準化は難しいですが、倉庫は効率をとにかく突き詰めていく場所ですから、倉庫用の土地がいくらでもあって、人材も潤沢な世界にいるのであればともかく、現状の物流は本来、持続するのが難しくなっているけれども多くの日本人が勤勉で頑張って、何とか成立しているような状況なので、そこを変えていかないといけない。今は物流業界全体で新しい方向に進むべきタイミングだと思いますので、われわれとしてもロボットなどで自動化・最適化して、後押ししていきたいと考えています」

――物流施設の在り方もやはり自動化・省力化を前提にしたものが求められていますし、そこで機能を標準化していくことが重要だと思いますが、どのように感じていますか。
「各社さん、思惑と戦略がいろいろあるのは当然ですが、例えば3PL事業者さんが全ての倉庫に、別にわれわれのものだけではなく、様々な自動化の設備をドーンと入れていただいて、1つの自動倉庫で各社の荷物をどんどん取り扱い、そこに対して荷主さん側の要望もある程度のところまで標準化されていれば、大きく物流の効率は変わります。おそらく、物流業界の方々は『なぜソフトバンクが物流にタッチするのか?』と思われているでしょうし、われわれは変わったことをやる異端児のような存在ですので、われわれが起爆剤になりたい。成果をきっちりと挙げて、変わったことをやる部分をわれわれのプレゼンスにしっかりとつなげていければいいですね」

――物流領域の事業の目標として、既存のヒューマノイドなどと同じくらい、もしくはそれを超えるくらいの規模にしたいとお話されていました。期間としてはどれくらいでそのレベルまで到達できると思いますか。
「特に具体的な期間はお話していないんですが、5年ではかかり過ぎなんじゃないでしょうか。もっと短いスパンでやっていきたい。ただ、ご承知の通り、物流の自動化・省人化は1個1個のプロジェクトの実現に至るプロセスが非常に長い。始めてから半年、1年ぐらいかけてようやく契約までこぎつけられるというようなスパンです。結局、今やっていることが2~3年後に花開くというようなイメージで、そこからビジネスとしてかなり大きく成長するとなればさらにプラス数年は必要でしょう。拙速にやり過ぎず、しかし時間はかけ過ぎないようにするためのバランスをしっかり取ることが重要です」

(藤原秀行)

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