拓殖大・松田氏、東京海洋大・渡部氏、神戸大・平田氏が登壇
Shippioは3月2~3日、オンラインで大規模なカンファレンス「Logistics DX SUMMIT2023」を開催した。
国際物流とDXをメーンテーマに設定。登壇者は物流業界に加え、シンクタンクやロボットメーカー、大学、IT企業、ベンチャーキャピタルなど様々な領域から知識や経験が豊富なメンバー30人以上が集まり、物流業界が直面する人手不足やデジタル化の遅れなどの諸課題にどうやって立ち向かうか、処方箋について活発に意見交換した。
ロジビズ・オンラインでは、各セッションを順次、詳報している。第9回は3月3日に開かれた「物流におけるビッグデータ活用の最前線~ビジネスへの応用を探る!」と題したパートのやり取りを紹介する。
物流を研究対象に据えている拓殖大学商学部国際ビジネス学科の松田琢磨教授、東京海洋大学海洋工学部流通情報工学科の渡部大輔教授、神戸大学海事科学研究科の平田燕奈准教授と、気鋭の学識者3人が登壇。主催者のShippioから本間善丈Marketing Director(マーケティングディレクター)が進行役として参加した。
国際貿易の最前線でビッグデータや、多数の関係者間で情報を迅速かつ確実に共有できるブロックチェーン技術を活用しようとする動きが活発化している現状を説明した上で、3人もこうした先進技術を生かしていくことに大きな意義を見いだし、国際物流の変革を図るべきだとの見解で足並みをそろえた。また、データの分析・活用のための知識を持った先進人材育成の必要性を強調した。
セッションに臨んだ(左から)本間氏、松田氏、渡部氏、平田氏(以下、いずれもオンライン中継画面をキャプチャー)
船舶や貨物の動静データ、ニーズが明確に
冒頭、松田教授が「近年高まる動静データの管理の必要性」と題してプレゼンテーションに臨んだ。この中で船舶や貨物の現在地など動静データに関し「近年急に必要になったということではなく、動静データが使えるようになり、ニーズが明確になってきた」と語り、相当な需要が見込まれると指摘した。さらに、「単なる輸送手段ではなく、企業の戦略を実現するための重要な活動。在庫管理の基礎情報であり、調達や生産、販売に関する基礎情報」と意義を訴えた。
同時に「動静情報を物流関係者の間で、時間差なしで、同じ形で共有することは意外と難しい」と説明。2010年代前半までは公開情報として米国の税関通過時のB/L(船荷証券)データが動静情報として使われていたが「分析がすごく大変で、集約するための活動もそんなに進んでいなかった」と振り返った。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、企業が在庫をどの程度持つのかを見極めるのが難しくなっている点に言及。より正確に市場などの動静を把握しようとAIS(船舶自動識別装置)や衛星のデータを使う動きも広がっていることに触れ、「情報共有のメリットとして、関係者間で“答え合わせ”が不要になる。物流情報の可視化以外にも、手続きや決済のデジタル化などさまざまなソリューションを組み合わせて活用できる。そうすると、経営組織などいろいろなものに何らかの影響を与えると言える」と力説した。
平田准教授は、ビッグデータの規模が指数関数的に急拡大していく中で、既に活用されている統計などのトラディショナルなものとは対照的に、これまで活用が進んでいなかったデータを指す「オルタナティブデータ」への注目度も高まっていると報告した。
ビッグデータ活用の事例として、衛星データの画像を解析し、港の混雑状況を予測したり、災害時の物流インフラの状況を把握したり、代替経路を探索したりといったことを取り上げた。人工衛星にAISの受信機を搭載し、陸上から検知できない船を宇宙からフォローしたり、トラックにセンサーを取り付けてリアルタイムで輸送中のデータを収集したりしていることも紹介した。
渡部教授は、AIを活用した国際物流市況把握の試みとして、自身が国際海運経済学会で発表済みの案件を取り上げた。変動が激しく先を読むのが難しい海運市況をより正確に展望するため、今まで分析ができなかったテキストや動画といったオルタナティブデータを使うことに着目した経緯を語った。
テキストの中からどのような感情が込められているかを見る「自然言語処理における感情分析」の手法で、物流業界誌「Daily Cargo」で毎年掲載される国内主要フォワーダーを対象としたアンケート回答内容紹介の記事のうち、2015~22年のものを分析。言語理解研究所の感情分析ツール「エモレポ」を利用し、AIで国内外の物流業界関係者が自由に回答した記述意見の中で頻出する言葉をチェックしたところ、景況感の動きが自動的に可視化できたと意義をアピールした。
現場と経営層をつなぐ“ブリッジ人材”を育成すべし
その後のパネルディスカッションで、平田准教授は企業がDXを進めようとする上で、DXの導入フローを理解することが最も重要との見解を表明。まず課題を整理し、優先順位を付けた上で、社内でリソースを確保できているか、ハードウェアなど解析できる環境を整えられているかどうかを確認しながら展開していくとの流れを踏むようアドバイスした。リソースを社内で確保できない場合は外部の事業者や研究機関との連携を検討するよう提唱した。
渡部教授は、そもそも事業者らが物流のデータをどのように確保するかという点に関し「オルタナティブデータのように、これまでデジタルで存在していたが使われてこなかったデータが今のデータサイエンスの手法で活用できるようになっている。そういう点で自社のアセットを見直すことが重要」と説明。埋もれているデータの発掘を提案した。
松田教授は「文章や、過去に在籍していた人の知見なども最近はデジタル化できるようになってきている。そうしたものをデジタル化することが重要になる」と展望。「意外と世の中にはデータを分析できる人がいる。そういう人たちをどんどん雇い、他の分野からDX人材を(物流領域に)取り込んでいくのも重要ではないかと思う」と提案した。
オルタナティブデータをどのようにビジネスへつなげていけるのかという点に関し、渡部教授は「データ分析はできたがそれを現場に展開できないと、全く活用できない。分析する側もある程度、業務知識も分かった上で、かつツールとしてデータサイエンスの手法をつなぐ“ブリッジ人材”が必要になってくるのではないか。物流の中でも商流、情報流との関連性を含めて、マネジメントレベルでの取り組みも重要になってくるのかなと思う」と説明。
松田教授は「現場とマネジメントのつながりは重要。問題点を抽出した上で、データを活用できることがマネジメントとして非常に重要な役割だ」と解説。経営層や管理層がデータ活用の意識を持つよう訴えた。
平田准教授は「長期的にサプライチェーンの可視性やトレーサビリティ、情報の安全共有といった機能を提供するにはブロックチェーンが不可欠」と指摘。自身がかつて携わっていた、A.P.モラー・マースクとIBMが共同で推進していたブロックチェーンの活用による貿易情報共有システム「トレードレンズ」の終了が決まったことを受け、「ブロックチェーンの社会実装の道のりはちょっと長くなってしまうかもしれないが、いずれは必ず普及していくと思う」と前向きな見方を示した。
(藤原秀行)