【Shippio「国際物流DXサミット」詳報10・完】佐藤CEO、大団円で「24年の第2回開催」を宣言

【Shippio「国際物流DXサミット」詳報10・完】佐藤CEO、大団円で「24年の第2回開催」を宣言

物流DX後押しするソリューション群も紹介

Shippioは3月2~3日、オンラインで大規模なカンファレンス「Logistics DX SUMMIT2023」を開催した。

国際物流とDXをメーンテーマに設定。登壇者は物流業界に加え、シンクタンクやロボットメーカー、大学、IT企業、ベンチャーキャピタルなど様々な領域から知識や経験が豊富なメンバー30人以上が集まり、物流業界が直面する人手不足やデジタル化の遅れなどの諸課題にどうやって立ち向かうか、処方箋について活発に意見交換した。

ロジビズ・オンラインでは、各セッションを順次、詳報している。最終回の第10回では、一連の議論やプレゼンテーションを踏まえ、主催者を代表してあいさつしたShippioの佐藤孝徳CEO(最高経営責任者)の、思いを込めたメッセージを取り上げるとともに、セッションの中で登場した、物流のDXを成し遂げていく上で威力を発揮しそうなソリューションについても紹介する。

佐藤CEOはダイバーシティの確保や人材の流動性などが、物流の変革を進める上で取り組むべきアジェンダだということが、今回のカンファレンスを通じて明確になったと強調。2024年に第2回を開催すると宣言した。


佐藤CEO(以下、いずれもオンライン中継画面をキャプチャー)

「ロボットプラットフォーマー」を目指す

初日の3月2日には、まずラピュタロボティクスのモーハナラージャー・ガジャンCEOが登場し、「物流DXを推進するラピュタロボティクスの挑戦」と題してプレゼンテーションした。

ガジャンCEOは、同社が目指すところとして、単なるハードウェア提供にとどまらず、高機能のピッキング支援AMR(自律移動ロボット)複数台を円滑に運用できるソフトウェアも含めてトータルでロボティクスを支援していく「ロボットプラットフォーマー」と表現。

具体的には、倉庫内の多種多様なロボットの運用効率性を包括的に高める「rapyuta.io」と、多数のロボットをスムーズに動かす群制御AIを組み合わせることで、AMRやAGV(無人搬送ロボット)、自動フォークリフトなどを協調して稼働させることが可能になると説明した。

人手不足に見舞われている物流業界についても解説。倉庫のパートタイマーのボリュームゾーンは男性が60代、女性は40代のため「手荷役だと敬遠されてしまうことが多い」と指摘、AMR活躍の余地が大きいとの見方をにじませた。

自社開発のAMRは導入に至るまで既存の庫内オペレーションを止める必要がないことなどを利点として強調。自社の取り組みを踏まえ、荷主企業などがAMR導入に失敗しないよう、まず試用期間で生産性向上の効果を発揮できるかどうか見極めてから本格導入するとの流れが有効と指摘した。


ガジャンCEO

納期情報を核にしてデータ連携

続いて、「DXを活用した貿易事務効率化への取り組み」にフォーカスし、安田倉庫とジョンソンヘルステックジャパン(JHTJ)、Zenport(ゼンポート)の3社が連携して進めた業務効率化の取り組みを報告した。安田倉庫の日比野洋之国際営業部長が進行役を務め、同社の山田勝彦国際輸送センター長、JHTJオペレーション本部完成品ロジスティックス課の松尾崇史氏、Zenportの太田文行代表取締役が参加した。

太田氏は納期情報を核にして、輸出入事業者らを結び付ける貿易関連のデータ連携システムを展開、顧客の業務自動化を支援していることに言及。データを自動連携し、納期を可視化すると同時にメッセージや書類のやり取りも一元管理できるようにしていると強調した。

Zenportのシステムを荷主のJHTJと物流事業者の安田倉庫が活用。山田氏は新型コロナウイルス感染拡大と国際物流混錬を受け、リモートでも実行可能な業務への体制変革と担当者の業務負荷軽減を目指してZenportのシステム利用に踏み切ったことを紹介。多岐にわたる関係者間のコミュニケーションの円滑化・改善などを実感しており、業務に要する時間が半減できていると説明した。今後の課題としては「情報の見える化が(意識の)分散リスクにもつながるのではないか。問題が起きても、誰かが対応してくれるだろうとなりがち」などと分析、機能向上に期待を示した。

JHTJの松尾氏は、Zenportのシステム利用の背景として、貿易事務効率化が以前から大きな課題として存在していたと報告。クラウドにアクセスするという利用開始のハードルの低さなどが魅力に映り、導入を決めたことに言及した。「情報管理では非常に大きなメリットがあると感じている。一括で共有できるようになり、各段に連絡系統はスムーズになったと感じている。8割くらいメールが減った」と語った上で、今後もリアルタイムで正確な情報を得ることに引き続き大きな期待を表明した。

太田氏は新型コロナウイルス禍でサプライチェーンの重要性があらためて認識されたと指摘。「これまで立場の異なる方々が一緒に使っていただけるサービスを作ってきたが、さらにリアルタイムでいろいろな情報がアップデートされ、連携も自動化していく世界を実現していきたい。皆様にとってわれわれはパワードスーツのような存在になりたい」と語った。


(左から)安田倉庫・日比野氏、Zenport・太田氏、安田倉庫・山田氏、JHTJ・松尾氏

SNSの投稿がサプライチェーンの混乱を救う

2日目の3月3日は、SNSの投稿などを分析して事件事故や災害の発生を迅速に察知しているスタートアップのSpectee(スペクティ)の村上建治郎CEOが登場。「AIを活用したサプライチェーンの危機管理ソリューション~Specteeが実現する物流被害の可視化からリスク予測~」と題してプレゼンテーションに臨んだ。

村上氏は、東日本大震災で防災の重要性を実感したことが現在の事業立ち上げの原点になったと振り返った。SNSの投稿や気象情報など広い情報源から情報を組み上げていることを強調し、「物流・サプライチェーンのリスクマネジメントとして使う企業が増えてきている。自社だけでなくサプライヤーさんや物流の会社さんなどいろんな企業がかかわっており(動向の把握は)非常に難しい」と意義を説明。

大量の情報の中には、作為的に捏造されたデマやフェイクが含まれているほか、誤認した情報もあることについては、AIの解析と人手によるダブルチェックを施しているとアピールした。


Spectee・村上氏

次に、オプティマインドの吉川治人COO(最高執行責任者)、トレードワルツの染谷悟COO兼CMO(最高マーケティング責任者)兼グローバル&アライアンス事業本部長、ゼロボードの渡慶次道隆代表取締役が顔を揃え、「厳選!物流NEXT LEADERS ~スタートアップと次世代物流の可能性~」とのタイトルのセッションに参加した。

吉川氏はAI自動経路作成ソリューション「Loogia(ルージア)」の利用が、運送事業者らの間で広がっていることをPR。車両運行の効率化で既存車両を大幅に削減きせたといった成果に触れ、CO2削減効果にも注目することが可能と強調した。


吉川氏

染谷氏はブロックチェーン技術を駆使し、船会社や金融機関、輸出入事業者といった貿易に携わる多くの関係者が迅速に情報を共有できるシステム「TradeWaltz(トレードワルツ)」に言及。業務のデジタル化で貿易手続きにかかる時間を44%短縮したといった効果を列挙した。利用を促進する「コンソーシアム」にも2月時点で180の企業や団体が加入するなど、多様な業界から注目されていることにも触れた。


染谷氏

初日の3月2日に続いて登壇した渡慶次氏は「気候変動を社会の可能性に変える」とのミッションを宣言。自社の事業活動をはじめ、日々サプライチェーンを運営する中で生み出される温室効果ガスの量をより正確に測ることで、脱炭素の事業活動を後押しし、各企業の社会的な価値を高められるとサービスの価値をアピールした。


渡慶次氏

キーワードは「創造的新陳代謝」「協調と共創戦略」「ダイバーシティ」など

最後に、主催者を代表してShippioの佐藤孝徳CEOが登場し、視聴者と登壇者への謝意を表明した。佐藤氏は登壇者の議論やプレゼンテーションを俯瞰し、「創造的新陳代謝」や「産業をアップデートするための協調と共創戦略」、「イノベーションに向けた経営のコミットメント」、「ダイバーシティ(多様性)」といったキーワードを列挙。

「今回の対話やディスカッションを通して、物流業界は今、意思を持ったトランスフォーメーション(変革)が必要な時期に来ており、その変革は既存企業の内側の制度や、その制度が育ててきた画一的な人材ではなく、スタートアップとの連携や、M&Aを通じた人材の流動性、ダイバーシティがドライブ(推進)するだろうと思っている」との見解を示した。

さらに、見えてきた物流の未来として「これまでの物流業界でも議論されてきた、いかに人材流出を防ぐかということに焦点を当てるのではなく、いかに多様な人材を集め、多様性という方向へ新陳代謝していくのかという議論に切り替えていく必要がある」と持論を展開した。

続けて、変化を望まない顧客といった、物流のDXを拒む要因を突破していくために「ノウハウを持った企業からのスピンオフ、スピンアウトによる新規事業も重要」と分析。邦船大手3社がコンテナ船事業を統合して誕生したOcean Network Express(ONE)などの名前を挙げ、「既存企業の中の意思決定のスピードや人事評価ではできないチャレンジを、社外のイノベーターとともに外へ切り出して、実験的な試みに挑戦し、うまく行った暁にはきちんとお金を出してその会社を買い戻すといったダイナミックな事業の作り方も次の物流の在り方ではないか。社内の若手・中堅社員に経験を積ませることが可能となり、結果として企業・産業の新陳代謝にもつながる」と提唱した。

また、ソニーの事例に触れながら、創業者の理念が今も生き続けている企業には競争力が生まれると強調。創業理念や企業の存在する目的を明確にし、従業員の間に浸透させていくことが物流業界でも必要になってくる可能性があると予想した。

最後に、今回のイベントは2023年時点で物流業界が取り組んでいくべき大きなアジェンダの存在を確認できたと総括。その内容を基に、24年に第2回のサミットを開くと宣言、幕を閉じた。

(藤原秀行)

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