【快調連載!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

【快調連載!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

第4回:米中の「経済デカップリング」はあり得るか

国際政治学に詳しく地政学リスクの動向を細かくウォッチしているジャーナリストのビニシウス氏に、「今そこにある危機」を読み解いていただくロジビズ・オンラインの独自連載。4回目は最近耳にすることが多くなった、米中という世界2大国が経済を「デカップリング(分断)」するという事態が起こる可能性があるのかどうかを解説しました。ぜひご一読ください。

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プロフィール
ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。

誰が大統領になっても対中強硬姿勢は継承

21世紀に入り、中国が政治経済的な台頭を顕著に示すにつれ、米国は中国への警戒感を強め、「米中の経済デカップリング」という言葉があちらこちらから聞こえるようになった。これまで筆者は大学やシンクタンクが主催する様々な米中会議に参加してきたが、経済デカップリングという言葉を聞かなかったことはほぼない。

デカップリングとは、文字通り「切り離し」を意味しており、実現すれば米中双方が経済的に互いを切り離し、究極的には米国は米国で、中国は中国でそれぞれの経済圏を築くこととなる。ここでは、米中の経済デカップリングの行方について簡単に説明したい。

まず、歴史的経緯となるが、中国が経済的に台頭する中、米国はいつか一党独裁体制の中国も市場経済や自由貿易における国際的ルールを遵守し、人権や自由、民主主義といった普遍的価値を受け入れていくだろうという期待を持っていた。しかし、中国が力を付けていくにつれ、その期待は裏切られていくことになった。

それは中国による現状変更によって拍車が掛かり、オバマ政権の対中関与政策は甘いと共和党陣営から反発が強くなっていった。その後誕生したトランプ政権下では、誰もが知る米中貿易摩擦が激しくなり、それは今日のバイデン政権にも受け継がれている。

例えば、2021年12月にバイデン大統領が署名して成立したウイグル強制労働防止法が昨年6月に施行された。これにより、米国へ輸出する際、企業には製品が生産過程で強制労働によって生産されたものではないことを明確に証明することが義務化され、それができない場合には製品の輸出が禁止されることになり、企業は重荷を負うようになった。バイデン政権は人権問題で中国に圧力を掛けており、新疆ウイグルの人権問題と関連付け次々に中国への貿易規制を行っている。


貿易をめぐって対抗措置が続く(イメージ)

中国もそうした動きに対抗している。例えば、2021年6月、外国からの制裁に対する中国の対抗措置を定めた反外国制裁法を異例のスピードで可決・施行した。同法は「中国が外国から不当な制裁や内政干渉を受けた場合、中国国内にある該当企業の資産凍結、中国企業との取引中止、関係者たちの国外追放や入国禁止などで対抗できる」と規定。さらに、「外国政府による不当な制裁に第3国も加担すれば、中国はその第3国にも報復できる」と明記しており、日本企業の間でも懸念の声が強まっている。

また、バイデン政権は昨年10月、先端半導体の技術が中国に流出し、それが軍事転用される恐れを警戒し、対中半導体輸出規制を発表した。しかし、米国一国による規制では中国による先端半導体獲得を阻止できないと判断したバイデン政権は今年1月、その製造装置で高い世界シェアを持つ日本やオランダに対し、同規制に同調するよう事実上の圧力を掛けた。その後、両国とも米国の要請を受け入れ、日本も最先端の半導体製造装置など23品目について対中輸出規制を敷くことを発表した。

トランプとバイデンは性格や掲げる理念、政策がまるで異なる。しかし1つ共通点を挙げるとすれば正に対中国の強硬姿勢だ。米議会だけでなく米市民の間でも中国警戒論が拡大する中、バイデン政権後にどんな大統領が誕生しても、おそらく中国への厳しい姿勢は継承されることだろう。よって、トランプ、バイデン以降も中国への貿易規制は維持され、今後も拡大していく可能性が現時点で高いと言えよう。

しかし、その終着点が経済デカップリングになる可能性は低い。今年2月、昨年1年間の米中間の貿易総額が過去最高になり、ハイテク分野を中心に激しく対立する中でも両国の経済が密接に結び付いている実態が浮き彫りになった。米商務省によると、2022年のサービスを除いた貿易額が日本円で91兆円余りに達し、前年を5%近く上回った。

今後は、米中間ではデカップリングが進む領域とそうではない領域の違いが顕著になる可能性があり、デカップリングが進んだとしてもそれは部分的デカップリングであり、全体的デカップリングではないだろう。これが最も現実的なシナリオだ。

次回に続く)

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