【気になる連載!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

【気になる連載!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

第7回:中国のガリウム・ゲルマニウム輸出規制は軽視すべからず

国際政治学に詳しく地政学リスクの動向を細かくウォッチしているジャーナリストのビニシウス氏に、「今そこにある危機」を読み解いていただくロジビズ・オンラインの独自連載。7回目は中国の気になる輸出規制の動きが持つ重要な意味を解説しています。必読です!

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プロフィール
ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。

日米への中国の不満は沸点に達しつつある

中国は8月1日、希少金属であるガリウムとゲルマニウムの輸出規制が開始した。ともに半導体製造には不可欠な存在だ。中国は世界のガリウム生産の9割、ゲルマニウムの7割を占め、日本はガリウムを中国に依存している。中国から今後ガリウムとゲルマニウムを諸外国へ輸出する際、事前に中国政府へ申請する必要があり、中国政府はそれに基づいて輸出の是非、輸出量を判断することになる。

現状、日本企業の間では輸出規制の影響は限定的との見方が強い。しかし、この問題が長期化してくれば、代替的調達先の確保など企業の経済活動にじわじわと影響が広がってくる恐れがある。

日本企業は決して、中国によるガリウム・ゲルマニウム輸出規制を“対象は極めて限定的で我々の業界に影響はない”、“備蓄もあり中長期的に代替的調達先を確保すればいい”などと軽々に捉えてはならない。地政学的に考えると、ガリウム・ゲルマニウム輸出規制はそれのみで終わらない問題だからだ。


半導体製造に不可欠な希少金属の輸出規制の影響はいかに(イメージ)

中国がガリウム・ゲルマニウム輸出規制を発表した背景には、昨年秋以降激化している、先端半導体を巡る米中覇権競争がある。バイデン政権は昨年秋、先端半導体が中国によって軍事転用されるのを防止するため、同分野における対中輸出規制を強化した。さらに今年に入り、先端半導体の製造装置で高い世界シェアを誇る日本とオランダに足並みを揃えるよう呼び掛け、両国とも応じた。日本は7月下旬から先端半導体関連23品目で対中規制を開始した。

米国の規制とは、要約すれば中国に先端半導体(その材料や技術、技術者含め)を絶対に渡さない、作らせない、ヒントを与えないための措置である。今日、中国は半導体分野で米国や台湾、韓国や日本などと比較すればかなり後れをとっているが、人民解放軍のハイテク化を押し進めたい習政権としては是が非でも獲得しなければならないもので、中国の米国や日本への不満が沸点に達しつつある。

今回のガリウムとゲルマニウムの輸出規制は、トランプ政権以降激化する米中貿易摩擦の中の要素の1つに過ぎない。要は、相手国をけん制するための手段であり、たとえば今後はガリウムとゲルマニウムの輸出規制内容を突然厳しくしたり、輸出自体を完全にストップさせたり、他にも日本が中国に依存しており代替先確保が難しい品目を狙って新たに規制を強化するといった経済的威圧が仕掛けられるリスクがある。

日本企業は、先端半導体は中国が“ほしい心臓部分”と認識していい。米中間では様々な規制の応酬が続いているが、中国にとって最も規制してほしくないのが先端半導体分野であり、極めて根深い政治問題と認識する必要があろう。たとえば、米国が中国産の農産品(米国以外に買ってくれる顧客が見込まれる農産品など)の輸入をストップする、米国が特産品トウモロコシの中国向け輸出をストップさせるといったシナリオでは、中国側の不満もそれほどではないだろう。

地政学的視点からも、半導体分野は米中の最大問題である。ガリウム・ゲルマニウムの輸出規制はその中にあり、今後さらに影響が拡大する可能性を日本企業は注意すべきだろう。

(次回に続く)

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