日本大・小早川教授が提唱、建物側の配慮や地域ごとの取り組みにも期待
地区交通計画や物流を専門とする日本大の小早川悟教授はこのほど、ロジビズ・オンラインのインタビューに応じた。
集配センターからテナントや店舗などに納品する「端末物流」に関し、都市部でトラックの路上駐車が渋滞を引き起こしたり、人の円滑な歩行を妨げたりするといった問題が頻発している現状を受け、貨物車の荷さばき駐車スペースが十分確保されていない課題を指摘。乗用車向けの駐車スペースを貨物車向けに転用するなどの対応を講じるよう提案した。
また、個々の商業施設などの建物ベースで対策を考えるだけではなく、地域ごとに実情を踏まえ、関係者が連携して共同で使える荷受け施設整備といった施策を進めることが重要と説明。トラックドライバー不足の改善が今後も期待できず、物流の安定供給維持に不安が高まっている中、納品される建物側も物流事業者に配慮することへの強い期待を表明した。
日本交通政策研究会のシンポジウムで基調講演に臨む小早川教授
テナント企業にメリットある制度の枠組みを
小早川教授は交通政策の研究・提言などを担う日本交通政策研究会が3月に開いた都市内の端末物流改善の方策を議論するシンポジウムの終了後、取材に応じた。小早川教授も同研究会の会員。
シンポジウムでは、小早川教授が2014年に発表された「第5回東京都市圏物流流動調査」の結果を説明。運輸事業者と商業者の間で荷さばきスペースの不足などについて意識の乖離が見られることなどを紹介。都心の区などで建物への駐車施設付置義務を緩和する動きが出ていることにも言及した。
このほか、駐車場が非常に不足していた高度経済成長期に付置義務が導入されたが、最近は民間の車の需要が伸び悩んでおり、駐車場の整備に関する独自の地域ルールを取り入れる動きが見られることなども説明された。
小早川教授はこうした現状を踏まえ「これまで駐車場整備はどうしても乗用車に目が行きがちだった。今、乗用車用の駐車場が余り始めている中、利用が減るからといってそのままスペースを削減したり、なくしてしまったりするのではなく、いかに貨物車が使えるように転換していくかを工夫するのが知恵の出しどころだ」と述べた。
その上で、新たに駐車場を整備する際、貨物用の割り当てを増やすことなどを提案。「ビルや商業施設のテナントにとってメリットが出るような制度を設計する必要がある。メリットを享受できればテナント側も(貨物用駐車場整備を)やらないということにはならないのではないか」との見方を示した。
併せて、「パーキングメーターのような時間制限駐車区間は警察の管轄だが、道路管理者も現行法の中で同様のものを作ろうと思えば作ることができる。新たに法律を作成するとなると非常に時間を要するので、既存の枠組みを有効活用すべきだ」と持論を展開。既存の法律や条例などを最大限生かして迅速に解決策を講じるようアドバイスした。
将来は「物流に優しい」がテナントに選ばれる時代も
このほか、物流事業者が商業施設などの複数のテナントに荷物を集荷・配送する「館内物流」を活用し、荷さばきを迅速化・効率化することも有効との見方を示した。
さらに、ドライバー不足の現状を踏まえ、端末物流自体も見直す余地があるとの問題意識を提示。例として納品回数の削減や時間変更、事前検品の導入、共同配送の推進などを挙げ、「商習慣を少し変えてみるとか、配送の仕組みを変更するといったことを考えていく上で、20年の東京オリンピック・パラリンピックはきっかけにしやすい。その成果を25年の大阪万博につなげていければいいのではないか」との認識を示した。
その上で「簡単に荷物を積み下ろしできる建物の方が物流事業者にとっても良いのは間違いない。荷さばき用エレベーターが整備されていたり、共同配送が行われていたりといったように、端末物流に配慮した建築物の方がテナント企業に選ばれる時代が将来訪れるかもしれない」と展望。不動産価値を上げるという観点から端末物流への配慮が広がることにも期待を示した。
(藤原秀行)