出版改革の一環、読者の需要に応じた商品供給強化目指す
トーハンと大日本印刷(DNP)は10月23日、「トーハン桶川センター」(埼玉県桶川市)に書籍製造ラインを導入する協議を開始することで合意したと発表した。
取次の流通拠点内で書籍製造を行うのは国内で初めて。書籍の販売機会増大を狙っている。新たな製造ラインは「DNP久喜工場」(埼玉県久喜市)のデジタル製造機械の一部を移設する予定。2025年度中の運用開始を目指す。
その前段として、24年夏をめどに桶川センターの在庫管理システムを全面的にリニューアルする。トーハン桶川センター全体が書籍デジタル製造ライン・桶川書籍流通センター(SRC)・ブックライナー(読者注文品専用の流通システム)とも連動できるようにし、読者や書店の注文に対する「充足率の最大化」「調達リードタイムの最小化」を目指す。
両社は2021年、出版流通改革に向けた協業を開始した。読者と市場の需要に応じた商品供給を強化し、書店などの欠品を減らすことで、販売機会の増大につなげるのが狙い。
返品率が10%以下と言われるドイツの出版流通構造を参考に流通基盤を再整備し、現状は30%を超える国内の返品率を低減したい考え。また、返品する書籍の輸送や断裁などに伴う環境負荷の低減も狙う。
販売機会の増大などを図るため、両社は少部数から印刷するPOD(Print on Demand)技術を用いた「桶川書籍デジタル製造ライン」の新設を計画している。出版社と連携して、書籍製造用のコンテンツデータを預かり、需要に応じて少部数にも対応した印刷・製本を行い、注文から短時間での出荷・販売を実現することを念頭に置いている。
全国の書店に配送する拠点のトーハン桶川センターで書籍を製造することで、製造と流通の連動を強化し、デジタル印刷を取り入れた柔軟な供給体制を構築する。読者の満足度を高めるとともに書店や出版社の販売機会拡大を図る。
また、これまで一時的な欠品や供給過剰によって発生していた返品の削減につなげ、出版サプライチェーン上の各プレーヤーの収益構造を改善する。
重版未定や絶版の書籍を減らし、デジタル印刷により多様なコンテンツを柔軟かつ持続的に販売できる仕組みを構築することで、読者が多様なコンテンツに触れる機会を担保し、また著者に収益を還元して創出される商品を産み出す。供給の拡大にも貢献し、出版文化の発展を後押ししていきたい考え。
(藤原秀行)