【独自】パイオニア、ルート最適化で「2024年問題」や脱炭素への貢献図る

【独自】パイオニア、ルート最適化で「2024年問題」や脱炭素への貢献図る

APIで物流事業者やスタートアップが利用容易に

パイオニアは、トラックドライバーの長時間労働規制強化に伴う物流現場の混乱が懸念されている「2024年問題」など、物流業界が抱えている諸課題の解決を後押しするため、効率的な輸送経路を自動で計算するルート最適化や位置情報の技術を最大限活用していく方針だ。

同社は30年以上積み重ねてきたカーナビゲーションシステム開発のノウハウを注ぎ込み、様々な車両向けサービスを提供できる技術基盤「Piomatix(パイオマティクス)」を構築。その一環として、API連携でルート最適化などの技術を物流事業者らが利用できる「Piomatix LBS API」の提供を2022年に開始した。ラストワンマイルにとどまらず、幹線輸送も効率化の対象になるため、2024年問題対策として活用できると見込む。

既にスタートアップと大手商社が組んでAPIで利用し、クラウド型の最適配送計画サービスとして展開したり、タクシー業界の業務効率化を手掛けるスタートアップが配車最適化のために導入したりと採用が広がりつつある。温室効果ガス排出削減を後押しし、脱炭素の推進にも貢献していくことを主眼に置いている。

到着時間の予測精度は97%

パイオニアが2019年10月に立ち上げた社内カンパニー「モビリティサービスカンパニー(MSC)」は、同社が蓄積してきたカーナビなどの「モノ」(ハード)と、「コト」(サービス)を組み合わせ、車両の運行効率化などを実現していくことを目指している。Piomatixもその一環として位置付けている。

Piomatix LBS APIは、まず「ルート探索API」、「巡回最適化API」、「ルートマトリクスAPI」という3つのサービスでスタートした。このうちルート探索は出発地から目的地までの最適なルートを算出。巡回最適化は最大200地点までの最適な巡回順序を計算する。ルートマトリクスは複数地点間の運行距離や所要時間を高い精度で割り出す。

パイオニアはルート探索技術に関し、80件以上の特許を保有している。そうした数々の知見をベースにして、右左折の頻度、車両の横付けしやすさ、大型車の交通規制といった考慮可能な項目を多数設定、クリアできるようにしている。パイオニアMSC新規事業統括グループの松山雄一郎統括部長は「日本の交通環境に最適化したルート検索になっている」と自信を見せる。


Piomatix LBS APIの3つのサービス(パイオニア提供)

また、約3万通りの右左折時のパターンと回数に応じた時間を加味し、実際の到着時間に近い予測を可能にしており、精度は97.2%と説明。長年のカーナビなどの運用を通じてVICS(道路交通情報通信システム)を上回る日本の主要道路約70万kmをカバーした渋滞情報や、多様な走行履歴のデータを駆使し混雑している箇所を予測、回避する。

松山統括部長は「3種類のサービスをAPIで提供することで、配送業務のパフォーマンス向上や安全性の高いルートの作成、配達先の満足度向上といった効果が期待できる」と力説している。ラストワンマイルに加え、幹線輸送についても、車両の通行制限といった諸条件を踏まえ、安全性の高い輸送ルートを組むことが可能で、長距離輸送の時間制限にも対応できるとみている。

こうした効能に着目し、配送のマッチングなど小売事業者や物流事業者向けの包括的な物流効率化支援サービスを展開しているウィルポートが豊田通商と連携してAPIでパイオニアのルート探索機能を活用。昨年11月に最適な配送計画を作ることができるサービスとして提供を開始した。今年2月までの時点で、サービス利用者は配達指定時間に対して物流事業者らが94%の精度で実際に配達できたほか、総配送時間は約12%短縮し、総配送距離も約20%減らせたという。

また、タクシー会社向けにクラウド型の配車システムを展開している電脳交通(徳島市)も昨年11月、ルート探索の活用をスタート。タクシーを呼んだ利用者との待ち合わせ場所へ迅速にドライバーが到着できるよう、最適なルートと所要時間を割り出している。

3つのサービスに関しては、さまざまな業種・業態特有の制約事項を考慮し、さらに最適なルートを考案できるよう計算時のパラメーターを利用者の要望に応じて修正するサービスもオプションで提供している。松山統括部長は「ルーティングのエンジニアを多く抱えているからこそできるチューニングであり、当社の差別化の大きなポイントになる」との見方を示す。物流以外の領域でも、例えば訪問・送迎サービスに関し、滞在時間を考慮し、無理のない運行ダイヤを組めるようになるなどのメリットを見込む。

EVの有効活用を後押し

パイオニアはPiomatixの一環として、22年に新たなクラウドベースのサービス「Piomatix for Green」を始めた。これは、同社が独自に開発した、ガソリン車と電動車の両方でメーカーや車種を問わず、燃費や電力消費率、CO2排出量を高い精度で推定できる技術を生かし、多様なソリューションを構築できるのが特徴だ。

国際航業がPiomatix for Greenの枠組みを使い、EVの出庫・帰庫のタイミング(駐車時間帯)や帰庫時のEV充電状態などを予測できるサービスの提供を目指している。実現すれば、EVをより有効に使えるようになると見込む。地図大手のゼンリンともPiomatix for Greenを使い、最適なEV充電施設を経由するルートを案内したり、自治体・企業が保有する車両をEVへ置き換えた場合にCO2排出削減や経済効果をどの程度得られるかシミュレーションしたりできるサービスの構築を進めている。


Piomatix for Greenのイメージ(パイオニア提供)

松山統括部長は「社会的な要請を踏まえ、企業の間でスコープ3までを含めたサプライチェーン全体のCO2削減目標を明示される動きが加速している。そうした観点からもEVの利用は一定程度進んでいくと考えている。オープンイノベーションによる他の企業との協業と、われわれ独自の事業と両方の流れで進めていきたい。環境対応の部分は非常に広がりが大きい分野なのではないか」と期待を見せる。

Piomatixでルート最適化による配送距離短縮で温室効果ガス排出削減など、脱炭素に貢献できるサービス内容がさらに広がってきそうだ。

(藤原秀行)

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