【独自】オルビスとDATAFLUCTがAIで梱包サイズ最適化、荷主の立場で「2024年問題」対応に貢献目指す

【独自】オルビスとDATAFLUCTがAIで梱包サイズ最適化、荷主の立場で「2024年問題」対応に貢献目指す

実証実験は注文の15%でサイズダウン成功

ポーラ・オルビスホールディングス(HD)傘下で化粧品などを手掛けるオルビスは、ビッグデータ分析などを手掛けるスタートアップのDATAFLUCT(データフラクト)とタッグを組み、ECで商品を届ける際の梱包サイズ最適化に取り組んでいる。AIを活用し、出荷時に最適な梱包を自動算出するシステムを構築した。

サイズダウンにより配送コストを最適化するのが狙いだ。実証実験の結果、注文を受けた出荷件数の15%でサイズを小さくすることに成功した。トラックドライバーの長時間労働規制に伴い物流現場の混乱が懸念されている「2024年問題」を受け、荷主の立場から配送効率化によるドライバーの負荷軽減にも貢献したいと張り切っている。

(この記事は弊社「月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)」2023年11月号に掲載した記事を一部修正の上、再掲載しました。役職名などは雑誌掲載当時のものです)

グループ全体にAI活用の機運広がる

オルビスは化粧品や健康食品、ボディウエアなどを通販と直営店舗の両方のチャネルで販売しているほか、BtoBの卸向けにも出荷している。トラックドライバーや庫内作業スタッフの人手不足があっても安定的に出荷し続けられる体制を構築するため、物流業務の自動化・省力化を本格的に展開している。

これまでにも東日本エリアを担当している埼玉県加須市の「オルビス東日本流通センター」で、アルプス物流子会社の流通サービスやマテハン機器大手の椿本チエイングループの協力を得て、通販向け出荷ラインに300台以上のAGV(無人搬送ロボット)を取り入れて作業のスピードを早めたり、直営店舗やBtoBの卸向け出荷ラインに最新のAMR(自律移動ロボット)を導入してピッキングの負荷軽減を図ったりしてきた。

オルビスSCM部ロジスティクス管理グループの柳田和宏グループマネジャーは「(数年前に顕在化した)『宅配クライシス』が取り組みを加速させる契機になった。このままでは荷物を届けられなくなるのではないかと強い危機感を覚えた」と振り返る。

さらに業務の効率化を進める上で、新たなテーマとして「梱包のサイズダウン」に焦点を当てた。物流関連のコストが上昇する中、梱包のサイズを小さくし、配送費や資材費を抑えることを目指した。そのため、ビッグデータ分析などを手掛けるスタートアップのDATAFLUCT(データフラクト)と組み、AIを使って最適な梱包サイズを自動で算出するシステムの構築に乗り出した。

ポーラ・オルビスグループではもともと、オルビスがAIで10年後や20年後にどのような肌状態になるかを予測するアプリ「AI未来肌シミュレーション」を開発したり、ポーラ化成工業がコンピューターシステムの企画・開発などを手がけるSBXと連携し、化粧品の原料の処方案を入力するとどのような感触になるかデータを提示できるシステム「感触づくりAI」を生み出したりと、事業でAIを積極的に活用しようという機運が高まっていた。

その延長線上でポーラ・オルビスHDとデータフラクトは22年4月、事業提携を開始。ポーラ・オルビスグループの各社が展開する事業で得られた購買データを分析し、顧客との結び付き強化やサプライチェーン運営の最適化などにつなげられるよう検討することで合意した。


オルビスの梱包作業イメージ(オルビス提供)

オルビスの出荷ラインでは、以前は庫内作業スタッフが注文票を見て、商品のサイズや個数などを考慮し、複数ある梱包サイズの中から最適なものを選択していた。非常に属人的な作業となっていた。

10年ほど前に、商品の体積を計算して箱の容積と比較、どのサイズの梱包を使うべきかを判定するシステムを独自に構築し、出荷ラインの作業スタッフに表示することで作業の効率化を後押しできるようにしてきた。

しかし、判定の精度には課題があり、システムが推奨する梱包サイズと現場のスタッフの経験に基づく肌感覚の間にずれが生じていた。オルビスが調査したところ、システムが表示した梱包サイズのうち、3割程度で作業スタッフが独自に判断して表示したものとは異なるサイズの梱包を選んでいることが判明した。

必要以上に大きな梱包を使い、コストアップになっている可能性があった。オルビスはデータクラフトからデータ分析などの面で協力を得て、梱包サイズの適正化により本腰を入れることにした。

柳田グループマネジャーは「データフラクトさんは(膨大なデータを解析し、社会課題解決に役立てる)データサイエンスに強いことが魅力だった。物流にも詳しく、現場での活用を重視していることから、より精度の高い予測を実現できると期待した」と言う。

国内全ECへの拡大目指す

データフラクトの機械学習サービス「Perswell」とデータプラットフォーム「AirLake」を用いて、オルビスの商品や出荷、梱包材の価格に関するデータを基に、出荷案件ごとにAIで最適な梱包サイズを自動的に算出、瞬時に作業スタッフへ通知するシステムを構築した。

提案する梱包のサイズは商品が破損しないよう、ぎっちりと詰め込むのではなく適度な余裕を持たせた上で最小のものを選ぶようにした。大きさなどの理由でそのままではケースに詰められないアパレルなどの商品については、折りたたんで入れている。

このシステムをECの出荷ラインに設置すれば、作業スタッフは梱包のサイズに頭を迷ませることなく出荷作業に集中できるようになる。経験を積んでない新人のスタッフでも即戦力として活躍できるようになることを期待した。

今年2月から6月にかけて、物流拠点の出荷ラインで実証実験を行った。その結果、注文の約15%で、旧来のシステムで判定した場合よりも小さいサイズの梱包で発送できた。事前のシミュレーションでは年間2000万円程度の配送費削減が可能という予測だったが、それ以上の効果が期待できそうだ。


梱包サイズ最適化のイメージ(DATAFLUCT提供)

柳田グループマネジャーは「2024年問題を踏まえて、荷主の立場から配送効率化によるドライバーの方々の負荷軽減にも貢献していけるのではないか」と笑顔を見せる。2023年度中にはオルビスが取り扱う国内の全EC商品を対象に、発送時に今回のシステムを活用していくことを目指す。

今回のシステム開発に携わったデータフラクトの瀬沼健吾エンジニアリングユニット執行役員は「われわれとしても梱包最適化にチャレンジしたのは今回が初めてだった。最適な積み合わせを考えるのは非常に難しいが、海外の論文などを参考にしてアルゴリズムを作り上げた。この経験をこれからも生かしていきたい」と今後を展望している。

データフラクトは今年11月、機械学習と外部データ活用による物流DX支援ソリューションの提供を開始すると発表した。「積み付け最適化」「配送ルート最適化」「ピッキングルート最適化」から成り、自社でシミュレーションした結果、積み付けと配送ルートの最適化を組み合わせることで、利用するトラック台数を10%以上削減することも可能という。今後は梱包最適化がこうしたソリューションのラインアップに加わることも期待できそうだ。

(藤原秀行)

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