国内初の孤立エリアに医薬品、復旧工事への活用も
能登半島地震の発生から1カ月が経過した。もともと能登半島は平地が少なく、本数が限られているアクセス道路が壊滅的な被害を受けたことなどから、救援活動や支援物資輸送が滞り、現地の被災者も厳しい生活を強いられている。
そうした苦境の中、今後に期待を持てるような動きも見られる。甚大な被害が生じた石川県内の自治体からの要請を受け、ドローンを使い必要な物資を孤立したエリアに届けたり、被害状況を空から把握したりと、ドローンの活用が多彩化している。
まだ一度に大量の荷物は運べないものの、ヘリコプターより小回りが利くアドバンテージを生かし、関係者は医薬品を空輸するといった工夫を凝らしている。必要なノウハウを持つ人材の育成など課題は山積しているものの、関係者は自衛隊や地方自治体などと連携して乗り越えていこうと、あくまで前を見据えて行動している。近年は国内で未曾有の災害が続発しているだけに、政府にも平時のうちから率先した対応が求められそうだ。
岸田首相自らドローンの活躍に言及
「孤立集落での自衛隊の救助活動と連携した医薬品のドローン配送、立ち入り困難な現場の上空からの被災状況調査、無線中継ドローンによる携帯回線の応急復旧など、本格的なドローンによる災害対応が行われている」。岸田文雄首相は1月30日、衆参両院で行った施政方針演説で、能登半島地震で展開されている新たな災害対応の活動として、自衛隊と民間の物流事業者が連携した物資輸送などと併せて、ドローンの活動に言及。
「共通しているのは、日本人の伝統的な強みである『絆の力』がデジタル、スタートアップ、新たな官民連携、資源循環など新しい要素と組み合わされてパワーアップし、日本の『新たな力』となっている姿」と高く評価した。
首相が施政方針演説でドローンの活躍について冒頭で細かく触れるのは、おそらく100年以上続く憲政史上、初めてのことだ。その異例の言葉通り、被災地でのドローンの活動が広がっている。
施政方針演説の中で、被災地でのドローンの活動に言及する岸田首相(首相官邸ホームページより引用)
大規模な災害が起きた際に現地で迅速に被害状況の把握などを担う国土交通省の緊急災害対策派遣隊「TEC-FORCE(テックフォース)」は1月1日の地震発生直後から、ドローンで道路の崩壊や地形の変化などの被災状況を各地で空撮。応急的な対応に情報を生かすとともに、撮影した写真と動画を随時公開している。
ドローンの産業利用を後押ししている業界団体、日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は深刻な被害が生じた輪島市からの要請を踏まえ、1月6日に現地入り。ブルーイノベーションやLiberaware(リベラウェア)の協力を得て、ドローンを使った行方不明者の捜索や被害状況の確認などの業務に当たった。
災害派遣医療チーム(DMAT)と自衛隊からの要請もあり、1月8日にはエアロネクストやACSLなどとタッグを組み、ドローンを使って孤立している地域の小学校に3人分の医薬品を空輸した。JUIDAによれば、災害時に医薬品をドローンで運んだのは国内で初めてという。1月9日以降も随時、ドローンによる医薬品空輸を続けている。燃料の輸送も行っているという。
JUIDAは1月10日、陸上自衛隊第10師団と協定を締結し、被災地で本格的にドローンを使った活動を展開できる体制を整えている。
石川県内でドローンを使い被災状況を調査(国交省TEC-FORCE(テックフォース)撮影)
建設コンサルタントや測量などを手掛けるNiX JAPAN(ニックスジャパン)とKDDIスマートドローンは石川県羽咋市からの要請を受け、1月17日に同市内でドローンを活用した橋梁の損傷状況などの緊急点検を共同で実施。「ドローンを飛ばすことで狭い空間も死角のない撮影が可能になり、支承や橋脚、橋台といった部材の損傷状況を細かくつかむことができた」(ニックスジャパン)という。
他にも、ブルーイノベーションは1月30日、輪島市でドローンと専用離着陸設備「ドローンポート(BEPポート)」を活用した災害支援活動に着手。BEPポートからドローンを自動的・定期的に飛ばし、土砂ダムの状況を継続的にリアルタイムで監視、決壊の兆候をすぐにつかめるようにしている。
ドローン関連事業を手掛ける民間事業者からは、被災状況の確認や緊急物資輸送に加え、復旧工事にもドローンを使えると期待する声が上がる。大型ドローンによる物資運搬事業を手掛けるやまびこドローン(静岡県浜松市)は1月16日、運搬用のドローンを活用し、能登半島地震で被災、断線した光ファイバーや電線などの復旧工事をサポートする方針を表明した。
架線工事の端緒となる細い「パイロットロープ」をドローンが運ぶことで、人が急斜面を登ったり川を渡ったりといった危険な作業をなくせる上、作業時間を大幅に短縮できるのがメリットだ。ライフラインの復旧が喫緊の課題となっている中、ドローンによる新たな角度からの支援が広がる可能性を秘めている。
「社会貢献元年」目指す
「ドローンが非常に、こういった場で貢献できることが広く国民の皆様に分かっていただけたのではないか」。JUIDAの鈴木真二理事長(東京大学名誉教授)は1月29日、東京都内で開催した会合で災害支援活動が伝えられていることを受け、今後もドローンの積極的な活用を後押ししていく姿勢をアピール。2024年はJUIDAとして「ドローン社会貢献元年」を目指すと語り、救援物資輸送などでさらにドローンが活躍する余地が大きいと意気込みを見せた。
災害が起きた際、ドローンで行方不明者の捜索や救助などを行う場合、政府や地方公共団体、もしくは政府や地方公共団体から依頼を受けた民間事業者は事前の許可や申請が不要となっている。こうした特例措置が、被災地でのドローン利用の背中を押している。
ただ、被災地でドローンを使うには当然ながら環境が厳しいため、どの場所であれば安全にドローンを離着陸させられるかを慎重に見極めるなど、通常の飛行とは異なるノウハウと経験が求められる。災害派遣で経験豊富な自衛隊に対し、どうしても民間事業者は災害自体の経験が限られるだけに、自衛隊や地方自治体と協力し合い、人材育成を図っていくことが急務だ。
ドローン物流の実用化を目指す民間事業者は「平時から日用品や医薬品などを定期的にドローンで届ける基礎的な経験を積み重ねておくことが、災害時に対応する上で非常に重要になる」と指摘する。さらに、より重量物を長時間搭載して飛べる機体の開発も不可欠だ。能登半島地震でドローン利用の可能性と課題が見えてきた今こそ、政府が主導で対策を進めていく局面を迎えている。
(藤原秀行)