MonotaRO・田村社長インタビュー
工具などの通販大手MonotaRO(モノタロウ)の田村咲耶社長はこのほど、ロジビズ・オンラインの取材に応じた。
田村社長は、今後のEC成長を実現させる上で商品の配送リードタイム短縮が大きな意味を持つと指摘。成長を維持するための施策の1つとして、前職時代から重ねてきたSCM(サプリチェーンマネジメント)の経験も生かし、既に展開している商品のサプライヤーとの在庫情報共有などを引き続き着実に推し進め、注文を受けた当日に商品を発送する「当日発送」の拡充を図っていく方針を強調した。また、物流施設の自動化にも継続して取り組む意向を示した。
併せて、自身のSCM担当の経験から、企業にとってサプライチェーン運営に強い人材を統括的な役割に配置することは事業の競争力強化につながるとの見解を示し、政府が推し進めているCLO(最高ロジスティクス責任者)配置の動きが広がることに期待をのぞかせた。主な発言内容を紹介する。
田村社長(MonotaRO提供)
「商品の納期は安心」の世界、数年で実現
――これまでのキャリアはSCMの経験が豊富ですね。
「新卒で外資系コンサルティング会社に入り、3年程度働いた後、2010年から医療機器メーカーで10年間勤務しました。同社のキャリアの前半は営業やマーケティングを担当し、2013年ごろからは工場勤務になり、そこでサプライチェーンの経験を積んできました。その経験を生かして、より日本のものづくりに貢献したい、サプライチェーンでダイナミックな挑戦ができる会社に行きたいという気持ちを持って2020年3月にMonotaROへ入社しました。SCMの部門長のほか、執行役としてカスタマーサポートやマーケティングなども担当し、今年1月に代表執行役社長を拝命いたしました」
――御社のECは事業者が主なユーザーの一角を占めていることもあり、工具などの注文を受けた当日に出荷する「当日出荷」にこだわりを持っているのが大きな特徴の1つだと思います。納期については引き続き重要視していきますか。
「サプライチェーンの高度化というところで、当社として納期品質向上は大きなテーマになっています。以前にもご説明した通り、サプライヤーの皆様と在庫情報を連携させることにより、当社で在庫している商品はもちろんですが、在庫していない商品でもサプライヤーがお持ちの在庫を理解した上で、サプライヤーからお客様に直送していただくことにより、商品の納期や出荷日をECサイト上でしっかり表示し、お客様に安心して買っていただく世界を実現したいと思っていますし、今はそれがかなり進んできています。多くのサプライヤーの皆様にご協力いただいています」
「サプライヤーからお客様への直接出荷になると、世の中の物流負担も減りますし、拠点をまたぐ回数を減らすことができれば、当然ながらお客様により早く出荷することが可能になりますので、納期の短縮につながります。より早く、正確に安く出荷できるようなサプライチェーンを作っていきたいですね」
――いつぐらいにそうした体制を完成させたいとお考えでしょうか。
「サプライチェーンは改善のゴールがない“エンドレスジャーニー(終わりなき旅)”と言われます。納期に関しても何がゴールかを定めるのはなかなか難しいとは思いますが、納期についてはまず、安心できるとお客様が思っていただける世界を数年以内に実現したいと思っています」
今年2月、今後の経営方針について大阪市内で会見する田村社長(MonotaRO提供)
――昨年11月の就任発表の記者会見で、SCMなどの多様な経験を基に売上高を4~5年で現状から約2倍の5000億円規模まで伸ばしたいとの挑戦的な目標を表明していました。物流の占める位置はさらに重要になりそうですね。
「おっしゃる通りです。特に大企業のお客様は非常に納期に厳しい傾向があります。(正確かつ短い)納期への期待値も高いので、お客様の信頼を得て、商品の売り上げを増やしていくためには、先ほどもお話した通り、納期の安心、サプライチェーンの安心を提供することが非常に重要になってきます。物流はその土台になってきます」
――サプライヤーから購入先への商品直送の割合は増えそうでしょうか。
「基本的には、当社の物流拠点での在庫を増やしていきたい、それぞれの商品で当日出荷が実現できるという形で増やしていきたいと考えています。ただ、例えば改廃が激しい商品ですとか、危険物のように当社での在庫が難しい商品もあります。やはりそれはユーザーへの直送の仕組みを活用していきたいですね」
――今年2月の記者会見では24年中をめどに、当日出荷の締め切り時間延長を目指す方針を表明していました。
「当社の倉庫に在庫しておいて注文に応じて出荷する商品と、サプライヤーからの取り寄せ品がありますが、このうち当社で在庫している商品に関しては仰る通り、出荷の締め時間の延長を実現したいと思っています。2024年中には実現できるよう取り組んでいきたいですし、同時に、取り寄せ品に関しても在庫情報の連携で短納期を実現したい。扱っている商品のそれぞれの種類について納期をレベルアップしていきたいという考え方ですね」
――物流企業との連携強化も求められます。
「まず物流企業自体が『2024年問題』という大きな変革の時代を迎えています。世の中が日々変化する中、いかに物流企業の皆様と連携していくかという議論は重要です」
――政府は2024年問題対策の一環として、トラックドライバーの負荷を低減するため、物流拠点での荷物積み降ろしなどを2時間以内に完了させるよう荷主企業や物流事業者に求めています。御社ではどのように対応しますか。
「積み降ろしの自動化はもちろんですが、積み降ろしなどの作業時間を短縮するには発注の部分も大きな意味を持っています。物流現場の方々が扱いやすいよう、パレット単位で取り扱いやすい発注量になっているかどうかが課題です。パレットからはみ出すような、余分な量が発生してしまうと現場に負荷がかかってしまいます。パレットに乗りやすい発注になっているのかどうか、発注面も非常に大きな課題だと分かってきていて、発注ロジックの高度化もかなり生産性や現場負担の貢献にはつながってきます。発注量の最適化は2023年ごろから注力していますが、成果も出てきています。今後より取り組みを深めていけば、生産性向上やコスト削減で現場負担の改善につながるのではないかと思っています」
――2024年にSCMの面で何か定量的な目標はありますか。
「サプライチェーンや物流の改善により、売上高に占める物流関連コストの割合を下げることを目指しています。23年度実績の7.4%から0.5ポイント下げて6.9%にすることが目標です。兵庫県猪名川町の倉庫などでも様々なテクノロジーを使い、さらなる改善をしていきたいですね」
サプライチェーン担当は「本当に面白い仕事」
――まだ社長に就任されて2カ月ほどですが、SCMの経験は経営に生かせると感じていますか。
「感じますね。やはり自分の強みはこうしたところのオペレーション、サプライチェーンを理解していることで変化に対して迅速に対応できる点だと思います。新型コロナウイルスもそうですが、近年の大きな変化はサプライチェーンを起点にして起こっています。その影響や変化に対して、アンテナを高くして情報を得て、その中で何ができるか、多くの人を巻き込みながら解決策を素早く探っていく。そこが企業としての差別化、競争力強化につながります。SCMの経験、能力は経営に生かしていけるのではないでしょうか」
――物流メディアの一員として、SCMを担ってきた方が上場企業の経営トップになるのは10年前ではまだまだ考えられないことであり、物流の持つ重要度の理解が格段に深まっているのではないかと感じました。当事者としてどのように思いますか。
「自分でもびっくりしましたね(笑)。サプライチェーンに関わり出したのは先ほども申し上げた通り、前職時代の2013年ごろに工場勤務になった時からですが、率直に申し上げて、サプライチェーンの担当を始めた時は花形ではない仕事という感じで見られていました。サプライチェーンをマネジメントする人が経営者になるということはそれまでにもなかった。しかし、自分が携わってみて、これは本当に面白い仕事だと痛感しました。花形の仕事は自分で作るんだなと思いました」
「そこで仕事を続けていたら、米中貿易戦争が起きたりして、そういうところから本当にサプライチェーンのマネジメントを考えることが事業戦略につながり、経営と深く関わり、その力を生かせるという流れになってきた。SCMに関わってきた人間とすれば、時代が変わってきたんだなと思いますね」
――政府は2024年問題対策の一環として、大手の荷主企業を中心に、最高ロジスティクス責任者(CLO)を配置させようと取り組んでいます。ご自身の経験も踏まえて、こうした動きについてはどのように思いますか。
「もちろんどのような方を置くかなどについてはそれぞれの会社のお考えになりますが、物流に強い人を責任者の立場に配置するのはすごく企業の差別化につながると思います。物は置いておいても(物流の機能でサプライチェーン上を)流れるものは流れていきますが、その部分を高度化できれば会社の競争力を高められるのは間違いないでしょう」
(藤原秀行)