PwCジャパングループがグローバル調査結果を基にアドバイス
PwCジャパングループは5月23日、東京都内で、M&Aに関してグローバル規模で実施した調査などの結果と考察に関するメディア向け説明会を実施した。
日本企業によるM&Aの件数は増加傾向にあるが、調査結果からは3割の企業が買収当初に見込んでいたほどシナジーを発揮できておらず、そのうち3割は買収先の企業価値を表す「のれん」の減損を強いられていることが判明したなどと課題を指摘。
世界規模で見ても多くの買収・売却案件で取引対象となった企業や事業の価値最大化が図られていないとして、M&Aを通じてどのような価値を生み出していくのかについて事前に綿密な計画を立案しておくことが不可欠だとアドバイスした。
「PMI投資額と企業の価値創造能力に明確な相関」
グローバル規模の調査は過去3年以内に大規模なM&Aを経験した経営幹部600人を対象に実施した。
説明会では冒頭、PwCジャパングループの木村浩一郎代表があいさつし、「のれんの減損はサプライズで起こるのが問題と言われる。買収した時が企業の価値のピークなのではなく、その後いかに価値を上げることができるかが経営者の責任。その方法についてはいろいろな考え方がある」と説明。
続いて、経済産業省貿易経済協力局の小泉秀親投資促進課長が登壇し、官民が参加した「我が国企業による海外M&A研究会」の議論結果などを基にまとめた「海外M&Aと日本企業」をテーマとする報告書の概要に言及した。
報告書は、海外企業をM&Aする上で「グローバルで共通とされる経営力を備え、かつグローバルで多く取り入れられ、当たり前とされている制度や仕組みに対応することが不可欠」と分析。社内にM&A専門組織やPMI(買収後の統合作業)・事業売却専門部隊を置いたり、過去のM&Aの経験や知識、ノウハウを体系的に整理・共有したりすることが必要と訴えている。
小泉課長は「経産省としては今後とも中堅企業も含めた幅広い日本企業のグローバルな成長を後押ししていくとの観点から、さまざまな方の知見、ご協力をいただきながら取り組みを進めていきたい」と語った。
あいさつする木村代表
報告書を説明する小泉課長
その後はPwCアドバイザリーの吉田あかねパートナーが登壇し、調査結果を解説。M&Aによる統合初日(Day1)に何を優先課題としたかを尋ねたところ、「事業運営の安定」(53%)がトップで、「顧客の維持」(35%)が続いた。一方、本来は何を優先課題と設定すべきだったかを聞いた結果、「価値の創造」が66%で断トツの首位だった。吉田氏はM&Aによる統合に際し、多くの企業幹部が重点的に取り組むべきポイントを見誤っていたことが浮き彫りになったとの見方を示した。
また、買収価格と比べて価値の毀損が大きかった企業について、取引成立後も会社に在籍し続けてほしかった重要な人材の退職率が10%を超えた割合が全体の8割超となった。価値の創出が大きかった企業については2割弱だった。吉田氏は人材の流出を食い止められるかどうかがM&A後の価値創出に影響しているとみられることが示されたと分析。
さらに、価値創出が大きかった企業のうち、PMIに投じた金額がM&Aの取引金額全体の1割以上だったのは87%となった半面、価値の毀損が大きかった企業ではわずか7%にとどまった。吉田氏は「企業がPMIのために行う投資の規模と企業の価値創造能力の間には明確な相関がある」との見解を示した。
一連の結果を踏まえ、吉田氏は売買契約を結ぶ前に、M&Aを通じてどのような価値を生み出せるか機能を横断して網羅的に検討しておくことなどを提案した。
調査結果を説明する吉田氏
(藤原秀行)