ドクタートラスト、23年度のストレスチェック全業種データ分析レポート公表
企業の健康管理支援を手掛けるドクタートラストは8月21日、2023年度にストレスチェックの実施を受託した1390の企業・団体における集団分析データを基に、[健康リスク][高ストレス者率]の業種別ランキングを算出したと発表した。
ストレスチェック制度は、従業員のメンタル不調の予防や早期発見を促すとともに、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善に取り組めるようにするのが狙い。2015年12月以降、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務付けられている。
今回の調査は23年度にドクタートラストでストレスチェックを受検した人のうち、47万9612人の最新結果を分析した。
ストレスチェックの結果を部署や、事業場ごとに分析した集団分析では、集団の「健康リスク」を表示。健康リスクは企業や団体の中で仕事のストレス要因から起こり得る疾病休業などの健康問題のリスクを、標準集団の平均を「100」として示す指標。健康リスクが「120」の集団は、その集団で健康問題が起きる可能性が、平均より「20%多い」ことを意味している。
総合健康リスクを業種別に算出、リスクの高いものから順に並べた。「総合健康リスク」は、「仕事の負担・コントロール」リスク、および「上司・同僚からのサポート」リスクの 2つの指標をかけ合わせた数値。2つの指標への意味の理解と「現状の数値から何を読み取ることができるのか」が健康リスクを扱う上では、非常に重要なポイントという。
総合健康リスクが最も高かった業種は「運輸業、郵便業」、「宿泊業、飲食サービス業」で、以下「医療、福祉」が続いた。
総合健康リスクが最も高い「運輸業、郵便業」は「上司・同僚からのサポート」で、「宿泊業、飲食サービス業」は「仕事の負担・コントロール」でそれぞれ全業種の中で最も数値が高く、大きな負荷がかかっていることが分かった。
さらに、「生活関連サービス業、娯楽業」は総合健康リスクが100と標準ではあるものの、「仕事の負担・コントロール」で「宿泊業、飲食サービス業」同様に最も高い数値となった。
一方、総合健康リスクを算出する1つ目の指標「仕事の負担・コントロール」リスクとは、個人ごとの仕事量の負担と、仕事量をいかにコントロールできているか、そのバランスがストレスに及ぼす影響を示している。
例えば、仕事の量が多かったり困難な業務内容であったりしても、自分なりのやり方やペース配分で行うことができればストレスは高くならず、リスク値は低くなる。半面、仕事の負担はそれほどではなくても、順番ややり方が固定され、自らの裁量が生かせない状況では、ストレスは高まり、リスク値は高く出る。
数値が大きいほど「仕事の負担が多い」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出します。
1. 非常にたくさんの仕事をしなければならない
2. 時間内に仕事が処理しきれない
3. 一生懸命働かなければならない
仕事の量・処理速度・熱量などを問う設問から構成されており、数値が大きいほど仕事の負担が大きい、すなわち不良であることを表している。
1位は「宿泊業、飲食サービス業」、2位「医療、福祉」、3位「生活関連サービス業、娯楽業」となった。最も仕事の負担リスクが高かった「宿泊業、飲食サービス業」は、2位の「医療、福祉」より0.43ポイント高かった。
「仕事の負担・コントロール」のうち、「仕事のコントロール」リスクを業種ごとにランキング化した。
表3
数値が小さいほど「仕事のコントロールがしづらい」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出します。
8. 自分のペースで仕事ができる
9. 自分で仕事の順番・やり方を決めることができる
10. 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる
仕事をする際に個人がどれくらい仕事をコントロールできるか、または自分で決めた順序や方法でしてよいか、その自由度が問われており、コントロールが困難な業種ほど上位にランキングされている。
1位は「運輸業、郵便業」、2位「生活関連サービス業、娯楽業」、3位「医療、福祉」と続いた。「運輸業・郵便業」は「仕事のコントロール」リスクは最も不良ではあるものの、「仕事の負担」リスクでは最も良好のため、同社は「仕事の負担・コントロール」リスク値の上昇が抑えられたのではないかとみている。
総合健康リスクを算出する2つ目の指標「上司・同僚からのサポート」リスクとは、職場の上司や同僚とのコミュニケーションがストレスに及ぼす影響を示している。仕事量が多く、裁量権が少ない職場であっても上司や同僚からのサポートが得やすい職場はリスク数値が良好傾向にあり、逆に仕事量が少なく、自分のやり方で仕事を進められても、上司や同僚からのサポートが得られにくい職場はリスク数値が不良傾向になる。
「上司・同僚からのサポート」のうち、「上司からのサポート」リスクを業種ごとにランキング化した。
数値が小さくなるほど「上司からのサポートが少ない」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
47. 次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?/上司
50. あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?/上司
53. あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?/上司
上司・同僚からのサポート」のうち、「同僚からのサポート」リスクを業種ごとにランキング化した。
数値が小さいほど「同僚からのサポートが少ない」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
48. 次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?/同僚
51. あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?/同僚
54. あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?/同僚
「上司からのサポート」「同僚からのサポート」ともに1位は「運輸業、郵便業」だった。「運輸業、郵便業」や「製造業」は業務を1人で担うケースが多く、安全面の問題からコミュニケーションを取る機会が少ない傾向にある。
高ストレス者率とは、実際に受検をした人の中で、高ストレス者と判定された人がどれくらいいるかを示した割合で、2023年度にドクタートラストでストレスチェックを受検した企業・団体の高ストレス者率の平均は13.7%だった。
高ストレス者率を業種ごとに算出しており、高ストレス者率が高い順に示している。
高ストレス者率が高い業種は「宿泊業、飲食サービス業」、「運輸業、郵便業」、以下「製造業」と続いた。
高ストレス者率が最も高かった「宿泊業、飲食サービス業」は、全業種平均と比較すると6.7%高くなった。高ストレス者率が高かった「宿泊業、飲食サービス業」、「運輸業、郵便業」、「製造業」では特に新型コロナウイルスの影響で一時は激減したインバウンド(訪日外国人)の旅行者数が急激に回復したことや、夜勤や交代勤務といった勤務形態による生活リズムの乱れが高ストレス者率を引き上げた要因ではないかと推察している。
高ストレス者率が低かった「公務」、「学術研究、専門技術サービス業」、「複合サービス事業」では、インバウンド旅行者数の増減によって影響されない業種であるとみられる。
2022年度と2023年度の高ストレス者率を比較した。22年度と比べて高ストレス者率が増加した業種(6業種)を赤枠、減少した業種(9業種)を青枠で示している。
高ストレス者率が大きく増加した業種は「金融業、保険業」次いで、「教育、学習支援業」「運輸業、郵便業」、高ストレス者率が大きく減少した業種は「建設業」、次いで「医療、福祉」となった。
調査対象
調査期間:2023年4月1日~2024年3月31日
調査対象:ドクタートラスト・ストレスチェック実施サービス 2023年度契約企業・団体の一部
企業・団体数:1,390
有効受検者数:479,612人
※本件の業種分類は「日本標準産業分類」に準拠。受検法人数が一定数に満たない業種は評価していない
(藤原秀行)※いずれもドクタートラスト提供