【独自取材】少量多品種が進む化学品輸送を荷役・付帯作業から効率化

【独自取材】少量多品種が進む化学品輸送を荷役・付帯作業から効率化

三菱ケミカル物流・日本トランスシティ合弁「四日市ケミカルステーション」始動

三菱ケミカル物流(MCLC)と日本トランスシティ(トランシィ)の事業合弁で化学品の荷役・付帯作業を手掛ける「四日市ケミカルステーション」(YCS、三重・四日市市)が本格的な受注活動を展開している。

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今年2月に三菱ケミカル三重(当時は四日市)事業所内で専用施設が完成。化学品の加温・保管・詰め替えをはじめとする荷役・付帯作業に特化したサービス・施設は国内で例がなく、日本の石油化学産業が高付加価値かつ少量多品種の製品生産へとビジネスモデルの大規模な転換を進める中で生じる商流・物流の変化に対応した新たなソリューションビジネスとして注目される。

この数年で総合石油化学メーカー各社は国内のエチレンプラントを相次いで稼働停止させている一方、アジアや中東などから輸入した中間原料をベースとした生産・供給体制への移行が加速。かつてのような各メーカーが上流のエチレンから下流の各種誘導品までを一貫生産することでスケールメリットを追求するスタイルは影を潜めつつある。

これは出発原料となるナフサや天然ガスが自国で賄える中東産油国、労働人口と人件費が圧倒的に有利なアジア諸国の台頭を前に、旧来のコンビナートを生産拠点としている日系総合石化メーカーが事業そのものを根底から変革しなければならないパラダイムシフトに直面しているからだ。

コスト面で中東やアジアと太刀打ちできない汎用品の生産を諦めるとともに、難燃性・断熱性・耐熱性・耐候性・弾性といった高い技術開発力が求められる機能性製品にフィールドをシフト。経営・製品ラインアップともに“量から質”へとかじを切ることが急がれる。これに伴い化学品の輸送を含めたサプライチェーンもエンドユーザーの要求に応じてドラム缶・一斗缶など小ロット化・多品種化が進むとみられる。

四日市地区の日本トランスシティと特化型新会社を設立

こうした石化産業の劇的な事業環境変化を踏まえ、MCLCとトランシィは数年前から化学品物流にも新しいソリューションが求められると予想。海外から払い出される中間原料のロットサイズも従来のケミカルタンカーから容量20キロリットルクラスのISOコンテナ、1000リットルクラスのIBCコンテナが増加していることに着目した。

輸入される化学品の中には融点が高く、固形化して日本に送られるものも多い。陸揚げ後は加温して液体に戻した上で直接納入もしくはドラム缶などに小分けする必要があるが、現状は各メーカーの拠点で独自に行われている。また作業内容によって複数の専門事業者が介在して工程が煩雑化、さらに効率性や品質面にもばらつきが生じるなどの課題も指摘されている。

そこでMCLCの豊富な化学品ノウハウ、トランシィの四日市港を地盤とする中部地区における顧客基盤を融合。変容する化学品物流で求められるきめ細かいサービスと高度な品質管理を新規ビジネスとして発展・確立することを目的に掲げ、2017年7月にMCLC65%、トランシィ35%の出資比率でYCSを設立した。これに併せて提供サービスを「ケミカルワークステーション」(CWS)と名付けて事業化にこぎ着けた。

施設は三菱ケミカル三重事業所の余剰スペースを活用。今年2月21日に竣工式を行った。概要は敷地面積約2000平方メートル。加温設備はオンシャーシ方式で4レーン、スチーム加温で蒸気温度は130~140度、窒素封入設備、2レーンの待機場所などで構成され、指定可燃物や危険物第4類第3石油類および同第4類石油類を中心に取り扱う。


蒸気配管

三菱ケミカル物流出身でYCS初代トップを務める清水修一社長は「施設は三菱ケミカル三重事業所内の用地を賃借して建設。消防当局の許認可や地元住民からの理解もスムーズに得られたほか、蒸気・電気・水といったユーティリティーを同事業所から大量かつ安価で調達できる。ランニングコストのメリットは今後の受注活動でアドバンテージになるだろう」と展望。三菱ケミカルグループの既存インフラ、保有アセットを有効利用できたことも早期立ち上げにつながったと評価する。

完成以降に施設の見学や問い合わせは増えており、4月後半より業務を受注・遂行している。当面は加温のみで展開していくが、同事業所内にはスペースがあることから詰め替え設備の建設を検討。業務量に応じて保管場所の建設も視野に入れており、四日市港の活性化や地域の雇用創出・促進などにも意欲を見せている。


清水修一社長

化学品ノウハウとロジスティクス機能の融合サービス

他方、同様のサービスを提供している専門事業者は複数存在する。その中では後発参入ともいえるYCSはどのように差別化を図っていくのか。清水社長は化学品荷役の特徴として専門事業者の多くは主たる業務の付帯サービスで加温などの作業を請け負うケースが目立つという。一例として製品納入後にコンテナのメンテナンス作業をするために余剰蒸気を用いて加温も引き受けるようなパターンを挙げる。

その上で清水社長は「当社は加温など化学品荷役に特化した施設とノウハウを保有していることに加え、親会社が物流企業だけにロジスティクスも包含した提案ができる。従来のケミカルタンカー~貯蔵タンク~タンクローリー車のようなバルク輸送を行っている顧客に加温を切り口としたISOコンテナ輸送の可能性を訴求。小ロット対応など物流ルートや運び方そのものを変えるソリューション型営業で開拓していきたい」との方向性を示す。同業の荷役事業者だけでなく物流事業者、荷主企業など化学品サプライチェーンに携わる多様なプレーヤーがメリットを享受できるような仕組みとして育てていきたい考えを強調。実際に競合先ともなり得る大手3PLプレーヤーから相談を受けているという。

具体的な取扱製品では各種樹脂に用いられる添加剤、潤滑油など30~40度で凝固する物性を持つ化学品が中心になるとみており、施設もこれに合わせたスペック・仕様となっている。添加剤、潤滑油ともにエンドユーザーのオーダーロットは大きくなく、むしろ需要量自体は増加しているものの出荷単位は細分化・小口化している。四日市を含む中部地区ではハイブリッド車向け電解液、エンジニアリングプラスチックなど自動車に使用される樹脂を生産・加工する過程でさまざま種類の添加剤が消費される。

清水社長は「自動車も今や多くのプラスチック品が使われている時代。しかもパーツによって強度や耐性も異なるため、各部材に応じて多様な用途の添加剤が必要になる。その一方で添加剤そのものは使用量が多いわけではなく、ローリー車などのバルク輸送には適さない。ここに従来の化学品輸送とユーザーニーズのミスマッチが垣間見える。長らく大ロットが基本だった化学品は物流のみならず商流でも変化が始まっている」と指摘。小口の加温・保管・詰め替えサービスは化学品の調達を仲介する総合商社、輸送を担う3PLプレーヤーにも展開できるとみている。


施設の外観

CWSで商流・物流の新たな課題解決に向けたパイオニアへ

営業展開では外販7:三菱ケミカルグループ3と外部顧客の獲得に重きを置く。独自に市場を開拓することはもちろん、親会社がそれぞれ展開する3PL事業にYCSのサービス・機能を組み込ませることで顧客や対象アイテムの拡大にもつなげられる余地はあるだろう。

また3月に東海環状道・大安IC~東員IC間が開通したことでカバーエリアも飛躍的に向上。四日市港で陸揚げ・加温した化学品を大阪・滋賀・愛知および北陸エリアへ2時間以内と再凝固させずに輸送できるようになった。

今後は四日市港や名古屋港に入着した化学品をYCSで加温処理して大阪などのエンドユーザーまで運べば、四日市を基点としたサプライチェーンの効率化も見えてくる。自治体も四日市港のさらなる活性化、コンテナ取り扱い拡大につながる事業として大きな期待を寄せているという。

清水社長は「同業他社をはじめさまざまなプレーヤーとの相互補完によって、変容する化学品の商流・物流に対応したきめ細かいソリューションを提供・構築していきたい。その中で当社のCWSがパイオニアとして成長できれば」と幅広い連携を提唱。いずれは四日市での取り組みを全国規模で展開する青写真を描いている。

(鳥羽俊一)

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