帝国データ調査、企業全体では前回結果から低下
帝国データバンクは3月17日、全国の企業2万6815社を対象に実施した、自社の主要な製品の価格やサービスの料金にコストアップ分をどの程度転嫁できているかに関するアンケート調査結果を公表した。
同様の調査は2024年7月以来で、今回が5回目。
100%の仕入れコスト上昇に対して、何%販売価格に上乗せできたかを示す「価格転嫁率」は40.6%となり、前回調査から4.3ポイント低下。1年前の調査(2024年2月)と同水準にとどまった。コストの種類別では、物流費は転嫁できた割合が3割程度だった。
帝国データは「人件費やエネルギーコストの上昇に対して、消費者離れや取引先からの反発を懸念して値上げを躊躇する動きが強まっている」と指摘。価格転嫁の取り組みを進めるためには消費者の購買力向上、企業間の協力、政府の支援の3要素が求められると訴えている。
調査は今年2月14~28日にインターネットで行い、有効回答企業数は1万835社(回答率40.4%)だった。
コストの上昇分に対して「多少なりとも価格転嫁できている」と答えた企業は77.0%で、前回から1.4ポイント低下した。
内訳を見ると、「2割未満」が24.7%、「2割以上5割未満」が17.2%、「5割以上8割未満」が18.6%、「8割以上」が13.1%、「10割すべて転嫁」できている企業は3.5%だった。
8割近くの企業で価格転嫁が進んでいる一方、「価格転嫁すると他社との競争に負け失注する」(建設、群馬県)などの声も聞かれ、「全く価格転嫁できない」と回答した企業は11.2%に達し、依然として1割を超えていた。
価格転嫁率の40.6%はコストが100円上昇した場合に40.6円しか販売価格に反映できず、残りの6割近くを企業が負担していることを意味している。
前回調査時より価格転嫁率が下がったことは、長引く原材料費やエネルギーコストの高騰、人手不足に伴う人件費の上昇などに価格転嫁が追いつかない状況を示している。
さらに、自社の主な商品・サービスで、代表的なコストとなる原材料費、人件費、物流費、エネルギーコストを項目別にそれぞれどの程度転嫁できているかを尋ねたところ、原材料費に対する価格転嫁率は48.0%、人件費は31.3%、物流費は34.7%、エネルギーコストは29.5%だった。企業がいずれのコストでも転嫁に苦労している姿が浮き上がった。
原材料費に対しては、「原材料費が高騰していることに対して客先の理解がある」(環境計量証明、愛知県)といった声があり、5割近くまで転嫁が進んでいる。
一方で、物価高や人手不足を受けて給与などを引き上げざるを得ない状況になっていたり、ガソリン補助金の縮小などで物流費が増えていたりしているが、人件費や物流費に対する転嫁率は3割程度にとどまっている。
エネルギーコストの転嫁率は4項目の中で最も低く、「エネルギー価格の上がり方が見積もり時より早く、反映できない」(繊維・繊維製品・服飾品製造、富山県)など、急激に変化するエネルギー価格に対する転嫁が難しいことを示唆している。
帝国データは、人件費と物流費、エネルギーコストについては、原材料費と違って具体的に数値化することが難しい側面があり、この3種類の費用は変動しやすく、企業内部の運用などにも依存しているため、販売先に明確に説明するのが難しいことが挙げられると解説。「原材料費ほど販売先の理解が進まない」といった声も多数聞かれたという。
サプライチェーン別に価格転嫁の状況をみると、前回調査と比較して、全般的に価格転嫁は十分に進んでいない様子がうかがえた。
「化学品卸売」(62.4%)や「鉄鋼・非鉄・鋼業製品卸売」(61.6%)で6割を超えるなど、他の業種より価格転嫁が進んでいる卸売業とは対象的に、サプライチェーン全体に関わる「運輸・倉庫」(31.3%)は3割台を維持しつつも前回調査より低下した。
帝国データは、車両費(購入および修繕)の高騰やガソリン補助金の縮小、重層的な取引構造から直接的な値上げ交渉が難しいといった背景も要因と推定しているが、2024年問題を契機に徐々に業界内でも価格転嫁を進める動きは見られるという。
また、川下に位置する産業では、継続的な価格転嫁に苦慮していると分析。「飲食店」(34.9%)や「食品スーパー(飲食料品小売)」(36.4%)、「旅館・ホテル」(31.2%)などは、それぞれ前回調査から転嫁率が低下しており、「単価を大きく上げると来客数の減少が顕著になる」(飲食店、福岡県)や「客観的に見てこれ以上の値上げは困難である」(飲食料品小売、東京都)など、客離れを危惧する声や、何度も値上げすることへの抵抗感が強く表れた。
そのほか、病院などを含む「医療・福祉・保険衛生」(14.4%)などで転嫁率の低さが目立った。診療報酬や介護報酬などは公的に価格が定められており、急な仕入れコストの上昇に柔軟に対応できないのが背景にある。企業からも「医療は診療報酬単価が行政上決まっており、価格転嫁できない。特に冬場、夏場の光熱費の上昇は対策ができない」(医療・福祉・保健衛生、千葉県)といった声が聞かれ、業界ならではの課題も浮き彫りになっている。
<参考>企業からの声
○:取引先と適切な価格交渉が定期的に行われている(農・林・水産、岩手県)
○:販売先も全体的なコスト上昇を受け入れるようになってきており、人件費の上昇もやむを得ないものとして販売価格に転嫁できるようになりつつある(鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸、東京都)
○:見積りが合わない場合はお断りしている(建設、千葉県)
○:当業界においては、頻繁に価格転嫁について公正取引委員会からの事情聴取がなされており、政府主導での推進が功を奏している(輸送用機械・器具製造、愛知県)
●:価格競争があるため、自社だけ価格転嫁すると競争力が落ちる(建設、神奈川県)
●:都度交渉を重ねているが、理解を得られていない(機械製造、新潟県)
●:人件費は、会社負担の社会保険料の分まで価格転嫁を認めてもらえない。また物流費については、社内努力で吸収している状況(機械製造、埼玉県)
●:目に見える費用については転嫁しやすいものの、社内人件費やエネルギーなど、表に出しづらい費用については価格転嫁が出来ているとは言えない(機械・器具卸売、東京都)
●:メディアでも値上げの実態を取り上げているが、やはり中小企業から大手への値上げはいまだにやりにくい(電気機械製造、大阪府)
●:価格改定自体は理解されているが、販売価格を変えるのは1~2年に1回程度しか出来ない。原材料費はもっと早く細かく上昇しているので転嫁が追いつかない(繊維・繊維製品・服飾品卸売、東京都)
●:フランチャイズ加盟企業のため、価格設定が自社でできない(飲食店、大阪府)
○印:価格転嫁が順調に進んでいる、または前向きな意見
●印:価格転嫁に困難がある、または否定的な意見
(藤原秀行)※いずれも帝国データバンク提供