ナカノ商会との連携強化、海外事業拡大へ中国で物流企業M&Aも
ヤマト運輸の阿波誠一新社長は5月22日、東京都内の本社で、4月1日の就任後初の記者会見に臨んだ。
阿波社長はECの成長などを受けて需要が伸びてきた宅配に関し「サービスドライバーに効率性だけを求めてしまったため、サービス品質の低下やお客様離れにつながってしまった。ヤマトのコア事業である宅急便をもう一度成長領域に乗せることがミッションだと思っている」と説明。全国の営業所も含めて、業務の効率化に加えてサービス品質向上策などを自発的に検討、行動に移す「全員経営」を実現していくことに強い意欲を見せた。
また、「経営の大きなテーマでは、上がりゆく固定費に対して収益でしっかりとカバーしていくことだと思っている。魚のいないところに網を投げても意味がない。市場のあるところに戦力をぶつけない限り勝てない」と指摘。従業員の待遇改善にも積極的に取り組む姿勢を示した。
同時に「宅配のマーケットは急成長が難しいと考えている。競合2社がいる中で、各社のせめぎ合いになりそうだが消耗戦にはしたくない。そのために、サプライチェーンの上流工程から提案していくことが重要だと考えている」と解説。宅配の領域で顧客企業の物流改善により深く関わっていくことを目指す方針を明らかにした。
会見に臨んだ阿波新社長
昨年12月にヤマトホールディングスが買収したナカノ商会との協業については、幹線輸送や倉庫運営に強みを持ち、小売業者やサプライヤー、EC事業者など上流の物流領域を中心に法人顧客を有している点に着目していることを強調。「ヤマトのコントラクト・ロジスティクス事業(CL、顧客企業の物流改善支援)の拡大や、両社のリソースを共同利用することによるコストシナジーの創出を期待している」と述べ、宅配以外の領域を成長させていきたいとの思いを明かした。
ナカノ商会がヤマトグループ入りした後、「ヤマトのCL事業には無駄が多い」といった評価・知見を得られていると明かし、「ナカノ商会は大型の自社車両を多く持っているが、回し方がすごく上手いと感じている。人は変わっているのにずっと車は動いている。車は常に動かしながら生産性を上げる使い方をしているので、そうしたノウハウが当社の中にシナジーとして入ってきて、新しく事業を拡大していくことができれば、と思っている」と語った。
海外展開については「今はフォワーディングと越境ECに注力している。トランプ政権の関税問題もあるので、やはりECは鍵になると思っている」と分析。中国では現地のEC大手SHEIN(シーイン)と取引していることに触れ、「こうした大手ECの足回りだけをやっていたらもうからない。上海側の手配も含めて上流からトータルで受託しているので、1件当たりが高単価になっている。こうした顧客を今後中国市場でどう作っていくかを考えると、自前ではスピード感にも限界があるので、次はM&Aを含めて検討していきたい」と述べ、海外事業の規模拡大へ中国の物流企業買収に乗り出す可能性を示唆した。
(安藤照乃、藤原秀行)