【独自取材】ホワイト物流賛同559社のデータが物語る成果と課題

【独自取材】ホワイト物流賛同559社のデータが物語る成果と課題

荷主に「異常気象時の運行停止」など関心高まる、卸・小売業の参加数伸び鈍く

政府と物流事業者や荷主企業が連携してトラックドライバーの就労環境改善などを目指す「ホワイト物流」推進運動が本格的にスタートしてから約半年が経過した。国土交通省の取りまとめでは、9月末の時点で559の企業や組合、団体が賛同し、自らが取り組む事項を明示した「自主行動宣言」を同運動事務局に提出している。

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物流現場の改善を進める上では荷主企業を巻き込むことが不可欠なため、「これまでにない規模の取り組み」(政府関係者)となった同運動は、さまざまな成果を挙げる一方、課題も浮き彫りになってきた。559社のデータからそれぞれを読み解いてみた。

全体の5割が「パレット活用」「異常気象時の運行中止」選択

自主行動宣言は、必須項目となっている全体の取り組み方針と法令順守への配慮、契約内容の明確化・順守の3点以外に、事務局が設定している29の項目の中から取り組むものを選び、公表する仕組みだ。打ち出した内容の順守に法的な強制力はないが、国交省は業界の商慣習や自社の業務プロセスを見直すことによる生産性向上、トラックの安定確保などの効果が期待できると説明。

併せて、ホームページなどでオープンにすれば先進的な取り組みをしている企業として認識され、投資家からの評価にもつながると強調している。同運動はトラックドライバーに時間外労働の上限規制が導入される2023年4月1日まで継続する予定だ。

国交省の集計によると、9月末の時点で、全産業ベースで最も多く選ばれたのが「物流の改善提案と協力」で81・2%に達している。その後は「パレット等の活用」(52・2%)、「異常気象時等の運行の中止・中断等」(51・2%)、「荷役作業時の安全対策」(45・8%)、「運送契約の書面化の推進」(37・6%)、「船舶や鉄道へのモーダルシフト」(33・8%)、「契約の相手方を選定する際の法令順守状況の考慮」(22・7%)――などとなっている。

昨今、地震や台風など大規模な災害が続発していることを踏まえ、「異常気象時等の運行の中止・中断等」は、ロジビズ・オンラインの独自集計によれば、製造業の5割超、運輸・郵便業の6割が選択している。荷主企業の間でもまずは異常気象に見舞われている際、無理に商品輸送などを強いるのは危険との認識が広がってきていることをうかがわせた。

政府が改正貨物自動車運送事業法で、トラック運送事業者が法令違反を犯す原因となっている恐れのある行為を荷主がしていると疑われる場合、是正の働き掛けに従わなければ荷主の事業者名を公表する対象に「悪天候時のトラック運行強要」を含めていることも影響しているとみられる。

賛同企業は要請先のまだ1割に届かず

荷主の間に、運送事業者の安全を守る意識が出てきたことは歓迎すべき点であり、ホワイト物流の狙いにかなっているといえる。また、約半年間で559の企業や組合、団体が参加の意思を表明するところまでこぎ着けたのは評価できるものの、政府が運動への協力を求めて、文書で経営トップらに直接要請した相手先は上場企業約4000社と、全国47都道府県ごとに売上高上位50社ほどをチョイスした約2300社。その総数と比較すれば、賛同企業はまだ1割にも届いていないのが実情だ。

主要な業種別に見ても、製造業は9月6日時点の125から239へ2倍近くに拡大。運輸・郵便業も93から205へと増えたが、卸・小売業は44から72となったのにとどまり、前出の両業種ほどの勢いは見られない。

企業の所在地別でも、トップの東京が108で、2位の大阪府(49)を大きく引き離して突出しているのは当然といえるが、その半面、徳島と佐賀、長崎の3県はいまだゼロのまま。ホワイト物流の浸透が業種や地域で偏っていれば業務効率化や労働負荷軽減の改善効果は限られてしまう。業界団体などを通じた、より積極的なアピールが不可欠となっている。

取り組みの進捗状況見極めも「自主」

また、「自主」行動宣言とうたっているだけに、掲げた施策が推進できているのかどうか、進捗状況を見極めるのは各社の判断にゆだねられているのが実情。国交省は宣言の内容を自由に変更できると説明しており、当初想定していたほど業務効率化の効果が見込めなければ取り組む項目を減らすなどの動きが出てくることも予想される。

同運動に賛同するインセンティブとしては、国交省は「賛同企業に特化した補助金はないが、関係省庁の物流効率化等に関する補助制度が利用できる場合もある」と指摘。国交省は自主行動宣言を出した企業について、モーダルシフト等推進事業に参加する際の審査で配慮する旨を明言している。

今後はホワイト物流運動展開による生産性向上などの成果が集まってくる見通しだけに、国交省などは同運動の効果を分かりやすく分析・公表することで、共感を得て運動に加わろうとする企業や協会、団体をさらに広げていくことを迫られる。場合によってはさらなるインセンティブ施策の検討も課題となりそうだ。併せて、既に宣言を打ち出した各企業が成果をアピールし合えるような雰囲気を醸成していくことも不可欠となっている。

(藤原秀行)

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