LOGI-BIZ記事レビュー・物流を変えた匠たち⑦メルカリ

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EC配送変革の“露払い”自任、ヤマト運輸と「匿名配送」など展開

※この記事は月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)2015年11月号「ネット通販物流」特集で紹介したものを一部修正の上、再掲載しています。役職名や組織名などの内容は掲載当時から変わっている場合があります。あらかじめご了承ください。

個人が中古の衣類や雑貨などを気軽に売り買いできる「フリーマーケット(フリマ)アプリ」が人気だ。利用者数が国内最大のメルカリは、品物の配送サービス拡充を戦略的に推進。2015年9月にはヤマト運輸と協業して「匿名配送」をスタートした。「業界の露払いとしていろいろなことを実現していきたい」─。メルカリは今後も配送の満足度向上に意欲を示す。

宅配の料金設定を簡素化

個人がインターネット上でフリーマーケット(フリマ)のように中古の品物を売り買いできる「フリマアプリ」の人気が広がっている。アプリをスマートフォンにダウンロードした上で、出品者と買いたい人が品物の価格などで折り合えば売買が成立。運営会社は手数料を取得する仕組みだ。

国内で最大の利用者を抱えるのがベンチャー企業のメルカリ(東京)だ。2013年7月にフリマアプリ「メルカリ」の提供を開始。今年9月にはダウンロード数が累積で1800万を突破した。

特定の分野や性別に絞り込まず、幅広く品物を受け入れている点や、写真をスマホで撮影して商品に関する情報を入力すればそのまま出品できる手軽さなどが好評を博している。1日の出品数は数十万、購入金額は月間数十億円に及ぶ。今年1月以降に売れた商品を見ると、全体の約2割が出品から1時間以内に買われたという。


メルカリで販売された品物の割合(メルカリ資料より引用)※クリックで拡大

同社の小野直人ビジネスディベロップメントマネージャーは「使いやすさにこだわり、かなり作り込んだアプリを提供しているのがわれわれの大きな特色の一つ。同業他社にもUI(ユーザーインターフェース=スマホの画面表示や操作しやすさなどを指す)をまねされているところが多かったので、われわれのシステムがベンチマークとして使われているところがあるのかなと思う」と自信を見せる。現在は昨年9月に進出した米国の事業拡大にも努めている。

他のeコマースと同様、フリマアプリも売買の成立後に出品者から購入者へ品物を確実に渡す必要がある。メルカリは利用者の満足度を高めて信頼を勝ち取るため、配送を重点分野と位置付け、利便性や確実性の向上に取り組んできた。

今年4月には、ヤマト運輸と協業で新たな配送サービス「らくらくメルカリ便」の提供を開始した。購入された品物をヤマトが展開している小型荷物向けの「ネコポス」「宅急便コンパクト」や通常の「宅急便」で運ぶ際、フリマアプリ利用者のためにいくつかの独自策を講じた。

まず、「宅急便」で送る場合の配送料金区分を簡素化した。通常は荷物の大きさごとに、配送距離に従って細かく定められているが、例えば最も小さい60サイズであれば全国一律で1個当たり600円に統一した。ネコポスを用いる場合は195円、宅急便コンパクトは380円に設定している(いずれも税込み)。

いずれも料金は割安な水準に抑え、利用を促している。通常料金との差額分はメルカリが負担。あらかじめ料金を把握できるため、出品者は配送料金を含めて販売価格を決められるようになった。

併せて、購入者の住所などの情報を登録したQRコードを出品者のスマホに送付。出品者は全国約4000カ所のヤマト営業所で専用端末「ネコピット」にQRコードをかざせば、伝票に送り先住所などが自動で印刷され、手書きの手間が省ける。荷物追跡サービスなども使え、荷物が確実に届いたかどうかを確認することも可能だ。

小野氏は、らくらくメルカリ便導入の狙いについて「お客さまの利便性を高めるために、配送を担う会社の皆さんとより積極的にアライアンスを組んでニーズを実現しなければいけないという機運が社内で高まった」と振り返る。

ただ、メルカリはさまざまな品物を取り扱っているため、送る物によっては、らくらくメルカリ便をわざわざ使わなくても普通の郵便で十分、といった場合もある。そのため、ヤマトや佐川急便、日本郵便の宅配や普通郵便に関する情報をアプリ内のページに掲載し、従来と同じく、配送手段を選ぶのは利用者に委ねるという原則を貫いている。


「メルカリ」の画面。操作しやすさが魅力の1つだ(メルカリ提供)※クリックで拡大

ヤマトと顧客データベースを連携

15年9月には、らくらくメルカリ便で新たな取り組みをスタート。出品者も購入者も、互いに相手へ自分の個人情報を知らせずに品物をやり取りできる「匿名配送」の機能を追加した。

出品者がスマホの画面に表示したQRコードをヤマト営業所の端末にかざし、送り状を発行する手順までは同じだが、その送り状には相手の氏名や住所などの情報が表示されない。双方とも住所を公開せずに品物をやり取りできる仕組みだ。

実際には、情報が記載されていないのは送り状だけで、ヤマト側はバックヤードで送り先の住所や氏名を把握しており、配送に支障はない。ヤマトとメルカリの顧客データベースを連携させ、こうした匿名配送を可能にした。

小野氏は「匿名で品物をやり取りする試みはこれまでにもあったが、われわれほどの規模感で手掛けているのはおそらくなかったのではないか」と語る。

小野氏はらくらくメルカリ便のパートナーにヤマトを選んだ理由として、「CtoCのラストワンマイルのクオリティーが非常に高い。さらに、あれだけの歴史を持つ大企業ながら、新しい営みにもフットワーク軽く、非常にスピード感を持って前向きに応えてくれた」と説明する。中小eコマース業者らの物流サポートに注力して配送需要を取り込みたいヤマトと、戦略的に配送を強化したいメルカリの思惑が合致し、有機的に結び付いた格好だ。

メルカリは他にも、らくらくメルカリ便の利用時に配送のトラブルで品物が破損・紛失した場合、商品の代金を全額補償するなど、利用者の安心感を高める取り組みを続けている。小野氏は「スマホに特化したフリマアプリでトップシェアを持つわれわれが露払いをして、いろいろなことを実現していきたい」と意気込んでいる。


「匿名配送」の仕組み(メルカリ、ヤマト運輸プレスリリースより引用)※クリックで拡大

(藤原秀行)

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