プロに見せたい物流拠点④エレコム・神奈川物流センター(前編)

プロに見せたい物流拠点④エレコム・神奈川物流センター(前編)

「カイゼン」と自動化の2本柱が大量出荷を支える屋台骨

未曾有の人手不足など課題山積の物流業界で逆境に負けず、省力化や生産性向上などに果敢に取り組む物流施設を紹介するロジビズ・オンライン独自リポートの第4回は、マウスやスマートフォン用カバーといったパソコン周辺機器、スマホ関連商品を手掛けるエレコムが神奈川県相模原市に構えている「神奈川物流センター」を前後編の2回にわたって取り上げたい。

2014年6月に本格稼働を始め、トヨタ自動車流の「カイゼン」と積極的な自動化を2本柱に据え、「当初の姿は原型をとどめていない」と言うほど地道に改善活動を継続。同社が日々手掛ける大量の商品出荷を屋台骨として支えている。


「神奈川センター」の外観(エレコムプレスリリースより引用・14年の稼働開始当時のもののため、現在は一時デザインが変わっています)

「当初の原型とどめないほど変えてきた」

神奈川物流センターはラサール不動産投資顧問と三菱地所が共同開発した先進的な物流施設「ロジポート相模原」に入居。5階のフロア3600坪(約1万2000平方メートル)を活用している。

もともとは東京・江東区の「東京物流センター」と大阪市の「大阪物流センター」に次ぐ第3の物流拠点として開設。その後、「東京」の機能を「神奈川」に統合し、再び2センター体制に回帰した。現在は東日本への出荷を「神奈川」、西日本は「大阪」がそれぞれ受け持っている。

エレコムの町一浩物流部長は拠点の在り方を見直した背景として「東日本大震災で東京のセンターが相当揺れ、危機感を覚えた。センターは沿岸部にあったので、地盤の強固な内陸部に拠点を持つ必要があると考え、圏央道沿線を探した」と振り返る。

神奈川のセンターでは現在、1日平均でパソコンの周辺機器やスマートフォンの関連製品など約15万ピースを出荷している。主な出荷先は家電量販店などだ。週末に売れた商品の補充を行うため、月曜と火曜が出荷のピークとなる。日曜に出荷準備を前倒しで進め、なるべく出荷業務量が平準化するよう努めている。

出荷形態は9割が多様な商品をばらで詰め合わせるパターンだという。量販店の店舗ごとに異なる梱包で届けなければならないため、日々のオペレーションも工夫が求められており、常に効率化が命題となっている。エレコムでは家電量販店からPOSデータを入手し、店頭在庫に至るまでボリュームの適正化を図るなど、情報システムも駆使しながら出荷の精度向上を図っている。

高回転のセンターの原動力となっているのが、トヨタ自動車の「カイゼン」と自動化だ。町部長は「業務を改善しようと既に当初の原型をとどめないくらい、さまざまな物を変えてきている。基本的には機械設備を増やしてきた」と笑顔を見せる。


センターで稼働中のライン

神奈川のセンターは設備を自前で投入、現場のオペレーションも外部業者に丸投げではなく、協力物流事業者とタッグを組み、協力しながら日々の改善を図るスタイルを堅持している。町部長は「2000年に東京のセンターを立ち上げた際は、私自身も営業から移ったばかりで知識や経験が不足しており、非常に混乱した。そこから大変勉強させていただいた」と振り返る。一緒に改善点を見出し、意見を出し合いながら現場を良くしていくスタイルが重要と痛感したようだ。

まず商品ごとに総量を集めた上で顧客別に分ける集約ピッキングの工程はスタッフが中心的役割を担っていることから、まさにカイゼンの王道ともいえる手法を取り入れている。作業のどこに無駄があり、どのように改善していくかを、作業スタッフの動作を逐一撮影した動画を基に検討。現場にフィードバックしていく流れを確立している。

また、神奈川と大阪の両センターで定期的にカイゼンを果たした事例の発表会を開いて情報を共有し、優れた取り組みは

すぐさま別のセンターでも横展開していくよう心掛けている。神奈川のセンター内を尋ねても、スタッフの目につきやすいところに改善事例の報告が所狭しと掲示されている。

例えば、従来は梱包用の段ボールを作業量にかかわらず一定量棚に置いていたが、1日に使用が見込まれるボリュームに合わせて置く量を変更する方式に変え、適正使用を促したり、かご台車を固定する輪止めが床にあるのに気付きにくく、つまずいて転倒する危険性があったので表示を置いて注意喚起することでトラブルを予防したりといった事例の報告が写真入りで並んでいる。カイゼンに取り組む意欲の強さをうかがわせる光景だ。


安全確保のために留意すべき点をセンター内に明示※クリックで拡大

センター内に掲示されている改善事例報告※クリックで拡大

ロケーション番号は分かりやすいよう大きく表示

町部長は、こうした日々の努力の積み重ねのおかげで、神奈川のセンターは稼働当初から比べると人時生産性が2~3割改善されたと明かす。「東京センター時代から数えるともう10年くらいカイゼンに取り組んでいる。現場にはカイゼンするのが当たり前という認識が浸透したかなと思っている」と手ごたえを感じている。

かつては物流事業者との間に壁があったと反省を口にする町部長。「下請けなどという感覚を持って接していては絶対に駄目だ、パートナーとしてともに業務に当たるという姿勢で取り組まなければならないと気づいた。10円20円料金を下げて、といった根拠のない話をするのではなく、作業コストの部分もきっちりと開示した上で、いかにコストを抑制できるかお互い知恵を絞っていきましょうというスタンスで取り組んでいる」と力説する。今後はコスト抑制の成果を共有し合える「ゲインシェアリング」を本格的に展開していこうと意気込んでいる。


取材に応じる町部長

“胃袋つかんで”、貴重な人材つなぎ止め

神奈川のセンターが位置する相模原市は、高速道路のICに近いことなどもあり、物流適地として近年は大型物流施設開発が相次いでいる。それだけに、庫内労働力の確保がさらに難しくなっていくことが予想される。

町部長もそうした危機意識を持ち、働く場として選んでもらえる物流センターづくりに腐心している。ユニークな取り組みなのが、センターの休憩スペースで毎日、お昼時にご飯を炊いて、無料で振る舞っていることだ。併せて、週1回、おでんやカレーのルーなども提供しているという。漬物やふりかけも常備する念の入れようだ。暖かいものを口にできるとあってかなりの好評だという。

休憩室内には常にお菓子が置かれており、疲れた時に甘いものを食べてリフレッシュすることが可能だ。パートタイマーとして女性が多く働く職場ならではの気の配りようだ。町部長も「食べるものに気を遣ってもらうのが一番ありがたい、というお声をいただいていたので、そこをメーンに考えている」と明かす。まさに“胃袋をつかむ”ことで貴重な人材をつなぎ止めることに成功している。


休憩室に置かれたお菓子

休憩室に置かれた炊飯器

ふりかけも常備

(藤原秀行)

【動画】プロに見せたい物流拠点④エレコム・神奈川物流センター(後編)

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