【独自取材、新型ウイルス】五輪時の都市部渋滞対策、1年延期で仕切り直し

【独自取材、新型ウイルス】五輪時の都市部渋滞対策、1年延期で仕切り直し

交通量抑制目標の達成不透明、より踏み込んだ対策迫られる場面も

今年夏の開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、1年程度延期されることが正式に決まった。

大会の開催期間中に選手や大会関係者を円滑に競技場などへ輸送できるようにするため、政府や大会組織委員会、東京都などの関係者は都心部を中心とした渋滞解消を重大課題と位置付けているが、「一般道は東京圏の広域で大会前から10%、都心部は30%それぞれ減らし、首都高も最大30%減」とする交通量抑制の目標を確実に達成できるかどうかは開催の数カ月前になっても不透明なままだった。延期でとりあえず仕切り直しとなった格好だ。

これまでにも政府や都は日中に首都高で通行料金を値上げして一般車両の利用を回避させることなどを打ち出してきたが、大会関係者らの間で「目標実現にはより強力な対策が必要」との声は根強い。政府や大会組織委、都は残された期間の中で開会式前後の幹線道路一部封鎖など、より踏み込んだ施策の検討を迫られる場面もありそうだ。新型コロナウイルスの感染拡大がどうなっているのか見通しは立てづらい中、物流業界も今まで以上に協力を求められることが予想される。


昨年8月に都心で行われた選手輸送の実証テストで出発を前に選手村予定地前を移動するバス

「現時点で思いつくことを総動員」

19年7月、大会本番を想定して政府や都、組織委が行った首都高の出入り口一部閉鎖などの交通規制テストでは、首都高の交通量は前年同期比7%程度、一般道は4%程度それぞれ減少。一定の効果が出たが、目標値とは大きな開きがあることが確認された。さらにテスト期間中に料金所を先頭とする長さ5キロメートル超の渋滞が首都高で発生するなど、課題も見つかった。

危機感を募らせる大会関係者らは昨年11月、経団連や全日本トラック協会など500以上の業界団体に物流面での協力を求める要請文書を送付。運送事業者と荷主企業の双方が積極的に取り組むことへ強い期待を示している。具体策として倉庫使用や輸配送の共同化、輸配送の時間帯や経路の柔軟方針などを提唱している。

並行して宅配大手3社に対し、都心部で大会開催期間中に時間指定の配送サービスを一時休止するほか、都心を回避するルートの設定や再配達削減などを行うよう要請、調整を続けてきた。3社はまだ公式には態度を明確に示していないが、ある宅配事業者の協力会社はあらかじめ要請が受け入れられることを前提として、競技場の近隣エリアなどでの配達は期間限定で停止する準備を進めてきたという。この協力会社の関係者は「物流事業者としては万全の対応を求められるだけに、どんな要求が来ても応えられるだけの心の準備はできている」と語る。

政府や都、組織委はこのほか、東京湾岸エリアの道路渋滞緩和のため、東京港コンテナターミナルのゲートオープン時間を大幅に延長するなどの措置を決定。他にも大会開催時の遅延などを想定した所要時間・経路検索が可能なシステムをインターネット経由で提供し、事業者らに事前準備で役立ててもらうなど、「まさに現時点で思いつくことを総動員している」(物流業界関係者)様相を呈しているといえる。


昨年7月に行われた交通規制のテストで閉鎖された首都高の「外苑」入り口。開会式などが開かれる予定の新国立競技場から至近距離に位置している

中小企業に物流の専門家がアドバイス

あるメーカーも昨年、先進的なITを活用した渋滞抑制策を講じられないかどうか大会関係者からアドバイスを求められたという。担当者は「かなり焦っている様子だった」と振り返る。

そうした努力の積み重ねとは裏腹に、大会関係者からはいまだ交通量抑制の目標達成へ前向きな発言がなかなか聞かれないのが実情だ。交通量抑制策を考案しても、実際に試して効果を測定するには関係者間で膨大な量の調整や周知、準備が必要になる上、物流事業者ら経済への影響も非常に大きいだけに、トライ・アンド・エラーを重ねて施策を改良する手法は取りづらい。

仮に1年後の夏にオリンピック・パラリンピックが開かれる場合、飲料やアイスクリームなどの消費が増えるため、どうしても物流量ははねあがり、小売店舗などへの配送を抑えることは極めて困難と予想されることも懸念材料だ。

東京都や関係業界団体などは今年1月、中小企業の物流対策促進を目指した「2020物流TDM実行協議会」を設立。今春以降、物流の専門家を都内など東京圏の中小企業に派遣し、各社の事業内容を踏まえた上で営業時間や配送ルートの変更、他社との物流共同化などの実効性ある対策をアドバイスする方向で準備を進めてきた。大会の開催延期で事業の進め方などが修正される公算が大きそうだが、同協議会を核に社会の草の根レベルで、より踏み込んだ対応を後押しできるかどうかが注目されている。

「業界の自助努力だけでは限界がある。物流の共同化も同一業界内ですら簡単な話ではない」(別の物流企業関係者)だけに、前述の宅配の時間指定一時中止のような、より具体的な行動を官民で早急に検討することも求められる可能性がある。

(藤原秀行)

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