国交省が「運輸安全マネジメント」シンポジウム開催
国土交通省は10月2日、東京都内で「運輸事業の安全に関するシンポジウム2018」を開催した。
「人材不足に起因する安全への課題と対策」をテーマに、さまざまな運輸事業者が自社の取り組みを報告。インターネットを活用した安全教育を展開したり、シニア層が活躍できる制度を導入したりといった実例が紹介された。
シンポジウムは、国交省がJR西日本の福知山線脱線事故などを受け、06年に「運輸安全マネジメント制度」を導入して以降、事業者が主体的に安全対策を推進する機運を醸成するため毎年実施。今回は約1100人が参加した。
冒頭、主催者を代表して国交省の秋元司副大臣(当時)が「テロなどの対応についてしっかりと目配りをお願いしたい。台風や地震災害が多数発生している。海外から安心して日本に来てもらえるよう(災害対応にも)積極的に対応していただきたい」とあいさつ。
続いて、同省の日笠弥三郎運輸安全管理官が同制度の現状を報告。事業者の取り組みをさらに深めるため、中小事業者向けのガイドラインを作成したことや、対策が進んでいる事業者の事例をネットで公開していることなどを説明した。
関西大の安倍誠治教授は「運輸事業における人材不足と安全確保の課題」について基調講演。事業者がシニア層の継続雇用などを手掛けていることに言及し、同業の良好な事例を参考に創意工夫するよう期待感を示すとともに、国や地方自治体にも、環境の変化を踏まえた各種規制の見直しをはじめ、適切な対策を講じる要望した。
「列車見張員」はより分かりやすい「命を守る列車見張員」に変更
事業者を代表し、4社の安全対策担当者が登場した。JR九州の古宮洋二取締役常務執行役員は、社内のネットワークシステムに全社員が安全に関して気付いたことや意見を自由に書き込めるようにし、対策の方針を決定した上で経営会議にも定期的に報告していると解説。
「列車見張員」は「命を守る列車見張員」、鉄道運休時に利用客へ代替輸送手配などを提供する「救済」は「緊急手配」といった具合に内部で使われている用語を変更し、関係者の間でより真意が伝わりやすくなるよう配慮した独自の取り組みにも触れた。
神姫バス傘下のウエスト神姫(兵庫県相生市)からは須和憲和社長が出席。定年制を廃止して14年に「生涯現役雇用制度」を創設するなど、シニア層の活躍を後押ししていることを明らかにした。屋内車庫の照明を水銀灯からLEDに変更し、点検などをしやすくするといった細かい配慮にも腐心している姿勢を強調。女性ドライバーの活躍支援にも注力していると語った。
航海中の船員にも「ウェブ研修」で安全教育が可能に
海運大手、上野グループ傘下の上野トランステック(横浜市)は髙尾和俊常務執行役員が船主との合同事故訓練などに加え、軸としているウェブ教育システムの実情を紹介。新規雇用された船員向けの乗船前教育などに活用しており、航海中にもシステムを使える点などをPRした。
鴻池運輸子会社で空港の航空機離発着支援事業を手掛けるKグランドサービス(大阪府泉佐野市)の青戸一登代表取締役は、現場の教育体制を見直して若手の育成度合いが均一になるよう努めたり、外国籍のスタッフが活躍できるよう英語の作業マニュアルを整備したりといった工夫を発表した。
最後に行ったパネルディスカッションには、前述の4氏と安倍教授のほか、国交省の平垣内久隆危機管理・運輸安全政策審議官が参加。フリーアナウンサーの酒井ゆきえ氏が進行役を務めた。
登壇者からは、高齢化の進展に伴い、従業員の健康管理をより徹底できるよう工夫を講じる必要性を指摘したり、人手不足深刻化に伴い未経験者を採用せざるを得ない中、基礎教育が長期化している状況を危惧したりする声が出された。
国交省はシンポジウムに先立ち、18年度の運輸安全マネジメント優良事業者らを表彰。「国土交通大臣表彰」は近畿日本鉄道、「大臣官房危機管理・運輸安全政策審議官表彰」は静岡鉄道と東海汽船、「特別賞」は損害保険ジャパン日本興亜と三井住友海上火災保険がそれぞれ獲得した。
(藤原秀行)
運輸業界関係者らが参集したシンポジウム会場