三菱総合研究所が全国6万5700人アンケート実施、理解深める機会創出を提言
三菱総合研究所は10月22日、東京都内の本社で、電動で垂直離発着が可能な次世代の移動手段「空飛ぶクルマ」に関するメディア意見交換会を開催した。
同社が全国47都道府県で実施し、6万5703人から有効回答を得たアンケート調査の結果を紹介。空飛ぶクルマの認知度は「知っている」「ある程度知っている」が全体の1割に届かなかった一方、空飛ぶクルマが近隣上空を通過することに対しては約65%が不安を感じると回答した。
空飛ぶクルマは車や電車より移動時間が早いことなどがメリットとして見込まれ、関係者の間では物流への活用も検討されている。政府は空飛ぶクルマに関し、2023年の事業開始、30年の本格普及を目指すとのロードマップ(工程表)を策定、民間企業と連携して実用化に取り組んでいる。しかし、調査の結果は空飛ぶクルマ自体の定義が明確に定まっていないことなどもあって、一般の人々の間で認知が進んでおらず、不安を覚えている向きも少なくない実態を浮き彫りにした。
同社フロンティア・テクノロジー本部の大木孝主任研究員は結果を踏まえ、「技術開発だけではなく、地域住民やユーザーの理解を深める機会の創出が必要」と指摘。一般の人々が空飛ぶクルマに触れる機会を増やすためにも、特に地方で実証試験エリアを整備することが急がれると分析した。
調査は今年8月、インターネットを利用して実施した。調査の際、「空飛ぶクルマはタクシーのように気軽に乗れる1~4人乗り程度の新しい航空機」「乗り物としての安全性は従来の航空機と同程度」などの前提条件を説明した上で回答を求めた。物流に関しての言及はしなかった。
ドイツのボロコプターが日本航空などと組んで実用化を目指すeVTOL(ボロコプター提供、JALプレスリリースより引用)※クリックで拡大
飛行容認できる頻度「緊急時であれば」がトップ
空飛ぶクルマの認知度では、「よく知っている」は1・2%、「ある程度は知っている」が5・8%で、「知らない」の67・1%と大きく差が開いた。「聞いたことはある」(25・9%)を加えても、存在を知っている人は全体の3割程度となっている。認知度に関しては、都市部とそれ以外のエリアで大きな傾向の違いは見られなかったという。
また、利用したいと回答した人は、「よく知っている」の68・7%、「ある程度知っている」の35・0%に達した一方、「知らない」では13・4%にとどまり、認知度が高いほど利用意欲も盛り上がってくることを示した。
空飛ぶクルマの利用に関して最も重視することを尋ねたところ、「安全性・信頼性」が53・8%で群を抜いて多く、「料金の安さ」(22・0%)、「(移動の)時間短縮効果」(10・2%)、「乗りたい時間に乗れる」「搭乗場所のアクセスの便利さ」(ともに2・1%)などと続いた。「特にない」は6・7%だった。
空飛ぶクルマが近隣の上空を通過することには、「やや不安がある」が最も多くて34・2%、次いで「不安がある」が30・9%で、合わせると約65%が不安を覚えていることが浮き彫りとなった。「そもそも反対である」も7・2%いた。
「あまり不安はない」は14・7%、「不安はない」は4・0%、「分からない」は9・0%だった。
不安や反対を表明した人に、不安を感じる最大の理由を聞いたところ、「事故が起こりそうだから」が57・7%でトップ。「よく分からない乗り物だから」が15・6%、「落下物がありそうだから」が10・4%、「音がうるさそうだから」が9・3%、「自分や地域にとってのメリットが見えないから」が3・5%などとなった。
近隣上空を通過しても容認できる頻度は「緊急時(災害や緊急搬送)ならよい」が31・0%と首位で、「数時間に1回程度」(20・1%)、「1時間に1回程度」(12・2%)、「1日に1回程度」(11・9%)、「1回も許容できない」(10・1%)、「何回でもよい」(8・4%)などと並んだ。
大木氏は結果を踏まえ、空飛ぶクルマの実用化に向けたポイントとして、認知度の向上、安全性確保とPRが許容度アップにつながると解説。「まずは特定された場所への移動用途に導入し、限定された飛行経路で実績を積んだ上で、より日常的、広域のユースケースに拡大していくことが想定される」との見解を示した。
大木主任研究員(2019年撮影)
(藤原秀行)