日本GLP・帖佐社長独占インタビュー(後編)
日本GLPの帖佐義之社長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
帖佐社長は、重要な社会インフラの物流を止めないため、デベロッパーの立場から物流施設での新型コロナウイルス感染拡大防止へ最善を尽くしていると説明。過密回避へ現場でロボット導入など機械化・省人化や接触機会低減のニーズが高まっているのを受け、グループでトラック受付・予約システムなどを手掛けるモノフルや、三井物産と共同設立したロボットを取り扱うプラスオートメーションと連携して的確なソリューションを提供、事業領域を物流施設開発の周辺に広げていくことに強い意欲を見せた。
インタビューの後編を掲載する。
「床を貸す」以上のやり方で物流業界発展に貢献
――新型コロナウイルスは事業へのネガティブな影響はないとのご説明でしたが、今後の物流施設は大前提として従業員に感染させないということが強く求められると思います。物流施設を全国で運営していく中で、感染防止にどう取り組みますか。
「その点はわれわれもすごく神経を使っています。やはりこうした時でも、物流が寸断されないというのは本当に基本中の基本であり、われわれデベロッパーがずっと守り続けなければいけない点だと思います。施設が長期間閉鎖させられるような事態になっては絶対いけないということで、相当緊張感を高めて施設の運営管理に当たっており、常駐している管理会社とも連携して徹底的に感染対策を施しています」
「お客さまやテナント企業の方々への手指消毒など感染防止策の徹底した呼び掛けもそうですし、共用部でのソーシャルディスタンシング確保、感染防止のための間仕切りとか、あとは頻繁な消毒、利用制限、密を避けるための人数制限というようなことを、かなり高いレベルで実施してきています。万が一、物流施設の専有部内で感染者が出た場合も、即座に当該部分の入居者の方々と協議して、それ以上の感染防止策を迅速に講じることにより、専用部内でのオペレーションも必要最低限のストップで再稼働できるように持っていけるよう準備しています」
――コロナ対策が今後も物流施設運営の基礎となることに変わりはなさそうですね。
「本当にそうですね。社会インフラとして寸断しない物流づくりはわれわれの開発の中の、基礎中の基礎の理念として取り組んでいますから、コロナに関しても収束と言えるまでは気を緩めることなく日々の事業に臨んでいきたいと思います」
――人同士の接触機会を減らすことが不可欠になりますし、過密を避けるには必然的に物流施設へ人をあまり集められなくなりますから、非接触化や機械化、省人化を進めていかなければいけない方向に進んでいくと予想します。
「それが自然な流れではないかと思いますね。もともと、人手不足や人件費高騰、働き方改革による労働時間短縮が課題となっている中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)やロボット化、自動化の必要性は盛んに言われていましたが、初期の設備投資負担がすごく重いことなどから、物流現場では皆さん、なかなか必要とは分かっていても踏み出せなかったのがここ3~5年の実態だったのではないでしょうか。それがコロナ禍という、ある意味外圧のようなことが起こり、いよいよ変化しなければいけない、足を踏み出さなければいけないという機運が各社の中で高まっているのは間違いないと思うので、取り組みが加速するのではないでしょうか」
――御社のテナント企業からもそうした声は出ていますか。
「出ていますね。ソーシャルディスタンシングを実行していく上で、施設内のこういった造作の変更が必要になってくるというご相談が結構寄せられていますし、(日本GLP傘下で物流効率化支援のためのトラック受付・予約システムなどを手掛ける)モノフルのサービスに対する問い合わせ件数も非常に伸びています。それはコロナ禍の影響も相当数あるのではないかとみています」
プラスオートメーションが取り扱っている中国のロボットメーカーZhejiang Libiao Robots製ソーティングロボットシステム「t-Sort」(プラスオートメーション提供)
――今後はモノフルや、御社と三井物産が共同で設立した物流現場向けのロボットを取り扱うプラスオートメーションの果たす役割が大きくなるのでは?
「そう思います。モノフルに関しては、物流施設とトラック受付・予約システムなどのサービスを融合するとの観点で提供している部分もありますが、実はもう1歩踏み出していて、われわれの物流施設とモノフルのサービスを別個に考え、モノフルのサービスをどんどん使ってください、というような営業も展開しています。モノフルのサービス自体、われわれの物流施設のリーシングを促進するための補完的なものではなくて、もう少しモノフルが手掛けているサービスそのもので事業として広がっていけるようにしたいと考えています。今の一連の流れの中で、事業機会はすごく増えるのではないかと期待しています」
「モノフルのサービスは当社の物流施設に限らず利用できるというのは当然のことではありますが、さらに踏み込んで、物流施設だけではなくて建設現場などで使われるケースが結構あるんです。密集を避けなければいけないとか、ロボット化・機械化をしなければいけないというところであれば、ありとあらゆる場所にモノフルのサービスを広げていくことが可能なので、この点もまた、追い風になるのかなと思います」
――従来イメージされてきたデベロッパーからは事業領域がますます大きく広がりそうですね。
「もともと当社のベースとなる考え方として、床を貸す以上の、物流業界全体の発展に貢献するやり方があるのではないか、とずっと思っていました。これだけわれわれの施設展開が広まっていく中で、今後も同じように物流施設だけを作っていくという考え方ももちろんありますが、その一方で、物流施設の床以外のところでのビジネスチャンスの創造というところにも事業領域を広げていけるだけのベースがわれわれには備わっていると自負しています。ある程度アセットの規模がなければ、デベロッパーでそうしたことにはなかなか思いが至らないのではないでしょうか」
「床というところだけにセグメントを限ってしまうと、それは他力本願での成長しかありません。これだけの物流施設のプラットフォームがある中で、私としては本当に、先進技術の創出など不動産以外への事業領域拡大に挑戦し続けたい。そして、先ほど申し上げたようにそれが進展して、当社の物流施設の付帯サービスという位置付けではなく、事業そのものに発展していけば、当社の事業領域はものすごく大きく広げられる可能性が出てきますし、物流業界の発展にも貢献していくことができます。そうした好循環を作り出すエコシステムの確立により本腰を入れて取り組んでいきたいですね」
モノフルのトラック受付・予約サービス「トラック簿」を現場で利用(上・浜松倉庫、下・ダイキン。モノフル提供)
日中両国のチームで物流DX手法をやり取り
――GLPグループで日本のように事業領域を広げる形で物流業界のDXに取り組んでいるところはありますか。
「中国ですね。日本のわれわれよりもやっていることが早いんです。5年くらい前から日本で手掛けているようなことには取り組んでいますし、投資や事業の成長のスピードも速い。それはもう国の違い、文化の違いというところに尽きるとは思いますが、実態がそうなっているんです。ただ、日本でも基礎となるインフラは整っていますし、経済規模も大きいですから、中国のやり方をそっくりまねるということではありませんが、似たような形で発展をしていくことは可能でしょう」
――中国のやり方を日本に反映させたり、日本の取り組みを中国に移植したりといったことがありそうですね。
「すごくありますね。同じことを行うのであれば取り入れた方が開発の手間やコストが省けますし、非常に効率が良い。そこはかなり密に、日中両国のチーム同士でやり取りをしています。無駄がないよう、一番効率の良い方法でお互いのいいところを取り入れようと努めています」
――コロナ禍でも国内外からの物流施設への不動産投資意欲は継続していますか。
「リモートワークになり、会社への出勤が減ったからいろんなプロセスを進める上でスピードが鈍るといったことはありましたが、投資意欲が下がるみたいな影響はほぼ皆無でした。むしろ、コロナ禍で物流施設の良さがあらためて認識され、投資意欲は強まった感があります」
「当社が物件供給のスポンサーを務めているJリートのGLP投資法人の投資口(企業の株価に相当)価格は3月末にコロナの影響で大きく値を下げましたが、その後は上場来高値を何度も更新しています。6月に実施した公募増資も応募件数のベースで想定の10倍集まりました。Jリートのディスカウント率(増資の発行価格が投資口1口当たりの出資金よりどの程度割安に設定しているかを示す)は、通常3%程度、大きい場合は6%くらいに設定しますが、今回は1%という非常に小さな割引率で実施することができました。これはJリートでも前例がありません。そうしたことがコロナ禍の最中で実現できたのは投資意欲、投資対象としての魅力の旺盛さをものすごく強く感じています」
「Jリートの物流施設銘柄の時価総額がオフィスビル対象の銘柄を一時上回るということは到底予想できませんでしたし、われわれが日本で物流施設開発をスタートしたころとは隔世の感があります。Jリートでは物流施設のインプライドキャップレート(期待利回り)がこれまで非常に水準が高く、オフィスビルや住宅に比べてなぜこんなにプレミアムが乗るんだろうとずっと疑問を呈してきましたが(注・インプライドキャップレートが低いほど、投資家が対象のアセットを高い価値で評価していることを表す)、なかなか解消されなかった。コロナ禍という特集な事情があったとはいえ、ここに来て逆転現象が起こっているのは感慨深いものがありますね」
(藤原秀行)