物流向けクラウドロボティクス基盤を開発
協働ロボAMRの協調制御で優位性を実証
チューリッヒ工科大からスピンオフしたロボットベンチャーが、日本の物流現場から生まれた協働型ロボットAMRを商用化した。各種の物流ロボットやマテハン設備とWMSをつなぐオープンなクラウドプラットフォーム、そして独自の群制御AIを活用し、高度な協調制御を可能にしている。(聞き手・本誌編集部)
コスト、柔軟性の壁を乗り越える
日本通運は8月、品川支店が運営するダイキン工業の保守パーツセンターで、ロボットベンチャーRapyuta Robotics(以下ラピュタ)の協働型ピッキングロボット(AMR: Autonomous Mobile Robot)の実運用を開始した。
日通とラピュタは18年10月からAMRの開発に共同で取り組んできた。19年6月からは実証実験に入り、20年6月に先のパーツセンターに10台を投入、最終調整を終えて本稼働に移行した。日通は同センターのオペレーションを通じてAMRの能力を最大限に活用する運用方法を構築し、今年度中に他拠点への横展開を目指す。
AMRはピッキングする商品が保管されている棚の前で待機して、庫内作業員から荷物を受け取り自律搬送する。作業員は運搬や歩行、商品を探す必要がなくなり、作業効率が大幅に向上する。
AGV(無人搬送車)がピッカーの待つステーションまで保管棚を搬送する「GTP(Goods to Person)型」と違って、稼働中の既存施設にそのまま導入できる。初期投資や運用コストもGTP型の20〜30%程度に抑えられるという。
日本通運のAMR導入事例詳細はこちらラピュタ共同創業者のクリシナムルティ・アルドチェルワンCFOは「GTP型ロボットを導入するとなれば、センターの床工事から始めなければならないが、AMRなら棚を動かす必要さえない。しかも、まず10台を導入してその効果を確認しながら20台、30台と、小さく始めてスケールアップしていける」と説明する。
ラピュタは、アルドチェルワンC F Oと共にスリランカ出身で東工大で学んだモーハナラージャー・ガジャンCEOが、スイスのチューリッヒ工科大の博士課程在学中にEUから出資を受けて手掛けたプロジェクトをきっかけにスピンアウトし、2014年に設立した。これまでにソニー、安川電機、SBI、GLPグループ、伊藤忠系のファンドなどから約40億円の資金を調達している大学発ベンチャーだ。
ガジャンCEOは「当社のミッションは、きつい・汚い・危険の“3K”業務をできる限り自動化して、人間には創造的な仕事、価値のある仕事をしてもらうこと。そのためにロボティクスをもっと便利で身近なものにしたい」という。
ラピュタは物流の自動化を当面のターゲットに据えている。製造と違って物流は、どのようなオーダーがどれだけ入ってくるのか事前に予測できない。オーダー次第で処理量だけでなく作業内容も変わってくる。それだけ自動化のハードルは高く、ロボットの普及が遅れている。自分たちの技術力を活かせる領域だと判断した。
ガジャンCEOは「ロボット業界の課題は大きく二つあると言われている。一つはコスト。とりわけ物流は投資対効果をクリアするのが難しい。そして二つ目が、標準的なプラットフォームがないことだ。ベンダーによって規格がばらばらなので、インテグレーションが複雑になってコストと時間がかかってしまう」と指摘する。実際、ロボットの導入ではインテグレーション費用が投資総額の過半を占めることも珍しくはない。
モーハナラージャー・ガジャン代表取締役CEO
それを解決するツールとしてラピュタは、クラウドロボティクスプラットフォーム「rapyuta.io」を開発した。AMR/AGVやロボットアーム、マテハン設備などを制御するそれぞれのWCS(Warehouse Control System)とWMSをつなぐ、ROS(Robot Operating System)ベースのプラットフォームだ。
自動化物流センターの共通基盤としてrapyuta.ioを利用することで、様々なベンダーのハードやソフトを簡便かつ自由自在に組み合わせてシステムを構築できる。携帯電話業界でアンドロイドOSが、それまでメーカー別に分裂していた業界の複雑性を解消したのと同様の役割を果たす。
rapyuta.ioに組み込まれた独自の群制御AIを活用することで、多数のロボットや設備の高度な協調制御も可能になる。ラピュタはそのコンセプトを評価され、2018年の日本郵便のオープンイノベーションプログラムで最優秀賞を受賞した。
「群制御」で運用に違いが出る
ラピュタがrapyuta.ioの普及に向けて、その有効性を証明する尖兵として開発したソリューションがAMRだ。協働型ロボットは作業員の動きや通路に仮置きされた荷物など、環境に柔軟に対応しなければならない。ロボット専用エリア内だけで動かすAGVと比べてはるかに高度な制御技術を必要とする。
アルドチェルワンCFOは「複数のロボットをどうやって効率良く動かすか、そこで必要とされる群制御と呼ばれる技術において、われわれは世界トップレベルにあると自負している。関連特許も複数取得している。群制御の技術レベルは、端的には運用できるAMRの台数に表れる。当社の大きな強みだ」と胸を張る。
クリシナムルティ・アルドチェルワン代表取締役CFO
ラピュタはリソースをできる限りプラットフォームの提供に集中し、その他の領域はパートナーと手を組むオープン戦略をとっている。そのパートナーの一つがQvou(キューボー)だ。Qvouは1985年に保険代理店として出発、太陽光発電事業やEC事業に領域を拡大してきた。その事業基盤を活かしてラピュタ製AMRの取り扱いを開始した。AMRの導入を検討したい企業がQvouのサイト(下部記載)で拠点情報を入力すると、3営業日以内にシミュレーションを行い導入効果を分析、効果を確認できた場合は、同社がラピュタ用に開発した損害保険付きで導入プランを提案する。
Qvouの久保龍太郎社長は「AMRの投資規模は倉庫の大きさや作業員の数にもよるが、10台導入した場合、通信設備やシステムのインテグレーションまで含めたトータルコストで5千万円程度から。中小物流企業でも十分に銀行融資を受けられるレベルだ。固定資産税の減免や公的補助も期待できる。作業員の数は三分の二~半分で済み、物流企業にとって最大の事業リスクである人手不足をコントロールできる。その意義は決して小さくないはず」と強調する。
ラピュタ製AMR詳細はこちら株式会社Qvou
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-11-5 クロスオフィス 渋谷メディオ8F
http://rapyuta-qvou.jp/
TEL:0120-191-491
MAIL:info@qvou.com