自社開発に加え、AM・PMも受託案件積み上げ目指す
不動産のトーセイグループは物流施設事業を拡大する方針だ。トーセイが既に首都圏で2件の自社開発を進めているほか、トーセイ・アセット・アドバイザーズ(TAA)とトーセイ・リバイバル・インベストメント(TRI)が開発のサポートやテナント企業の誘致、国内外投資家への対応などを担うアセットマネジメント(AM)、施設を適正に管理するプロパティマネジメント(PM)の両業務に注力。プロジェクトの立ち上げから完成前後のリーシング、適正管理まで包括的にサポートできる点を強みにして、受託案件の積み上げを図る構えだ。
トーセイが自社で初めて開発した物流施設「T’s Logi橋本」の外観(トーセイプレスリリースより引用・クリックで拡大)
きめ細やかな対応力で国内外投資家と関係強化
トーセイはオフィスビルや商業施設、マンションなど都心部の中小型物件を中心に開発や投資を手掛けている。新規事業として物流施設開発にも参入、第1号案件の「T’s Logi橋本」(神奈川県相模原市)は延べ床面積が約1・2万平方メートルのコンパクトサイズで、今年4月に竣工した。完成に併せて日本梱包運輸倉庫が1棟借りしている。
第2弾は埼玉県蓮田市で延べ床面積が約2・5万平方メートルの物流施設を建設しており、2021年1月の完成を目指している。今後も年間1~2件程度の開発を続けていきたい意向だ。
自社開発と並行して、TAAとTRIによる物流施設のAM・PM受託を推進。以前より柱としている収益マンションのほか、オフィスビルや商業施設、ヘルスケア施設など多様なアセットを対象に据えており、受託資産の残高は今年9月に1兆円の大台を突破した。
トーセイグループは物流施設に関しても相次ぎ業務を獲得しており、AMを受託中の物流施設は現在国内で9物件、PMは13物件に上る。国内主要デベロッパーからも相次ぎ引き合いを受けており、最近では今年7月、米投資ファンド大手のブラックストーン・グループとTAAが運用している不動産ファンドが大和ハウス工業から取得する物流施設4件のAMをTAAで受託した。
日本長期信用銀行や日本レップ(現グッドマンジャパン)を経て現在はTAA社長を務める若林要氏は、物流施設のAM・PM業務を順調に獲得できている背景として「私を含めて物流施設が好きな人間が集まっている。このことが非常に大きい」と言い切る。
若林氏自身、日本レップで05年、物流不動産に特化したAM事業立ち上げに携わるなど、国内の賃貸物流施設市場の黎明期から活動してきたキャリアを持つ。同氏は「例えば、賃料にしてもエリアの実態に近いリアルな相場観の情報を持っており、テナント企業などのご要望も踏まえて適切な設定ができる。地味ではあるが、そうした細かいところまでスピーディーに対応していくことがとても重要だ」と説明。きめ細やかな対応力で国内外投資家と関係強化を図っていると強調する。
埼玉県蓮田市で建設を続けている物流施設の完成イメージ(トーセイプレスリリースより引用・クリックで拡大)
低稼働率続いた物件で満床達成
一例を挙げると、東日本で有力デベロッパーが開発したあるマルチテナント型物流施設は、敷地の形が影響して建物もきれいな長方形ではなく変則的な形状にせざるを得なかったことなどがネックとなり、完成後も低稼働率が続いていた。しかし、TAAやTRIが運営に参加した結果、満床を達成したという。
TRIオルタナティブインベストメント事業部で物流業務を担当する小林啓介シニアマネージャーは「テナント候補の企業をまめにフォローし、建物内のこのフロアのこの位置にはこんなニーズを持つ方が合うと細かく提案していった結果、最適なテナント企業を見つけ出すことができた」と振り返る。この施設には最近のマルチテナント型物流施設には標準仕様になっているともいえる共用部のカフェテリアやコンビニなどの設備はほとんど導入されていないという。
小林氏は「もちろんアメニティー施設は働きやすい環境を整える上で重要ではあるが、まずはいかにオペレーションしやすい機能を備えているかがテナント企業の方々の最大の関心事。そうしたニーズを重視していきたい」と語る。TAA私募ファンド運用本部事業開発第二部の佐藤尚吾サブマネージャーは「新型コロナウイルスの感染拡大防止対策もテナント企業などに周知徹底しており、物流を止めないよう配慮することが強く求められる」と気を引き締める。
前述のブラックストーン・グループは日本の物流施設への投資を広げていく構えを見せており、トーセイグループとしてもAM・PM業務で携わっていきたい考え。若林社長は「海外投資家は決断が極めて早い。そうしたスピード感に対応していけるからこそ、当社グループを選んでいただけているのだと思う」と自負を語る。
トーセイで自社開発する物流施設についてもTAAやTRIがAM・PM業務を担い、都心の中小型案件としての付加価値を高めていくことを念頭に置いている。コロナ禍でEC利用が急増したのに伴い、ラストワンマイル配送を担える都心物件への注目度がさらに高まることが予想されるだけに、トーセイグループのAM・PM業務拡大のチャンスが増えそうだ。
(藤原秀行)