資金調達やマーケティングも対象に、中小事業者の優良商品販促後押し
ECを手掛ける中小事業者や個人事業主の物流業務支援を担っているスタートアップ企業のKEYCREW(キークルー、東京都渋谷区神宮前)は、顧客の業務支援対象領域を資金調達やマーケティングにも広げる計画だ。併せて、物流に関しても自社拠点を拡張し、取り扱う商品数の増大に対応する。
優良な商品を手掛けているEC事業者の成長を後押しし、新型コロナウイルスの感染拡大下で利用が大きく伸びているECの一段の活性化に貢献していきたい考えだ。
物流支援サービスは初期費用が不要で使った分だけ請求する完全変動型の料金体系を採用していることなどが評価され、既に100社以上が契約している。資金調達やマーケティングの支援サービスも2020年度中(21年7月末まで)に顧客の獲得を目指している。
KEYCREWのロゴ(以下、写真は全て同社提供)
「1件300円から始める通販物流」
KEYCREWは18年設立。EC事業者向けに19年から入出荷や保管、流通加工、配送など一連の物流業務を代行するサービス「STOCK CREW(ストッククルー)」を展開している。埼玉県八潮市で倉庫の1フロアを借り受け、同社が入出荷などを行うための専用拠点として運営。従業員も確保し、システムも自ら開発するなど物流のインフラは自前主義にこだわっているのが特徴だ。
中小事業者や個人事業主は物量自体が少ないだけに、一般的な物流企業や3PL事業者になかなか業務を委託しづらいのが実情。KEYCREWはそうした事業者らに特化し、同社倉庫への商品入荷予約などを済ませれば割安な料金で1ピース単位から商品の保管や出荷、ECモールへの納品などを請け負っている。入荷予約などはKEWCREWのサービス利用者向け専用ウェブサイトで済ませることが可能で、入出荷や在庫の状況はいつでもパソコンやタブレット端末などからアクセス、確認できる。顧客の商品配送はヤマト運輸を利用している。
「STOCK CREW」のロゴ
STOCK CREWのサービス利用者向け専用ウェブサイトのイメージ。在庫の現状などをすぐに把握できるよう自社で改良した※クリックで拡大
料金はサービスの案内用ウェブサイト上で基本的な情報を公開しており、簡易見積もりも可能。「300円から始める通販物流」をうたい、実例としてTシャツをヤマトの「ネコポス(ケース)」で配達する場合、入出荷と配送で1件1点当たり320円、保管は1日当たり0・25円と紹介している。あくまで目安で、条件によって金額は変わってくるが、中小事業者や個人事業主にとっては非常にサービス利用開始のハードルが低くなっているといえる。
三菱商事ロジスティクスで物流現場の機械化などに携わってきた経験を持つKEYCREWの中村慶彦CEO(最高経営責任者)は「中小企業や個人事業主の方々は、せっかく優れた商品を作り出せても人員など避けるリソースに限界があり、どうしても効率の悪い商売をやらざるを得ない。われわれが物流を包括的に担うことで、事業の立ち上げ段階からのサポートが可能になる」とサービスの意義を強調する。
KEYCREWが自社の物流拠点を細かく区割りして、各顧客の少量の商品を保管。当日の午後2時までに受注した商品は全てその日のうちに出荷しており、遠隔地以外は翌日配送が可能だ。
どうしても人手やノウハウが必要となる物流を委託できるだけに、特定の消費者には熱烈に支持されそうな“スーパーニッチな商品”のECを手掛ける中小事業者や個人事業主にとってKEYCREWは救世主のような存在となっている。例えばこれまでに、新型コロナウイルスの感染拡大で奮闘する医療従事者を支援するプロジェクト「Think The Day」に参加した著名モデルの紗栄子さんが提供したチャリティーTシャツの発送を担当。他にもアフリカ原産の健康食品、災害時に猫を一緒に連れて避難するための特製軽量ケージなど、ユニークでかつ、必要とする人が絶対にいそうな商品を取り扱ってきているという。サービス開始から1年で契約は100社を突破した。
中村CEOは「市場拡大に伴い、大手だけではなくスーパーニッチの層がどんどん厚くなってきている」と分析。19年のEC市場規模から推察すると、自社の潜在顧客数は約5万社と見込まれ、非常にサービスの伸びしろが大きいとの見方を示す。現在は取扱量の増加を踏まえ、2拠点目の自社拠点確保を検討している最中だ。
取引情報を金融機関の与信判断に活用
経営リソースが限られた中小事業者や個人事業主をより強固に支えるため、新たなサービスとして、資金調達をサポートする「MONEY CREW(マネークルー)」と、マーケティングを担う「MARKET CREW(マーケットクルー)」の準備を進めている。
前者は顧客の棚卸し在庫や受発注の情報を可視化し、金融機関に整理して提供することで、融資の際の与信判断に生かせるようにすることを想定している。中小事業者や個人事業主にとっては、取引データを自らまとめなくても少額から資金調達できる道が開けるとともに、金融機関としても新たな融資先開拓につながることが期待できる。既に地方銀行などが関心を寄せているという。
後者もKEYCREWが在庫情報などの取引状況に関するデータを踏まえ、最も適した広告出稿先をアドバイスしたり、適正な在庫水準をはじき出したり、販売促進のための売価変更を提案したりすることを検討している。
中村CEOは「事業の立ち上げから売上高が10億円くらいまでのお客様にとって当社が最良のソリューションを提供できるよう、物流以外にもサービス領域を広げていく」と強調。5年後には顧客を2万社規模まで増やしていきたいと壮大な夢を語る。スーパーニッチECがこれからも出現していく上で欠かせない存在になっていくことを目指している。
(藤原秀行)