CoralCapitalがオンラインセミナーで分析、動向注視
独立系ベンチャーキャピタルのCoralCapital(東京都千代田区大手町)は1月14日、米国のバイデン新政権発足がスタートアップ企業に及ぼす影響を予測するオンラインセミナーを開催した。
ゲストとして、米カリフォルニア州シリコンバレー在住でベンチャー企業支援を手掛けるWiL共同創業者兼CEO(最高経営責任者)の伊佐山元氏が登場。CoralCapitalのジェームズ・ライニー創業パートナーCEOも参加した。
両氏は、民主党政権に代わることでキャピタルゲイン課税が引き上げられる可能性が取りざたされていることに関し、もし実行されれば事業を成功させたスタートアップ企業創業者や従業員、投資家がリターンとして得られる株売却益への課税も強化され、米国内で多大なリスクに挑んで事業を興すインセンティブが縮小する可能性があり、影響が大きいとの見解で一致。バイデン政権に慎重な判断を要望するとともに、動向を注視していく必要があるとの考えを示した。
また、米国のスタートアップ企業では事業を成長させる上で移民が大きな役割を果たしていると指摘。移民排斥の傾向を鮮明にしたトランプ大統領からバイデン氏へ交替することで、状況が改善されるよう期待を表明した。
「移民や外国人が活躍、経済活性化に貢献」
伊佐山氏は、トランプ大統領の支持者らが今年1月、連邦議会の議事堂を不法占拠した騒動を受け「共和党内でもトランプから離れた人が結構いる。皮肉なことに騒動を契機として(事態収拾に向けた)共和、民主両党の一体感が出てきている」と指摘。
同時に「(不法占拠には)結構立派なビジネスマンや、オリンピックで金メダルを取ったようなアスリートも加わっていた。米国の将来を懸念する人たちが多く参加していた」と解説、極端な思想の持ち主が煽った行動との画一的な見方を否定し、米国内の多様性に引き続き配慮すべきだとの見解を明らかにした。
政策面に関しては、米国の実態として、未上場で企業価値が10億ドル(約1100億円)を超す「ユニコーン企業」の55%は移民が創業しており、巨大IT企業のグーグル、アマゾン、アップル、フェイスブック4社を指す「GAFA」のキーとなるエンジニアは6割以上が外国人で占められていると説明。「移民や外国人がスタートアップ業界で活躍し、米国の経済活性化に貢献している 移民の力をどうやって経済に取り込むかが大きなテーマになっている」と述べた。
そうした状況がトランプ政権の4年間で大きく様変わりし、多くの企業で優秀な人材の採用に苦労してきたと分析。「民主党はファクトベースで見ると、多様性を維持するのが大事という考えを持っている」と述べ、移民問題に対する政策の姿勢が転換するとの見通しを示した。
「日本は高度なスキル持つホワイトカラー引き付けるチャンス」
税制に関しては、ライリー氏が「バイデン次期大統領がコロナのパンデミック(世界的大流行)が続く中で税制改革を優先し、大きく変革しようとするのか。(キャピタルゲイン課税引き上げは)いろんなインパクトがあると思っている。実行されれば怖い」との思いを吐露。
「(起業や投資という)リスクを取ったのに結局ほとんど(税金でリターンを)取られるとなると、リスクとリターンの関係の部分で大きな影響があるんじゃないか」と懸念を表明した。さらに、ベンチャーキャピタルを運営している経験も踏まえ、起業家らのファンドレイジング(資金調達)が難しくなる恐れがあると訴えた。
伊佐山氏も「(リスクを取って有望な事業に進出するという)良い循環にブレーキを掛けるのは、ものすごくネガティブだと思う」と賛同。「シリコンバレーがある米カリフォルニア州は世界5位のGDP(域内総生産)を生み出している。ハイテクカンパニーが付加価値をどんどん生んでいる。英国を上回るだけの規模だ。これを減速させてしまっていいのか」と述べた。同時に、仮に税制改正に乗り出した場合、スタートアップ企業創設に冷や水を浴びせないよう、何らかの折衷案が取られると予想した。
一方、伊佐山氏は日本の社会情勢が米国に比べれば安定していることなどを踏まえ、「税制に限って言えば、英語対応が弱いとか、行政対応が外国人にフレンドリーではないとか、細かい要件でまだまだ十分ではないが、日本は高度のスキルを持っているホワイトカラーを引き付けるチャンス」との見方を示した。
(藤原秀行)