【好評連載】「目指せ!ガイドレスAGV・AGF導入への道」(第2回)

【好評連載】「目指せ!ガイドレスAGV・AGF導入への道」(第2回)

「自己位置推定能力」を見極める

リンクス AW事業部
小山早俊 プロダクトマネージャー

物流業界や製造業では深刻な人手不足に加え、新型コロナウイルスの感染拡大で省人化・非接触の重要性が増していることもあり、かつてないほど自動化技術への注目度が高まっています。

その中でも、倉庫や工場の床に誘導のための磁気テープを貼ったりする必要がなく、人に代わって商品や部品を自動で運んでくれる「ガイドレスAGV(無人搬送ロボット)」や「ガイドレスAGF(無人搬送フォークリフト)」の存在感が際立っています。

ロジビズ・オンラインでは、先進的な技術を製造業や物流業などにいち早く紹介することを社是としている技術商社リンクスの小山早俊氏に、ガイドレスAGV・AGFの現状や導入する上での重要な視点を全8回にわたって解説していただく予定です。2回目はガイドレスAGV・AGFの肝となる機能の部分に踏み込んでいきます。

おさらいはコチラから!⇒連載第1回:「選定の際に重視すべき3つのポイント」

鍵を握る4つの要素を押さえる

前回はガイドレスAGV(無人搬送ロボット)の普及状況と3つの選定ポイントについてご紹介した。

——————————————————————–
ガイドレスAGVの選定ポイント
 1.自己位置推定能力
 2.群制御(フリートコントロール) 
 3.操作性
——————————————————————–

では、この選定ポイント一つ一つについて、より具体的に述べてみたい。まず今回は自己位置推定能力だ。正確には、自己位置推定能力に基づいた走行性能を見る必要がある。

これは、さらに4つの要素に分けられる。

  a. 停止位置精度(静的精度)
  b. 走行精度(動的精度)
  c. 自己位置推定の安定性
  d. 経路自動生成能力

●その停止位置精度は本当?

a.停止位置精度は、目的の位置で車両が止まる位置決め精度だ。外部装置との搬送物受け渡しなどで重要になる。

もし搬送物の積み下ろしを人がやるのであればさほど重要ではない。AGVの止まる位置が多少ずれても、人は気にせず積み下ろしできてしまうからだ。しかし、完全自動化を目指すとなると話は別だ。搬送不良を起こさないためにプラスマイナス1センチメートル程度の高度な停止精度が必要になる。

ただ、現時点でターゲットマーカーなしにこの精度を実現できる製品は少ない。そもそも、自己位置が「ずれている」かどうかも分からないというAGVすら存在する。

今選定中のAGVのカタログに「停止精度±1cm」と書いてある? しかし、安心するのはちょっと待っていただきたい。本当にそのAGVは“ガイドレス”で停止精度がプラスマイナス1センチメートルなのだろうか?

カタログスペックが現実環境下でそのまま発揮できるとは限らない。カタログの表記には「理論値」や「弊社環境下(≒理想環境下)で」という条件が省略されている(隠されているとも言う)ことが往々にしてある。

そのため、メーカーの担当者によくよく話を聞いてみると、「装置との連携部分には磁気テープを貼って下さい」「装置側に引き込みなどの機構をつけて下さい」などと言われてしまう。導入後に後悔しないためにも、実際のところはどうなのかをきちんと確認する必要がある。


導入が広がるAGVのイメージ(リンクス提供)

●見落としがちな走行精度

b.走行精度は、停止位置精度ほどには求められないかもしれない。よほど狭い場所でない限り、多少車両の走行位置がずれたとしても問題にはならない(ここでいう多少とは、数センチメートル程度)。とはいえ、すれ違いやカーブについては注意する必要がある。

AGV同士が狭い通路ですれ違う場合には、相互の位置ずれが重なって衝突の危険があるし、カーブでは曲率や車両の速度に応じてずれが大きくなる。このため、加減速の自動補正機能が付いていることが望ましい。

荷物のサイズや重量による慣性の影響も考慮する必要がある。牽引タイプのAGVの場合、牽引台車の挙動も気を配る必要がある。台車の制御までAGVに求めるのは難しいので、4WS(4輪操舵)タイプの台車を検討するのも有効だ。

●走ってみないと分からない『自己位置推定の安定性』

c.自己位置推定の安定性の部分も重要なポイントだ。AGVを使用する工場や倉庫では周囲に物が置かれたり、車両や歩行者が通ったりするため、周囲の状況が刻々と変化する。ガイドレスAGVはこの周囲環境の変化に大きく影響を受ける。壁の形状や特徴点を参照するため、それが隠れてしまうと自己位置を見失ってしまうのだ。

例えば世界的に利用されているロボット制御用のオープンソースミドルウェアROS(Robot Operating System)のSLAM(自己位置推定と地図作成の技術)モジュールをベースに開発された制御ソフトの場合、一般的に周囲の環境が元のマップに比べて20~40%程度変わってしまうと自己位置推定できなくなるといわれている。このため、ちょっと荷物を置いただけでAGVが走れなくなった、という話はよく聞く。また、逆に周囲が大きく開けたフロアで壁や柱が少ない場合も問題となる。参照できるものが存在しないために自己位置を計算できなくなってしまうのだ。

このような場合、装置周りには磁気テープを貼り、開けた場所ではわざわざ壁の代わりになるついたてを設置する羽目になる。これでは「ガイドレスとはいったい何だったのか」ということになる。

確実なのは「実際に走らせてみる」ことだけ

●どこまでの経路の自動生成能力を求めるのか?

d.経路自動生成能力と聞いてまず思い浮かべるのは、現在地と到着地だけを指定すれば、あとはAGVが自動的に適切な走行ルートを計算して、目的地まで走ってくれるというものだろう。一部にはそういう機能を持つAGVも存在するらしいが、現実として、そこまで都合の良い技術は実現していない。

そもそも工場や倉庫の中をAGVが(人の意思を離れて)好き勝手に走り回るというのは、どこまでニーズがあるのか、筆者としては疑問である。現実的には、あらかじめ人が走行可能なルートをいくつか引いておき、AGVが現在地と目的地から最適なルートを選択する、というのが妥当なところだろう。

ただし、パレットの取り扱いが必要なAGF(無人フォークリフト)の場合、これだけでは不十分だ。AGFでは平置きされたパレットに対し、実際の位置・角度を割り出して適切にフォークを差し込む必要がある。

この場合、特定エリアの範囲内で経路生成能力が必要になる。さもなければパレットは全て冶具(架台)の上で取り扱うことになる。これについては別途、AGFによるパレットハンドリングの回で詳細を解説することとする。

以上、「自己位置推定能力に基づいた走行性能」という観点でAGV選定の注意点を洗い出してみた。長々と述べたが、読者の皆さんが検討中のAGVが本当に使えるか否か、筆者からできるアドバイスは実は一つだけだ。「実際に貴社の現場でAGVを走らせてみて性能を確認する」、それ以外に確実な方法はない。

昨今の状況下ではオンサイトのデモを実施するのもなかなか難しいが、導入後に後悔しないために、これは避けて通れないのだ。

第3回は群制御(フリートコントロール)について解説していきたい。

次回へ続く)

著者プロフィール
小山早俊(おやま・さとし)
1978年熊本県生まれ。2006年3月東京大大学院工学系研究科修了後、同年4月丸紅ソリューション(現丸紅情報システムズ)入社。非接触3Dスキャナ(GOM社)のセールスエンジニアとして経験を積んだ後、隙間段差レーザー計測装置LaserGauge(Origin Technologies社)など複数の新商品立ち上げに従事。外資系マーケティングエージェンシー、ミスミを経て19年12月リンクス入社。フィンランドのAGVメーカーNavitec(ナビテック)担当のプロダクトマネージャーとして事業立ち上げ、新製品や最新技術の日本国内への展開などを担当している。

テクノロジー/製品カテゴリの最新記事