セイノーHDとエアロネクストが意欲、地方都市での空輸も24年ごろスタート念頭に
傘下に西濃運輸を抱えるセイノーホールディングス(HD)とドローン(無人飛行機)開発を手掛けるスタートアップ企業のエアロネクスト(東京都渋谷区恵比寿)は、ドローンなどの技術を組み合わせ、業務を効率化・省人化して山間部などの過疎地でも確実に荷物を各世帯へ届けられる仕組み「スマートサプライチェーン」の確立に取り組んでいる。
第1弾として、山梨県東部に位置する人口約700人の小菅村で今年4月末、ドローンを生かした配送サービス「SkyHub(スカイハブ)」を始める予定。国内で初めての本格的な商業ベースのドローン物流となる見込みだ。両社はノウハウを蓄積した上で、スマートサプライチェーンを他の市町村にも広げていくことを目指しており、今後3年程度をめどに全国展開を図りたい考えだ。
政府は2022年度を目標として人口が多い都市部でもドローンが操縦者の目が届かない長距離を飛行できる「レベル4」を実現したい考え。両社はスマートサプライチェーンの経験を生かし、地方都市でのドローン物流も24年ごろにはスタートすることを念頭に置いている。
小菅村でデモ飛行するエアロネクストのドローン(同社提供)
デモ飛行に際してドローンに荷物の箱をセットするスタッフ(エアロネクスト提供)
将来は他の物流事業者にも参加呼び掛け
セイノーHDとエアロネクストは今年1月、スマートサプライチェーンの実現に向け業務提携契約を締結したことを発表した。セイノーHDは中期経営方針で物流のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化による生産・在庫・配送の最適化、自動化、無人化を推進し、スマートサプライチェーンを実現させることを打ち出している。
エアロネクストは独自に開発した、荷物を傾かせず安定して飛行できる重心制御技術「4D GRAVITY」を生かし、やはりドローン関連技術の開発を担う自律制御システム研究所(ACSL)と連携して物流用ドローンの量産を目指すなど、ドローン物流への貢献を事業の軸に据えている。小菅村とは昨年11月、ドローン配送事業の実現化およびドローン配送導入による地域活性化に向けた連携協定を締結した。
業務提携によりセイノーHDが全国で物流網を日々運営しているノウハウと、エアロネクストが強みとするドローン関連の先進技術を組み合わせ、人口減少や高齢化が課題となっている地方エリアのラストワンマイル配送を強化することを目標としている。
業務提携を発表した田口義隆セイノーHD社長(左)と田路圭輔エアロネクスト代表取締役CEO(両社提供)
スカイハブは既存の物流網とドローン物流を融合させることを狙いとしており、当初は村民向けの専用インターネットスーパーで購入した日用品などを取り扱う予定。まず配送センターからトラックで「ドローンデポ」と呼ぶ一時保管所に商品を届けてストックし、その中から注文があったものを、村内の8集落それぞれに設けた着陸場「ドローンスタンド」までドローンで配送。注文した村民はメールなどで通知を受ければ、ドローンスタンドまで商品を受け取りに行く流れを想定している。
デポとスタンドの距離は直線で2~3キロメートル、最長で5キロメートル程度。山間部のため、トラックでは時間が掛かるが、ドローンは直線距離で飛べるため、5分程度で到達できると見込む。エアロネクストの「4D GRAVITY」を生かせばスピードを出せるようになり、ドローン最大の弱点となっている風に対してもより対抗できるとみている。
スカイハブの概要(セイノーHD、エアロネクスト提供)
物流事業者は必要な時に荷物を確実に届けることが社会的使命ではあるが、実際には山間地など人口が少ないエリアにトラックで長距離を運ぶのはコストの面でも、労力の面でも大きな負荷となっている。スマートサプライチェーンの背景には、ドローンなどを活用して業務を効率化し、ドライバーらの負担を減らすことで物流の持続可能性を高めたいとの思いがある。
スカイハブは当初、セイノーが請け負った荷物が対象だが、将来は他の物流事業者からの荷物も引き受ける考え。セイノーHDの河合秀治ラストワンマイル推進室長は「スマートサプライチェーンは多くの物流事業者にも参加いただくオープン・パブリック・プラットフォーム(O.P.P.)として運営していきたい。この領域で競争するのではなく、協業を促進していきたい」と狙いを説明する。
エアロネクストの田路圭輔代表取締役CEO(最高経営責任者)は「住民の方々に何度もお話を伺う中で、小さなお子さんがいらっしゃるご家庭が深夜でお医者さんに行けない時に薬を届けてもらえるといったような、24時間物を配送できるインフラがあればいいということには非常に理解をいただけた」と語る。小菅村ではかつて悪天候で孤立した経験があるだけに、物流の持続可能性という点には強い意識を持っているという。
小菅村の木で作られた木版の協定書を掲げる田路社長と舩木直美村長(エアロネクスト提供)
農作物出荷など村外への物流にも対応
ただ、両社に共通した認識は、スマートサプライチェーンはドローンによる物流ありきではないということだ。その時々で住民にとって最適な手段を用いて物流を確実に実施することに軸足を置いている。小菅村でも、ドローンのほか、村内を走るバスで貨客混載をしたり、住民の車で荷物を運んでもらったりする案が浮上しているという。
また、村民へ荷物を届けるという一方通行ではなく、例えばドローンスタンドに物を届けた帰りに、農作物などを積んでデポまで戻り、そこから村外へ配送するなど、村民間や村外への物流にもドローンを生かすことを検討している。ドローンの稼働率を高め、双方向で荷物をやり取り可能なスマートサプライチェーンを運営したい考えだ。既存物流網を最大限生かすことにより、ドローン物流の利用料金を下げようとしている。
村民からはドローンが災害時の緊急物資輸送手段としても期待されており、田路氏は「普段オペレーションしていないものを急にやろうとしても無理。平常時に生活インフラとしてきちんと運営を重ねていけば、災害時にもドローン物流を生かせるようになる」と指摘する。
総務省によれば、過疎地域を持つ自治体は小菅村を含めて全国に817存在している。河合氏は「当社グループは47都道府県に物流ネットワークを構築しているので、817の自治体にも何らかの形でトラックを走らせている。小菅村でしっかりとしたスマートサプライチェーンのパッケージを作り上げることができれば、他の自治体にも迅速に横展開していくことが可能」と説明。「3年で(全国展開に向けて)何らかの目鼻を付けたい」と強調する。
田路氏も「おそらく817の自治体の20%まで導入することができればデファクトとなり、その後は一気に広がっていくと思う。20%に相当する約150の自治体に活用していただくまでにどれくらいのスピードで取り組めるかが普及の広がりを占う上で重要になってくる」と持論を展開。「究極の目標は817全ての自治体に私どものスマートサプライチェーンをお使いいただくようになることだ」と笑顔を見せる。今後は両社が連携し、小菅村に続く第2、第3の自治体導入事例を着実に成功させていこうと意気込んでいる。
両社はスマートサプライチェーンが順調に広がれば、都市部でのドローン物流にも注力していく構えを見せる。河合氏は「小菅村はレベル4解禁に備えたノウハウ蓄積の意味でも非常に重要。きっちりと仕上げていきたい」とアピール。田路氏も「レベル4解禁が22年の秋口と仮定した場合、実証実験のプロセスがおそらく1~2年必要なので、24年度がわれわれにとって重要な“X年”になっている。いきなり東京や大阪で始めるのは難しいだろう。おそらくまずは地方都市で着実に実績を重ねていくことになる」と語り、準備を進める姿勢をPRした。
(藤原秀行)