【独自取材】中国で進む日系建機メーカーのKYB離れ

【独自取材】中国で進む日系建機メーカーのKYB離れ

現地企業との競合でシェア落とす

 免震・制振用オイルダンパーの性能データ改ざん問題に揺れる油圧機器大手KYB。当面はこの問題への対応に追われることが予想される中、中長期的な経営で足かせとなりかねない新たな懸念要素が浮上している。

 金融筋によると中国の建機向け油圧機器市場で苦戦を強いられ、大幅なマイナス成長に陥っているというのだ。背景には現地企業の台頭があるとみられ、昨年時点で首位の座を奪われるなど長らく市場をリードしてきた“KYB”ブランドに黄信号がともっている。日系メーカーの海外製造拠点をめぐるサプライチェーンの変化を象徴する動きともいえ、国際物流に関わる物流事業者らの関心を集めそうだ。

 最大の要因とされるのが現地油圧機器メーカー「江蘇恒立液圧有限股分公司」(Jiangsu Hengli Hydraulic Co Ltd)の飛躍的な成長にある。ロジビズ・オンラインが行った業界関係者へのヒアリングなどによると、江蘇恒立液圧の2017年業績は売上高が約28億元(約480億円)で前年から倍以上の成長を遂げた。機械セクターに詳しい金融業界関係者は「中国の建機向け油圧機器だけを見ても年率2桁台後半の驚異的なペースで伸長している」と目を見張る。

 これに対してKYBの成長率は2桁台のマイナスと近年急速に落ち込んでいるという。この関係者は「昨年の中国市場における売上高はKYBの170億円に対して江蘇恒立液圧が200億円と逆転。同じく中国展開している日系企業のナブテスコなどと比較してもKYBの減速感が著しい」と指摘する。

日系メーカーと江蘇恒立液圧が急接近

 日系企業が海外事業で現地勢と競合することは特段珍しいことではない。現地での顧客ネットワーク、コスト優位性などから江蘇恒立液圧に分があると考えるのが一般的だろう。実際に江蘇恒立液圧の売上高は今のところ9割方が自国内向けで、海外向けは1割程度とごくわずかなものにとどまっているという。

 しかし前出の金融業界関係者は、江蘇恒立液圧が単に“現地企業”という理由だけで成長を続けているわけではない点に注目している。「既に日系大手建機メーカー各社も中国の製造拠点で江蘇恒立液圧の製品を採用し始めている。テクニカルアドバイザーを派遣するなど関係性は深まっているようだ」と実態を明かす。

 加えて納入価格も両者間に開きはなく、ほぼ同レベルで取引されているもようだ。裏を返せば江蘇恒立液圧の技術力をスペック重視の日系メーカーが認めたといってもいいだろう。この関係者は「江蘇恒立液圧は米キャタピラーなど欧米系建機メーカーにもスペックインしている。今や世界市場で“お墨付き”を得た存在」と技術力・品質の高さを評価する。

 KYBにとっては最重要顧客である日系メーカーの剥落という深刻なリスクシナリオに直面する一方、江蘇恒立液圧の台頭で今後の海外展開により厳しさが増すことも想定される。


※写真はイメージです

免震不正ショックでM&A対象の可能性も

 いずれ中国市場が飽和状態を迎えれば、江蘇恒立液圧が日本を含む海外に活路を見いだしていくことは想像に難くない。その中でKYBが勝負していくには国内、中国以外のアジア諸国、欧米での拡販が選択肢となり得るが、「国内は免震不正問題で風当たりが厳しい。中国以外のアジア市場における営業力は未知数。欧米は既存プレーヤーが多く期待値は低い」(金融業界関係者)と決して楽観できるような状況ではないことがうかがえる。

 気になるのが今後のマーケット動向次第では油圧機器メーカーに再編の可能性があるとの見方だ。市場関係者は一つの仮説と前置きした上で「KYBは免震不正に関連する交換工事などで今後も大量のキャッシュ流出が避けられない。業績悪化が長引けば果たして今の企業体を維持できるかどうか。メーカー再編の流れいかんでは、KYBの事業部門がM&A市場で格好のターゲットになり得るだろう」と展望する。免震不正問題が予期せぬ形で他の事業に飛び火すると捉えている点は興味深い。

業績不振の長期化で事業構造てこ入れか

 一部報道によるとダンパー交換工事に伴う費用が1000億円に上ると見込む一方、メーンバンクのみずほ銀行はKYBに対して全面支援の姿勢を示していると伝えられる。多額の資金流出、長期化が予想される業績不振を前にメーンバンクからサポートを取り付けられたことは、荒れ狂う波にもまれる同社にとって雲間から差し込む光明になったといえるだろう。

 だが金融筋では「八方ふさがりの事業環境下でどのような経営を行っていくのか。最終的な着地点は銀行なども含めた総合的な判断によると思うが、いずれにしても今の業態を維持していくのは難しいだろう」と警戒感を緩めない。

 免震不正の発覚から1カ月。先日には別の手口によるデータ改ざんの疑いも明らかになった。現時点で問題のダンパーを採用しているのが確認できた物流施設は22物件。これ以外にも適合の是非が判明していないものが多数存在するという。中国市場での油圧機器事業の苦戦は輸送業務を担う物流企業にも波及しかねない。「Feel the Power of KYB」を掲げる“油圧の名門”がかつてない苦境に立たされている。

(鳥羽俊一)

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