取り組む具体的項目の非公表が7%、自主性頼みの運動に限界
トラックドライバーの長時間労働などを是正しようと、政府が荷主企業や物流事業者と連携して展開している「ホワイト物流」推進運動が本格的にスタートしてから3年目に突入した。今年4月末時点で同運動に賛同した企業や団体などはトータルで1213に上り、関係者の間で徐々に浸透している。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大下で経済環境は厳しく、同運動が今後も思惑通り推進していくかどうかは楽観できない。企業や団体などの新規参加数もペースが減速し、同運動が一層普及していく上で正念場を迎えている。
ロジビズ・オンラインは同宣言などのデータを基に、同運動の成果と課題を分析、前後編の2回に分けて、トラックドライバーの働き方改革につなげていくために必要なことを探った。
推奨項目から消えた「物流考慮した建築物の設計・運用」
同運動に賛同した企業などが提出する自主行動宣言は、事務局が推奨項目として盛り込んだものの中からどの項目に取り組むかを選択、明記する仕組みだ。この中で、同運動の開始当初は独立した項目として設定されていたものの、途中から消えてしまったものがいくつかある。
その中の1つが「物流を考慮した建築物の設計・運用」だ。これまで商業施設などの建築物で、屋内駐車場にトラックが入れなかったり、配送に使えるエレベーターが足りなかったりと物流の円滑化を考慮した設計・運用が意識されていなかったのを踏まえ、国土交通省は2017年に大規模建築物向けの手引きを作成するなど、物流を考慮した開発・設計・管理が広まるよう取り組んでいる。
その流れの一環として同運動にも盛り込まれた格好だが、実際に選択した企業などはわずか8で、全体の0・1%程度。さすがにこの状況を踏まえて、途中で推奨項目から外したとみられる。
ただ、商業施設などへの商品搬出入といった部分で余計な負荷を減らすこと自体は、ホワイト物流の精神に合致している。自主行動宣言への反映は厳しくても、今後の同運動推進の中であらためて物流を意識した建築物の設計や管理などは地道に呼び掛けていくことが期待される。
また、同運動に関する課題も浮き彫りとなっている。自主行動宣言を見ると、設定された推奨項目のうち、具体的にどの項目で運動を進めていくのかの詳細を開示していないケースが散見される。同運動自体、法的拘束力はなく、あくまで各企業の自発的な意欲に頼った内容となっているためだ。
同運動の公式ウェブサイトを見ると、どの推奨項目を選んだかは非公表とすることを選択できるようになっている。ロジビズ・オンラインが集計した結果、自主行動宣言を提出した企業など1213のうち、選んだ項目を開示していないのは85。全体の7・0%だ。しかし、製造業が5・0%(348中の18)と平均を下回っているのに対し、卸売・小売業は7・6%(105中の8)、運輸・郵便業は8・1%(643中の52)と平均を上回っている。
非公表を認めているのには同運動への賛同企業などの数を増やすため、参加のハードルを下げる狙いがあった。同運動の公式ウェブサイトも「企業などの皆様の自主的な取り組みを促進する運動なので、個別企業の取り組みの進捗状況のチェックを行うことは想定していない」と明言している。
非公表としている宣言を見ると、「最終更新日」や「自己PR欄」も空欄となったままで、最小限の情報しか記入していないケースが散見される。企業などが非公表としたくなる心情は理解できるし、自主性に重きを置く運動の限界を示しているとも言えるが、やはり具体的にどういった事項に取り組むかを明示しないと、その企業が本当に同運動へ注力しているのかどうかを外部から見極めるのは困難と言わざるを得ない。
同運動から2年が経過した時点で非公表が1割弱に上ることについて、多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれそうだが、取り組みの公平性や信頼性を確保するためにも、非公表を認めている点について、何らかの再考の余地はありそうだ。
インセンティブの工夫や具体的成果の発信が不可欠
同運動に賛同した企業などへのインセンティブとしては、補助金など直接的なものではないものの、関係省庁の物流効率化などに関する補助制度に道を開いているほか、国交省が展開している「モーダルシフト等推進事業」の審査で前向きな評価材料となることが挙げられている。併せて、各企業や団体、組合がホームページなどでホワイト物流推進に賛同、具体的に活動している旨を表明することでイメージ向上などが期待できる。
同運動は働き方改革の一環として24年4月1日にトラックドライバーへの時間外労働上限規制が導入されるまで、継続する予定となっている。働き方改革の実効性を高めるためには、同運動を継続するためのインセンティブをより充実させるとともに、ホワイト物流運動の成果をより幅広く公表することが不可欠だ。同運動の公式ウェブサイトは、賛同した企業などの一覧を掲載しているが、加えて、具体的な成果なども積極的に情報発信していくことを強く求めたい。
(藤原秀行)