戦略人財の育成
タナベ経営 土井大輔 物流経営研究会チームリーダー
新型コロナウイルスの感染拡大が引き金となり、物流現場には密集回避へ省人化や非接触化が不可欠な全く新しい“ウィズコロナ”の世界が到来しています。物流業界もどう対応していくのか、答えを明確に持つことが求められています。
ロジビズ・オンラインでは未曾有の難局を乗り越える強い物流企業に生まれ変わるための鍵を、タナベ経営の経験豊富なコンサルタント、土井大輔氏に紹介いただいております。第4回は混乱を生き抜くのに必須の「戦略人財」をいかに育てていくかに焦点を当てます。
土井大輔氏(タナベ経営提供)
物流企業の価値は“顧客(荷主)のサプライチェーンを最適化する”こと
大量生産・大量消費の時代が終わり、製品のライフサイクルが短くなる中で、多品種少量生産へシフトしている。物流においても一括大量輸送から多頻度少量輸送へ変化し、細かなサービスが求められるようになっている。
少し前のデータではあるが、国土交通省によると、1990年は1輸送当たりの荷物量が平均2・43トンだったものが2015年には約6割減の0・98トンまで落ち込んでいる※。1輸送当たりの荷物量が減り、輸配送回数が増加すれば、物流業務は非効率になる。
物流企業において顧客から依頼されたモノを依頼されたところへ依頼された数届けることはあくまで最低限の業務であり、“物流のプロ”として顧客(荷主)の調達・仕入れから販売までの全体の流れを最適化することこそが価値発揮であると認識すべきだ。
※国交省「第10回 2015年調査 全国貨物純流動調査(物流センサス)」より
戦略人財の必要性
物流企業は“現業人材の数とスキル”で業績が成り立つため、現業要員の確保が優先されることが多い。しかし、先述した通り、顧客の調達から販売までの全体を最適化するためには顧客の戦略により近いポジションで情報を収集し、物流企業から提案することが必須となる。(図1)
(図1、タナベ経営提供)
以下、顧客のサプライチェーン最適化のために提案する例と自社(物流企業)の取り組み例を記載する。(図2)
(図2、タナベ経営提供)
物流企業として、物流品質が良いのは当然のことである。今こそ物流のプロとしての誇りと自信を持ち、顧客(荷主)のサプライチェーン最適化に貢献することを掲げていただきたい。
戦略人財育成の進め方
これからの戦略人財育成のために認識すべき5点を整理する。
(1)自社・顧客ともに戦略テーマは多岐にわたる(スピードも求められる)
(2)スキルのシェアリング(社内シェアだけではなく他社との協業=オープンイノベーション)
(3)選ばれる会社に人材は集まる
(4)“受け身のビジネスモデル”から“課題発見提案型ビジネスモデル”への転換
(5)非付加価値業務・ルーティンワークの消滅
重要なことは、従来の固定型組織にテーマを落とし込んでもスピードは上がらないし、組織や人材も育たないということである。そこで、社内プロジェクトを組成して取り組むことをオススメする。以下、社内プロジェクトの成果をつなげるためのポイントを3点記載する。
1点目は「取り組むテーマ・期限」を明確にすることである。製造業のサプライチェーンを研究し、最適化のためのメニューを作ることなどが例として挙げられる。まれに「テーマはメンバーの想いで何でもよい」という経営陣もいるが、それでは丸投げであり、経営陣としての価値が無い。
2点目は「部門横断×世代横断」で人選することである。倉庫部門、輸配送部門、システム部門、営業部門などから集まった30歳~40歳代の混合で編成すべきである。
3点目は「経営マターとして継続して取り組む」ことである。プロジェクトの責任者は経営陣とし、丸投げせずに毎回参加すること。また、必要に応じて外部アドバイザーを活用すべきである。選抜メンバーは任期制とし、交代しながら継続することで、経営システムになるよう定着させる。
若い経営幹部・社員を青年役員として任命する「ジュニアボード」
タナベ経営では年間約100社のジュニアボード支援を行っている。
ジュニアボードとは、若い中堅幹部・社員を青年役員として任命し、彼らに経営全般について、またビジョンについてなど、役員と同じように問題を討議させ、そこで生まれた若い人の感覚によるアイデアを役員会に意見具申させ、良い点を取り入れていこうとするものである。タナベ経営はクライアントを支援する際、以下の3点を重視している。
(1)単なる研修に終わらせない
毎回、実践することを明確にして机上の空論に終わらせずに実行・定着につなげる。未来創造機能として、現役員陣に提言するプロジェクトとして運営する。
(2)次世代経営の目線を外さない
自社の業績・財務状況を共有し、“我が事”を醸成する。ほとんどの企業で計数講義なども実施する。自社の未来像を参加者それぞれが全社最適で俯瞰、具体化することで、次世代経営チームの目線をすり合わせる。
(3)“評論家”幹部をつくらない
自部門だけではなく他部門や顧客の要望を全員で共有する。経営全体の目線から、実経営に必要と考えられる経営ノウハウを習得することで、経営のバランス感覚を養う。
期待できる効果としては、以下の3点である。
(1)次世代経営チームづくり:持続的な発展に向けた体制作り
(2)経営者意識:現場マネジャーから脱却し、経営者意識へ(モノの見方・考え方)
(3)マネジメントノウハウの習得:経営幹部としてマネジメントノウハウの習得
ぜひ戦略人財の育成を図る上での有効手段として検討していただきたい。
参考:https://www.tanabekeiei.co.jp/t/consulting/tcb/juniorboard.html
(第5回に続く)
著者プロフィール
土井 大輔(どい・だいすけ)
大学卒業後、システム機器商社を経て2006年タナベ経営入社。自身の実績を生かし、“新規市場の開拓”“受注型産業のビジネスモデル転換”を中心に事業戦略の構築を数多く支援。「物流が世の中を支えており、最高のマーケティング機能である」と考え、15年に物流経営研究会を立ち上げた。サプライチェーン最適化を軸とした事業戦略の構築や物流関連企業の収益力強化支援の実績を多数持つ。