サプライチェーン脆弱性解消へ生産拠点新設・分散化、DX加速急務に【検証・岸田内閣発足(前編)】
岸田文雄内閣が10月4日、正式に始動した。新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けている国民生活や経済の立て直しが喫緊の課題となる。「安倍~菅ライン」からの政策の転換も見込まれる中、物流業界に今後どのような影響が出てくる可能性があるのかを、これまでの岸田首相の発言内容などから前後編の2回に分けて探った。
衆議院本会議で第100代首相に指名された自民党の岸田総裁(中央、首相官邸ホームページより引用)
高機能の物流施設開発で腕を振るうチャンス到来か
焦点の経済政策に関しては、国内外の物流にも影響してくるとみられる「経済安全保障」の強化が当面の大きな焦点となる。
経済安全保障は、経済の側面で国や国民をさまざまな脅威から守ることを意味している。近年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で自動車メーカーが東南アジアからの部品調達に支障が生じて減産を迫られるなど、感染症や災害がグローバル規模でサプライチェーンの混乱を引き起こす事態が続発。サプライチェーンの脆弱性解消も経済安全保障の重要な要素と捉えられている。
また、米国が半導体や医薬品といった重要製品の製造面における「中国依存度合い」を低減させるために日本などとの結び付きの強化に乗り出す一方、中国も対抗措置を実施。米中の覇権争いが続く中、日本としてどのように対応していくべきか戦略を構築する必要性が高まっている。
政府はこれまでにも、各省庁が取りまとめる白書などで、国民生活に不可欠な製品の生産拠点整備促進といった「サプライチェーンの強靭化」の必要性を繰り返し指摘。工場の国内回帰や分散を後押しする補助金創設などの対策を講じている。
岸田首相は9月の自民党総裁選挙に向けた経済政策の中で、半導体や医療品などの重要な物資を安定的に確保するとともに、日本が国際競争力を持つ先端技術の国外流出を防ぐための「経済安全保障推進法」制定を目指す方針を表明。国家戦略を取りまとめる意向も示した。組閣に当たっては経済安全保障担当相を新設、財務省出身で高校の後輩に当たる小林鷹之氏を起用、政権発足当初からスタートダッシュを図る姿勢を鮮明にしている。
まだ経済安全保障推進法の概要は明らかになっていないが、これまでの動きの延長線上として、生産拠点が特定エリアに集まり、災害などをきっかけに供給の途絶が懸念される製品や、医薬品のように安定供給が常に求められる製品について、製造拠点の新設・分散化や製造設備の更新を促進することが主要なテーマを占める公算が大きい。当該業界で短期的にサプライチェーンの在り方が激変する可能性は小さいかもしれないが、中長期的には変革が続いていく可能性が高まっているとは言えそうだ。
さらに、生産・物流の効率化や異なる企業間での生産代替を実現する上では、データ共有などのDX(デジタルトランスフォーメーション)も急務だ。高性能半導体などの重要製品の確保も課題となっており、物流業界は今後、サプライチェーンの変革や業務デジタル化に対応していくことが今まで以上に強く求められそうだ。
また、国内外を問わず、物流だけでなく製造工程などサプライチェーン全体をカバーできる、より先進的な機能を持つ物流施設の必要性がこれまで以上に高まることも予想される。日系デベロッパーにとっては蓄積してきた技術や経験を基に腕を振るうチャンスが到来しつつあるかもしれない。
(藤原秀行)
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