【独自取材・物流施設デベロッパーのキーパーソンに聞く】プロロジス・山田社長(中編)

【独自取材・物流施設デベロッパーのキーパーソンに聞く】プロロジス・山田社長(中編)

物流施設から産業界に貢献できる先進技術の発信を目指す

プロロジスの山田御酒社長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

山田社長は、庫内作業の自動化や効率化を推し進めるための先進技術開発に貢献できるよう、若くて技術に精通した人材を採用したいとの考えを表明。そうした人材が活躍することで、プロロジスだけにとどまらず物流不動産業界全体で開発する物流施設や関連して提供する付加価値サービスの質向上につなげていきたいとの思いを明かした。

また、脱炭素やESG(環境・社会・企業統治)投資を重視する動きがグローバルで広がっているのを踏まえ、物流施設から産業界の広い領域で業務効率化や環境負荷低減に寄与する先進技術を多数生み出していくことに積極的な姿勢をのぞかせた。

インタビュー内容を3回に分けて、順次紹介する。


インタビューに応じる山田社長(中島祐撮影)

物流とテクノロジーの両方が分かる人材求む

――以前より物流業務の効率化に資するようなスタートアップ企業と積極的に連携し、物流施設の入居企業向けにサービスを紹介されています。今後も組む企業はさらに増えそうですか。
「そこは前向きに考えていますが、数をどんどん増やせばいいというものでもないと思います。まずは今連携しているHacobuやウィルポート、タイミー、KURANDOの各社が提供されているサービスの利用者がどんどん増えていますから、それをさらにきちんと仕上げていくことが重要でしょう。もちろん、他にもいろいろ優れたアイデアなり技術があれば、どんどん取り組んでいきたいですね」

――コンサルティングサービスで今後新たな展開はありますか。
「ロボット化やAIの話を進めるためにいくつかの企業の方々と今お話をしています。われわれの中にそういった専門的な技術のリソースがないので、具体的にどう取り組んでいくかは手探りの状態です。例えば、大学や研究機関、メーカーと組んだり、あるいは欧米の企業と連携したりすることも考えられるでしょう」

「新たな技術を持つスタートアップ企業と、同じ言語で喋ることができる人間を採用したい。物流のことも、テクノロジーのことも両方分かるという貴重な人材はなかなかたくさんいないとは思いますが、そうした人材が欲しいですね。当社グループも米国のサンフランシスコにラボを構えていて、いろいろと新たな取り組みを進めています。日本ではスタートアップ企業との連携も、まだまだ種をまいて水やりをしている最中で、本格的な収穫の時期はこれからなんですが、技術を重視する方向に進むのはプロロジスのグローバル全体でコンセンサスは取れていると思います」

――物流とテクノロジーの両方が分かる人といえば、具体的にはCTO(最高技術責任者)のような役職を設けるイメージでしょうか。
「今のところはそこまで考えているわけではなく、まず、30代くらいで若くて発想が柔軟で、技術も分かって英語を話せる人を採用したいですね。当社のグローバルの仲間とも自由に話ができる人でなければ最先端の情報を取れないと思います」

――物流も理解しているとなるとかなり大変そうですね。
「そうですね。ただ、そうした人材を弊社だけに取り込もうと考えているわけではないんです。それこそわれわれの業界全体の成長をリードしてくれるくらいの人材を採用したい。当社も早稲田大学で寄付講座をもう10年以上続けています。受講されるの方々が文系だけではなく技術系の人材も入ってくると非常に面白い展開になっていくのではないかと考えています」

「例えば、われわれの同業他社の中でも、物流施設でロボットなどの設備を使った分だけ従量課金で支払えるようにするシステムの実現を仰っているところがありますが、お客様によってご要望が全部異なりますから、マジョリティーの要望にお応えするのはなかなか難しい。しかし、人手不足が深刻な中でそうも言ってはおられませんから、物流不動産業界全体で実現の方向へ近づいていかないといけない。そうしたことができる人材を採用できれば、業界全体の底上げにつながるでしょう」

――確かに、そういう人材を獲得し、育てていくことができれば物流不動産業界も大きく変わりそうですね。
「同業他社のデベロッパーの中には物流施設に加えて大規模なデータセンターの開発に着手するなど、物流不動産業界も変わろうとしています。物流施設は屋根をたくさん持っていますから、太陽光発電のビジネスなどいろんなことができると思います。トラックも電動化されていきますから、物流施設がその動きにどう対応していくか。世界中でカーボンニュートラルやESG投資の重要性が叫ばれていて、社会はその方向でどんどん進んでいくと思います。われわれも大型の物流施設を開発し、そこにはトラックが毎日出入りしていますから、そうした動きは全く無視できません。新しい動きに対応していくには、やはり若くて優秀な人材が必要不可欠です。物流というと昔は何となく、技術系というよりも文系の仕事というイメージが強かったですが、今後はますますそうではなくなってくるでしょう」

――物流施設から他の産業分野にも応用できるような、業務効率化や環境負荷低減などの先端技術が多数生み出されていってほしいと個人的には感じています。
「まさにそう思いますね。ランプウエーで各階に直接アクセスできる使いやすいドライ倉庫といったような、伝統的な物流施設の部分はもちろん重要ですが、そこだけにずっとこだわり続けるのではなく、新しい方向にも進んでいくべきでしょう。米国のプロロジスのCEO(最高経営責任者)と話をしていても、ここ2、3年は技術のことが必ず話題に上りますね。それ以前はそういったことはあまりなかったのですが。先ほどお話ししたサンフランシスコのラボはシリコンバレーにも近いですし、刺激をいつも受けていると思います。われわれも先進技術を生み出していくという方に考え方をシフトしていかないといけないと感じています」

スタートアップ企業の優れたサービスをスタンダードに

――不動産の業界団体、不動産協会の「物流事業委員会」委員長としても活動されています。同委が中心となって取りまとめた2021年度の政策要望は防災性能の向上や省人化、老朽化した施設の更新促進、安全・安心確保などを後押しするよう要請しています。新型コロナウイルスの感染拡大もあって社会における物流施設の存在価値が高まっているのに応えようとされている姿勢が昨年以上に目立ちました。今後はどのような活動をされていきますか。
「国などにさまざまな要望をしていくことに加えて、委員会のメンバーの間でもいろいろと取り組んでいきたい。先ほどもお話ししましたが、当社ではスタートアップ企業と組んで、庫内作業の効率化などにつながる優れたサービスをお客様にご紹介しています。そうしたサービスは別にどこかが独占する必要は全くありませんから、委員会のメンバーも含めて物流業界の皆さんに使っていただき、業界のスタンダードのようになればいいですね。物流施設をお使いいただく荷主企業や物流事業者の方々によって有益なことを提案していくのは大変意味があると思っています」

――同委で物流施設の防災機能向上の話をされているのは非常に意義があることだと感じます。
「そうですね。これは私が委員会に入った最初のころから申し上げていることですが、防災に関しては1社1社が個別に取り組むのではなく、業界全体で取り組んだ方が絶対プラスになる。例えばある程度のサイズの施設を作った場合には必ず地元の行政の方々と話をして、地域住民の皆さんに災害発生時の一時避難場所として提供したり、駐車場を開放したり、備蓄品を厚めに保管したりといったことが業界の中でだんだん広がっていて、それはとてもいいことだと感じます。委員会がそうした契機になるようにしたいですね」

後編に続く)

(藤原秀行)

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