【独自取材・物流施設デベロッパーのキーパーソンに聞く】プロロジス・山田社長(前編)

【独自取材・物流施設デベロッパーのキーパーソンに聞く】プロロジス・山田社長(前編)

「マルチテナント型冷凍・冷蔵倉庫」実現に強い意欲

プロロジスの山田御酒社長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

山田社長は、物流施設の大量供給が続く中、需給がタイトな現状がいつまでも続くとは考えにくいとの見解を表明。経済情勢の変化などで需要が縮小したとしても選ばれるだけの高品質な案件を手掛けていく重要性をあらためて強調した。

その上で、新たな取り組みとして、新型コロナウイルスの感染拡大などでニーズが高まっているコールドチェーンの需要に対応するため、あらかじめ施設を利用できる状態に開発した「マルチテナント型冷凍・冷蔵倉庫」を展開したいとの思いを表明、実現に強い意欲を示した。

インタビュー内容を3回に分けて紹介する。


取材に応じる山田社長(中島祐撮影)

マーケットに変調の兆しも

――引き続き、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け続けた1年間だったと思いますが、御社の2021年の物流施設開発事業を振り返ってみてどのように感じますか。
「おかげさまで順調です。リーシングも好調ですし、当社の物流施設のポートフォリオも平均で99%くらいはスペースが埋まっています。これまでにも何度かお話してきた通り、新型コロナ下でも当社の事業はネガティブな影響をほとんど受けていません」

――eコマースの需要拡大などで物流施設の開発競争は依然厳しいのでは?
「確かにマーケット全体を見ると、プレーヤーの数が増えていることもあり、開発用地の入手が非常に難しくなってきました。そのため価格も高騰していますが、われわれが今手掛けているプロジェクトのほとんどは、用地をずいぶん前に仕入れています。例えば、先日竣工した兵庫県猪名川町の『プロロジスパーク猪名川2』も事業が始まったのは2015年です。近年の用地高騰の影響は直接受けていません」

「新規参入が今も相次いでおり、そのこと自体は業界が盛り上がるので歓迎すべきではありますが、やはり供給がこれだけ増えてくると、いつまで需要が追い付いてくるのかという不安はあります。不動産市場はじわじわ変化するのではなく、ある日突然、パッと様相が変わり、その変わった瞬間から全然違う世界になってしまうことがある。私自身、もうこの業界に長く身を置いていますが、今のように需給が非常にタイトな状況がずっと続くとはさすがに考えにくい。当社の事業は好調ですが、そのあたり、慎重にならざるを得ません」

――マーケットの変調をうかがわせるような話は聞きますか。
「竣工しても床が埋まらない物流施設の話がちらほら聞こえてきています。全体のボリュームが大きいですから、今は少々埋まらなくても全体の数字にはなかなか表れてきませんが、少しずつ、スペースを埋めるのに時間がかかる物件は増えてくると思います。最近は同じ物流施設が何度も内覧会を開くことも見受けられます。それはつまり、スペースが埋まっていないからということですよね。供給される物件が増えたことで、お客様が立地などいろんな要素をよりじっくりと選別し始められているということだと思います」

――競争激化で供給過剰という話が見えてくる中で、一番の対応はやはり良い立地に良いスペックの物を作るということに尽きるのではないかと思います。
「その通りです。いつも申し上げていますが、物流施設の需要は弱くなると言っても完全になくなることはありません。例えば100あった需要が経済情勢の変化で60、70まで減ったとしても、その60、70の需要に選ばれる物件をきちんと仕上げていかないといけない。これはわれわれの方針であり続けていますし、もちろんそうした物件を提供できる自信はあります」

――そうした対策の一環が、最近注力している、都心エリアにコンパクトなサイズの物流施設を開設し、都市圏の消費者へ迅速に商品を配達できる拠点として提供する都市型物流施設「プロロジスアーバン」だと思います。反応はいかがですか。
「おかげ様で非常に多くの反響をいただいております。既に竣工した東京の品川と足立の案件はいずれも100%稼働しています。足立では今新たに2棟目を開発中ですが、非常に多くの問い合わせを頂戴しています。その後発表した東京・大田区の羽田空港近隣の物件も、当社が今までお付き合いしたことのないような企業の方々からもお問い合わせをいただいています。都市型施設のニーズが確実に存在していることを実感しています」

「当社としては日本で初めての試みだっただけに、最初は経験が足りず、われわれの担当者の間でも話がかみ合わないことがありました。しかし、開発を重ねる中で少しずつ認識を共有することができるようになり、事業にも手応えを感じてきました。こういう地区ではこういう建物を建てるとこれだけの反響があるんだなとか、そういったこともプロジェクトを実際に進めてみて理解できるようになってきました」

「床荷重を確保したり、エレベーターも重量に耐えられるものを導入したりと倉庫仕様にしているからこそ、研究所のような施設など、通常のオフィスではとても許可が下りないような用途にも対応できることが分かってきました。幅広いお客様にお使いいただけるよう、基本的な機能は備えつつ、そうした新たなニーズにも対応していけるようにしたいですね」

――今後もプロロジスアーバンは東京がメーンになりそうですか。
「まだ具体的には決まっていませんが、案件は引き続き探しています。他の物流施設と同じく、プロロジスアーバンに関しても年間に何件手掛けるとか、そうした目標を設ける必要はないと思っています。良い案件をじっくりと探していきたい。できれば東京の西側でもトライしていきたい」


「プロロジスアーバン東京大田1」の完成イメージ(プロロジス提供)

優れたサービスは他社開発の物流施設入居企業にも紹介

――今年は、神奈川県海老名市でオイシックス・ラ・大地向けに冷蔵機能を備えた物流施設「プロロジスパーク海老名2」を完成させました。御社がBTS型物流施設で当初から冷蔵倉庫として建設したのは初めてで、担った冷蔵倉庫としても過去最大規模と聞きました。コールドチェーンのニーズが増えている中、今後も冷凍・冷蔵倉庫への取り組みを強化していきますか。
「今回はBTS型でしたが、私としてはあらかじめお客様を特定しないマルチテナント型の、複数のお客様にお使いいただく冷凍・冷蔵倉庫を開発したいと思っています。実はわれわれがもう10何年来、課題と認識していることです。マルチテナント型ではやはり、なかなかオペレーションが難しいんじゃないかと感じていたのですが、今回オイシックス・ラ・大地さんの案件をやらせていただいて、全館10度という温度帯を実現できた。そこからもう少し踏み込んで、4温度帯の冷凍・冷蔵庫も含めて、マルチテナント型でうちが先に開発し、それを複数のお客様に少しずつスペースをお渡していくということができればいいなと思っているんです」

――そうした案件は近く完成する予定があるのでしょうか。
「今は詳細には申し上げられないのですが、具体的に考えている案件はあります」

――利用者からもそうした要望が出ていたのでは?
「確かにお客様からそういう話はたくさん来ています。特に今、新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、食品の冷蔵・冷凍に関わるニーズがすごく広がっています。ただ、お客様が事前に決まっている専用施設は別にすると、やはりドライ倉庫を先に建てて、その後で設備を持ち込んで冷凍・冷蔵倉庫を作るというのが普通の考え方ですよね。そこを最初から冷凍・冷蔵倉庫を建てる、しかも冷やし込みまで全部済ませたものをどうぞご利用くださいと提供するのはなかなか勇気のいることです。しかし、その方が工期も短くできますしコストも抑えられる。われわれとしてはデベロッパーとして、そうしたことにも取り組んでいくべきだろうと考えています」

――1棟目がうまく行けば、「マルチテナント型冷凍・冷蔵倉庫」はニーズがあるように思えます。
「今日本にある冷蔵・冷凍倉庫は老朽化したものが多く、建て替えるとなると膨大な資金が必要になります。環境負荷を下げることも強く求められていますから、どうしても建て替えには二の足を踏まざるを得ない。そこでわれわれがお役に立てる余地は大きいと思います。必ずしもわれわれ単独で開発する必要はありませんから、例えば専門の冷凍・冷蔵技術をお持ちのところとご一緒させていただいて、倉庫というハードはわれわれが担い、ソフトはそういった方々にお任せするというやり方もあるでしょう。プロの見識、経験をお借りしながら開発に取り組む可能性は十分あるでしょう」

「率直に申し上げると、やはりドライの倉庫は競争が厳しい。お客様のために手間暇掛けて造ってきたものが、価格競争で最後はたたき売りのような形になってしまうのは避けたいところです。付加価値のある一味違った物流施設、プロロジスだからこそできる物流施設を手掛けていく。プロロジスアーバンもそうですし、冷凍・冷蔵倉庫もその一環です。差別化戦略として特色をきちんと出していきたいと思っています」

――差別化という意味で言えば、各種マテハン設備やロボットの導入、物流拠点の統廃合・移転による輸配送の効率化などで顧客企業をサポートするコンサルティングサービスはその後いかがですか。
「引き続き、いろんなお客様からお話をいただいており、改善に取り組ませていただいています。これまでに10件近くの案件を手掛けてきました。順調に進んでいると思います。コンサルティングの具体的な成果の内容をお話するのはなかなか難しいのですが、コンサルティングさせていただいたお客様から、次の物流施設もプロロジスでお願いします、というようなお言葉を頂戴していますし、評価いただけていると思いますね」

「われわれのコンサルティンググループも立ち上げてから3年ほど経過しました。少しずつ、当社の従業員自身も経験を積み重ねてきましたので、お客様のご要望へすぐに対応できるようになってきました。われわれが直接対応できない部分は、優れたサービスを持つスタートアップ企業とタイアップしてソリューションを提案するということも可能です。その点は、われわれの物流施設に入居されているお客様にとどまらず、他社の物流施設を利用されているお客様にも、もしスタートアップ企業のサービスでお役に立てるものがあれば積極的にご紹介していきたい。それが物流業界全体にとってプラスになると確信しています」


オイシックス・ラ・大地専用の物流施設「プロロジスパーク海老名2」(プロロジス提供)

中編の記事に続く)

(藤原秀行)

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