日野自動車不正行為発表会見 質疑応答(中編)
日野自動車は3月4日、日本市場向けのトラックとバス用ディーゼルエンジンの排出ガスや燃費に関する認証申請に不正行為があったことを確認したと発表した。
東京都内で同日開催した記者会見に小木曽聡社長と下義生会長が出席し、問題発覚の経緯などを語った。質疑応答の部分を掲載する。
会見の冒頭、謝罪する小木曽社長(左)と下会長
社内の徹底的な改革がまだ足りていない
――米国内で販売する車両のエンジンを他社製に切り替えたとの説明があったと思うが、その理解でよいか。その場合は米国製を採用したのか。
下義生会長
「その通り。米国製については、米国で販売している全ての車両のエンジンは、米カミンズ社製に切り替えて、現在生産販売を行っている」
――SDGsで環境に対する意識が非常に強まっている中で、排気ガス規制や燃費に関する不祥事を起こしたことに対し、どう考えるか。原因と再発防止の部分で、現場での数値達成やプレッシャーへの対応が取られなかったことに言及し、経営として重く受け止めていると説明しているが、責任の取り方として職を辞することはないのか。
小木曽聡社長
「SDGs、カーボンニュートラルといった時代に、このタイミングで、不正を起こし、なおかつそれが公表している値を満足させていないということは、大変重大な問題と受け止めている。これはSDGsという以前に、やはり法令順守という意味で、守れていないので、こういう結果を起こしたことに対しては会社として本当に重く受け止めている。こちらについて、まずはお客様、販売店、ステークホルダーの方々におわびしながら対応していくということになる」
「再発防止については、今回、問題を見つけたばかりなので、ここに書いてあるような切り口で、再発防止を図っていくが、さらにご指摘いただいたような、本当に会社のどこに問題があったかといったようなところについても、今後、さらに会社としても調査を継続するし、外部の有識者の力も借りながら、特別委員会という形で対応をしっかりやっていこうと思う。まずは重く受け止めた責任については、そういった部分の対応に総力を尽くしていきたい」
下会長
「ご指摘の通り、今回の問題は、ものづくりのメーカーとしてあってはならない不正行為と認識している。そういった点では、経営としての責任は大変重いと考えている。調査もまだ継続している。また、企業風土といった点も踏まえて、今回の問題を二度と起こさないためには、やはり社内の徹底的な改革がまだ足りていないと思っている。特別調査委員会の外部有識者の方の力もいただきながら、再び、お客様や社会から信頼していただけるような企業になるために、まず目の前のことをしっかりやっていきたい」
――2016年に三菱自動車やスズキの燃費不正問題が発覚し、大きな社会問題となった。その際、各メーカーが社内調査を実施したと聞いているが、その時点で、日野社内で何か調査をして確認しているのか。
下会長
「おっしゃった通り、16年に(国土交通省から)調査依頼をいただき、当時社内で問題がないか調査を行っている。その結果をもって、不正も含めて問題ないと回答を会社として出している事実がある。その際、今回の平成28年の排気ガスの認証タイミングと少しずれてはいるが、いずれにしても、その時に今回のようなことを発見できなかったのは、会社として大変大きな問題と認識している。その点についても、今後、特別調査委員会の中でしっかりとした評価をしていかなければいけないと思っている」
――リリースには北米市場向け車両用エンジンについて、社内で排出ガス認証に関する課題を認識したと書かれているが、北米の課題の認識について、もう少し詳しい説明をしてもらいたい。他社との燃費競争が非常に厳しかったことが背景にあったのか。もう少し良い数字にしたいという社内的なプレッシャーが影響したのか。
下会長
「北米の最初の課題は、現在調査が開始されているところで、詳細を申し上げられない。大変申し訳なく思う。ただ、最初の入り口は米国の場合、認証の設備も大変細かく規定されている。そういった規定に沿った設備で認証を行っていたのか、というところが最初の課題認識。その部分から社内調査、そして分かってきたことについて適宜、米当局へ報告して現在まで調査が続いている。大変申し訳ないが、それ以上は差し控えていただく。またこういう場でご報告できるタイミングがきたら、しっかり説明したい」
小木曽社長
「技術面について、起きた問題は今しっかり整理できているが、原因系はもう少し時間をかけて今後調査したいと思っている。今分かっていることだけで申し上げると、HC-SCRの中型トラックなどについては、やはり日程面が非常に厳しい中で、適正に対応がやりきれていなかった部分も残念ながら見受けられる。お客様のお使いいただいている車への対応をしっかり検討しているところだが、日程よりも品質を優先するとか、こういったところをもう少し見ていかないといけない。引き続き調査させていただきたい」
「燃費については競争の中、もしくは税制優遇のターゲットの数字などとの関係はやはりあると考えている。こういった部分もよく調査して、会社や組織としての管理の在り方をしっかりやっていきたい。今のタイミングでは、昨年4月から認証の試験をするチームを完全に独立させているので、そこが客観的に認証のデータを見るという体制にして、足元のところの流出防止は図っているが、今一度しっかり調べて、対応を取っていきたい」
――不正に関与した社員はどれくらいの人数か。管理職レベルの話なのか、現場レベルだけの話なのか。
小木曽社長
「現時点ではやはり調査中なので、ご理解いただきたい。少し補足できるとすれば、繰り返しになるが、問題発生時にはパワートレインの開発適合といったエリアの中で全ての仕事を任されていたので、そういった会社の枠組みに問題があったのではないかと、今分かることから申し上げるが、これ以上はもう少し丁寧に調査して、真の再発防止につなげられるよう反省した上で、対策を取っていきたい」
――検査の在り方について。例えば複数のグループで並行して進めたりするのか。
小木曽社長
「試験によって様々で、回数が違う。例えば、劣化耐久は初期の状態から耐久を何回も重ねて、エンジンベンチを回していく。認証を取れた試験機の中で、所定回数のデータを取って相関性を取りながら新車を確認する。もしくは、最終的に立ち会いがあれば、国交省に立ち会っていただきながら試験をする。様々な組み合わせがあるのでなかなか1人とか2人ということにはならない。21年4月からは、品質本部の認証部隊の中でやっている。今後の反省を踏まえ、おそらく台数をいくつ取るのかといったことも、社内でしっかりルールを作りたい。補足だが、排気ガスの新車については、工場の出荷管理として数を取ったデータを常に見ながら、ばらつきも含めて管理している」
16年の三菱自動車の不正発覚時、社内がどんな対応したかを確認
――再発防止策以降のパワートレインへの対応について。
小木曽社長
「大型の燃費については、お客様が使っている車両は燃費が今取得している諸元値と違うので、正しい数値を計測して、その数値に対する税制補てんがなくなるのであれば、弊社が追加納付する形になる。出荷再開に向けては、まずは正しい燃費の値に変えて進めていく可能性が高いと思うが、まだ決まっていない。両立するような開発はしっかり対応していくが、これは性能と燃費、排ガスと燃費、燃費性能を上げるためには開発そのもののリードタイムが必要になるので、しっかりとした(余裕のある)日程を持って、法令順守する形で対応を進めていこうと思っている。メニューはまだ決まっていないので、至急お客様と話をしながら、どのような形がよいか検討しながら方向性を決めていきたい」
下会長
「お客様の視点からすれば、今使っていただいている日野プロフィアと同じ性能のものを、その実力値に合った形で再申請する形になると思う。お客様から見れば、今お使いの車と、われわれがこれから行う、まずは再申請する車については、同等の車ということになる。今小木曽が申し上げたように、実力以上の申請をしていた値に戻すには、さまざまな開発を今後やっていかなくてはならない。当面の対応と、しっかりとした中期的な燃費性能の向上を分けて対応していきたい」
――開発と認証の組織形態の在り方について聞きたい。トヨタと日野で違いが何かあるのか。開発と認証が同一部署というのは日野固有の組織的なものなのか。財務面への影響はどう見ているか。特別損失の計上などを見込んでいるのか。
小木曽社長
「各社様々な(組織の)形態があるので、なかなか一般論として説明はできない。トヨタとの比較であれば、トヨタは大きく言うとエンジンのパワートレイン全体のカンパニーという枠の中ではあるが、部の単位で認証は独立している。開発する部分とは、部単位で分かれている。われわれは21年3月までは認証の舞台と開発の舞台一緒だったので、少しいろいろなアドバイスをいただきながら、再発防止を取るという意味ではより明確に、品質を司る品質本部をしっかり独立させた。認証も同じように独立部署を作り、配置している」
「財務面についてはまだ現時点で明確になっていない。これは1つ1つ、明確になり次第、開示していくことになるし、今回のA05Cへの品質対応費用、出荷停止費用、税制関係で日野がお支いする部分など、明確になり次第、引き当てていく形になると思う」
――昨年3月に組織形態を変更したのは、その時点で不正をある程度認識していたからなのか。もう少し早く社会に発表できなかったのか。
小木曽社長
「事実関係を先に申し上げると、北米の問題が先に、明確になってきたので、北米の問題への対応を踏まえて21年4月に組織を変えているのが正直なところ。併せて、国内の劣化耐久試験もスタートしているので、北米の問題に向き合いながら、あるべき組織など、まずやれることをやりながら国内の調査を始めたのが同じ21年4月だった。様々な調査、認証のデータの調査もあったし、耐久試験の時間もかかったので、結果として、日本の問題が明確になったのは最近だった」
――特別調査委員会の今後の活動について。どれくらいの時間で調査を完了させるのか、そのめどは。
小木曽社長
「本日公表後、速やかに人選して立ち上げていきたい。これは真陽をしっかり追求して再発防止策を立てるということなので、あまりまとめる日程ありきではないと思っている。立ち上げながら、外部の有識者の方にもご相談しながら、徹底的に調べる。その中ではスピード感は持って、という進め方になると思う」
――ユーザーが使っている車の原状復帰について。中型エンジンはマフラーを試験途中で交換しているので原状復帰はリコールして補償することになるのか。大型エンジンは測定装置自体を操作しているのでもともと、燃費の目標には達しないのでそこはそのままにして、経済的補償するということなのか。
小木曽社長
「A05Cは、不正の行為そのものは劣化耐久評価の途中でマフラーを交換したというのが事実だが、実際に今技術調査をしており、まだ結論は出ていない。触媒にまつわるような、当然これはHC-SCRの触媒が付いているから、やはりリフレッシュさせる制御などがある。これをきっちり直すことで、改善できる可能性があるので、現時点で部品を代えるかどうかはまだ確定していない。なるべくお客様のサービスのための、処置のための時間を長く取らせないような方策を今検討中なので、今日申し上げられるのは、部品交換かどうかまだ確定していなくて、目的はお客様へのご迷惑をなるべく減らす、ダウンタイムを減らすという観点で検討を進めている。大方は先ほど、下からも少しご説明した通り、今お使いのお客様については燃費の値が変わってくることになる。車そのものはそのままお使いいただくことになる」
――検査体制の件。2016年に起きた他のメーカーによる燃費不正の中で、検査と開発がリンクしているという問題が浮上している。会社の中で改善の必要があるという指摘もなければ、そうする必要があったとも思わなかったということか。リードタイムがなかったという話もあるが、認証データを取る人数は十分だったのか。
下会長
「16年は、先ほども申し上げた通り、当時は会社として、不適正なことはないと回答している。その際、社内で本当に、例えば改善項目はあるのに言うのをやめようといったやり取りがあったかを含めて、現在確認できていないが、こういったことを、世の中が大変な事態の時に弊社としてどういう確認ができていたのか、これはあらためてしっかりと確認したい。その時に社内でどこまでのやりとりがあったかはちょっとお答えできないが、しっかりと対応していきたい」
――乗用車と違い、走行距離も非常に長いし、10年以上乗ってくる車も多くあると思う。平成28年からということでとりあえず、ということだが、他にも影響を受ける人はあると思うが、どのように調査を進めていくのか。
小木曽社長
「引き続き、過去の車両についても、技術調査などをしっかり継続していかないといけないと思う。手間や時間がかかったりすると思うが、丁寧に調査をしていきたい」
(後編に続く)
(藤原秀行)