セイノーHD&ラクスル合弁発表 共同記者会見詳報(前編)
セイノーホールディングス(HD)とラクスルは6月10日、運びたい荷物とトラックをマッチングするラクスルの「ハコベル事業」を分社化した上でセイノーHDが出資、共同運営すると発表した。
セイノーHDとラクスルの首脳が同日開催した記者会見の内容を掲載する。
会見後の撮影に応じる(左から)セイノーHD・田口義隆社長、ラクスル・狭間健志執行役員と松本恭攝社長CEO(以下、写真はいずれもセイノーHD・ラクスル提供)
【冒頭発言】
「協業で日本のバージョンアップが可能に」
セイノーHD・田口義隆社長
新会社の設立に関して、当社が出資するところの意味をお話したい。4つの項目に分けてお話をさせていただく。
1つ目は全体感だが、新しくジョイントベンチャー(JV)として、今、ラクスルの中にあるハコベル(事業)を(新会社として)8月1日に設立させていただく。8月8日にわれわれは出資をさせていただくということで今、企画をしている。(われわれは)輸送立国を使命にしている。これは業界の中ではよく申し上げているが、お客様に喜んでいただける最高のサービスを常に提供し、社会に貢献しようということを輸送立国として掲げている。 これは構成する従業員の、全ての人に笑顔と幸せを出すというところで、今それぞれの自分の存在意義を発揮しているところ。
われわれはこのような方向性を掲げているが、現在日本が持っている課題がある。当然皆さんがご存知のように、超高齢化、そして人口減少、 これによって多くの市町村が消えていくということがある。また、超高齢化によって働き手がどんどん少なくなっていくということがある。また、新しい資本主義のルールとして候補に挙がっている概念がSDGs。いかに継続的な、サステナブルな社会を作るかというところが国際的なテーマになっている。皆さんもご存知のように、これはもう不可逆である。金融ではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)、 大きなお金を扱っているところ、これがもう既にそちらの方にESG投資として動いているので、一切これは(逆の方向には)返ってこない。 今後はグリーンを無視して、動いていくことができなくなってくる。
われわれの業界自体もまだまだ未成熟な部分がある。つまり、伸びしろがある。それは各々の縦割り、横割りの限界、境界線を越えていかない(といけない)ということ。これがスムーズに、ストレスなく越えていくことができれば、世の中の、業界の効率、そしてサプライチェーンの効率が変わるだろうということを前々から思っていた。今回、その技術をハコベルさんが持っていらっしゃる。お客様にいかにストレスを与えないで、そしていかに効率的なサービスを提供するか。ラクスルさんのグループだが、ラクスルさんとしては既に印刷業でこの革命を起こしていらっしゃる。紙媒体からデータに変わってきたというところで、印刷業は大変苦境を呈している業界だが、ラクスルさんがそこに入ることによって一気に 効率が変わった、景色が変わった。これがわれわれの業界の中でも起きると思っている。
われわれはこれを進めていくことによって、1事業者、1業種・業態だけではなく、 ハコベルさんがお持ちの「つなぐ力」を持って、 多くの業態が持っている 不効率な作業、そして不効率なアクセスポイント、これを効率化していく。 それによってお客様にはより経済競争力のある、価格競争力のある物流の提供ができる。そして、時間効率の高い物流が提供できる。そして同業者の方々には、 空気を運ぶような物流を提供しない、いかに効率良く運ぶか、ということが提供できる。これをやることによって、当然いろいろな無駄が省けているので、グリーン物流、つまりSDGsの物流になってくる。
SDGsの17項目の1番のセンターピンはカーボンオフセットだと思っている。 飢餓にしても貧困にしても経済的な成長にしても、どのような項目も地球温暖化、つまりカーボンオフセットが一番のセンターピン、倒さなくてはいけないピンだと思っているが、それが個々の事情と理由だけではコントロールできない。そこをやっていただけるのはラクスルのハコベルだと思っている。
今回われわれは、 われわれが今まで培ってきた知見、実際には設備投資産業ではあるので、日本中にいろんな拠点がある。そして、日本中にいるドライバー、そして車がある。これらのものを効率良く使っていただく、そして同業の皆さんにもお互いに効率良くこれを回していく、その垣根を越える、境界を越える、これをできるのはハコベルが使っていただく実力と、そして実際に柔らかい発想力だと思っている。
これらをもって、おそらくわれわれは日本のバージョンアップが可能だろうというふうに思っている。 超高齢化社会に一番最初に突入していく先進国・日本なので、この日本の新しいモデル、超業界の、業界を超えたデータの共有、そして効率化、これがおそらく今後も日本全体、そして世界のモデルになるだろうということを期待して、私の冒頭の話とさせていただく。
田口社長
「同じ志を持つ仲間と一緒に課題解決」
ラクスル・松本恭攝社長CEO(最高経営責任者)
ラクスルは仕組みを変えれば世界がもっと良くなる、というビジョンを掲げて、印刷の業界で2009年に会社を設立した。印刷業界、先ほど田口さんからお話があったが、これまで非常に多くの課題を抱えている、かつ伝統的な産業構造にあったところにインターネットを用いることによって、その産業の在り方を変えていく、こういったチャレンジをかれこれ10年以上行ってきて、今、印刷業界の姿が少しずつ変わろうとしてきている。
一方で、私が起業したときに、この印刷業界を変えるのではなくて、様々な業界の在り方を変えていこうという思いで会社を立ち上げた。そこから2015年にハコベルをスタートした。20年にはテレビCMのノバセルというタクシー広告でよく流れている事業を開始した。それって、様々な業界の仕組みを変えて、これまであった伝統的な仕組みではなくて、インターネット、ソフトウェアが当たり前になった時代に、もう1回その業界を作るなら、どういう業界になるか、そういった形で印刷業界、物流業界、広告テレビCM業界の新しいビジネスモデルを作ってきた。
その中でどういうアプローチを取ってきたか、2つ大きなアプローチを取ってきた。1つは取引の効率化。つまり、発注者と受け手側、この2つをより滑らかにつなげるために、印刷であれば印刷会社様と印刷をしたい方、ハコベルであれば時間の空いた物流会社様と荷物を運びたい方、これがインターネット、デジタルテクノロジーを通じて、より滑らかにマッチングする、そういったプラットフォームを作ってきた。そして、単なるマッチングの取引の効率化だけではなくて、運送会社様、もしくは印刷会社様、もしくは広告代理店、テレビ局がより生産性高く仕事を行えるような、業務効率を改善していく、こういったプラットフォームも併せて提供した。なので、プラットフォームを通じた取引の効率化、ソフトウェア、最近の言葉で言うとSaaSを提供することによる業務効率の改善、この2つを印刷業界でも、物流業界でも、テレビ広告業界でもわれわれは同じような形で提供してきた。
ハコベルがどういう問題を解決してきたかというところは、大きく3つの問題を解決したいという思いでわれわれスタートしていて、この問題、それぞれ7年間、タックルしてきていて、今もこういった問題を解決しようという思いでハコベルをやっている。1つは多重下請け、1次受け、2次受け、3次受け、どうしても構造的に、大手様にお客様がいて大手様から直接運ぶところが見つかればいいが、そうではないケースも多々ある。こういう多重下請けの構造をより1次受け、2次受けで運べるような、つまり実際に運ぶ方がより効率良くたくさんの賃金をもらえるようなプラットフォームを作っていこうということで、この問題を解決しようと。
もう1つは、ドライバーの不足。今後、5年度に24万人不足すると言われているドライバーの不足の問題、これを需要と供給のマッチングを滑らかにすることによって解決していこうと。 そして最後にソフトウェアを通じて、現場の生産性、仕事をより効率化していく。こういう多重下請け、ドライバー不足、生産性の改善、これらの問題をハコベルというマッチングサービス、そしてソフトウェアのサービスを通じて解決していこうということを行ってきた。
ハコベルは今、2つのサービスをしている。これはまさに取引を改善、効率化していく、マッチング配車手配のサービスと、業務効率を改善していく配車管理システム、ハコベルコネクトというサービスになるが、これら2つのサービスを前者が2015年12月に、後者が2019年1月に発表させていただいて、今多くのお客様にご利用いただいている、まだ小さな規模ではあるが、それでも たくさんのお客様、物流会社様にご利用いただくサービスに進化してきている。
今回、セイノーさんと一緒に、ハコベルを、新会社を設立して運営をしていこうというふうに、田口さんにご相談をさせていただいた背景は、われわれ、テクノロジーとしては非常に良いものができた。今ご利用いただいてるお客様の生産性も非常に上がり、運送会社様も3万台を超えるトラックが加入していただいている。
一方で、やはり良いものを作っても、物流、お客様のサプライチェーンの中心に来る部分、これをすぐに変えていくということはなかなかできない。われわれの仕組みを変えれば世界がもっと良くなる、仕組みを変えるっていうのはまさにゼロから1テクノロジーによって、より効率的な社会を作っていく、世界がもっと良くなるというのは、あらゆるお客様がこれを利用いただいて、社会そのものが変わっていく、これをわれわれのビジョンとしている。
われわれ、この仕組みを変えるという部分の第一歩を踏み出すことができた。一方で、世界をもっと良くしていくというところを実現していくためには、やはり自分たちだけでなく、より外部の影響力のある会社様と仕組みを広げていく部分、ご一緒させていただくことによって、物流業界の、元々解決したいと思った3つの課題、これらを解決していこうということで、自分たちだけで物流業界のインフラを作っていくのではなくて、パートナーシップを組むことによって、同じ志を持つ仲間を見つけることによって、われわれはこれまで7年かけて培ってきたテクノロジーを世の中に広げていきたい、こういう思いで、自分たちだけでなく、パートナーと一緒にハコベルを日本の物流インフラの中心に据えて、そして物流業界の課題を解決していく。こういったことを志した。これが新会社設立につながった背景だ。
松本CEO
「対立軸があるようなステークホルダーも巻き込む」
ラクスル・狭間健志執行役員ハコベル本部長(ハコベル社長に就任予定)
今回の新会社設立に当たり、新会社として実現したい未来、中長期の広がり、それからそこに至るまでのロードマップについてお話をさせていただく。
まず今回、新会社を設立した目的から。 業界や企業間の垣根を越えた共創、共生というものを実現したいと考えています。それを通して、今の日本の物流のネットワークをより効率化したい、そういったことを実現したいと考えている。 現在の物流業界の課題としては、これは私どもハコベル自体の課題、反省でもあるが、一言で言うと、個別最適、部分最適というのに立ち入っていると考えている。お客様も各社で個別のシステムやオペレーションを構築していらっしゃるし、私どものようなサービスの提供者に関しても、各社が今、独自にサービスを提供している中で、お客様からしても、いろんなサービスを組み合わせなければいけない、いろんなプロダクトを組み合わせないといけないというような問題に陥っていると認識している。その結果、企業間、あるいはバリューチェーンの間で分断や囲い込み、競争が起きているというところから、キーワードとしては、実現する未来については、個別ではなく企業間、業界をまたいだ全体最適、横断、そこでのキャパシティとかサプライヤーの共有、シェアリングというものを目指していきたいと考えている。
具体的に私どもで目指していきたい業界や企業間の垣根を越えた共創、共生を実現するためにハコベルとして、「オープンパブリックプラットフォーム」というものを目指していく。考え方としては、1つはバリューチェーンを広く捉えるということで、(資料の)真ん中にあるように原材料の会社さんから、メーカーさん、卸・小売さん、商社さん、消費者といったエンドユーザーまで広く捉えるというのは1つ。もう1つが、ここが今回すごく大事だと思っているが、関わるステークホルダーを広く捉えたいと考えている。荷主さんとサービス提供者、あるいはハードとソフト、人、あるいは既存産業とスタートアップ、といったような、一見、対立軸があるようなステークホルダーをしっかりと巻き込むことが重要だと思っている。
先ほど、仲間集めというような言葉もあったが、私ども、既存の事業者さんだけではなくて、これから参入してこられる新規の事業者さん、新規のプレイヤーさんにも常に門戸を開くようなプラットフォームを作っていきたい。そういった意味を込めて、オープンパブリックプラットフォームというものの創出を目指していく。キーワードとしては、仲間作りとか、常にウェルカムといったような姿勢を維持していきたいと思っている。
オープンパブリックプラットフォームのイメージ(公表資料より引用)
これによって実現したいこととしては、まずオープン、相乗り、(公表資料の)真ん中にあるように、いろいろなサービス、複数のサービス、企業間のサービスの乗り入れや相互の運用というのを可能にすること。 それによって、データについても互換性が担保できるというふうに考えている。これが実現できれば、お客様にとっての利便性が飛躍的に向上する。 お客様からすると、今までばらばらだったサービス、ばらばらだったサプライヤーがワンストップで使えるというところで、ワンストップでお客様から使えることでの利便性が上がる。その結果として、お客様のオペレーションと テクノロジーや、データの融合というものが飛躍的に進んでいくというふうに確信している。その結果、業界としての標準化が進み、データも加速的に蓄積、可視化されていくし、そういったデータを使うことで、遊休資産、今では 非常に繁閑の波があるとか、忙しい忙しくないと会社さんの波があるとか、そういったような遊休資産というのも利活用が進み、それがひいては、グリーン物流、環境に良い物流、クリーンな物流というところにもつながっていくというふうに考えている。
そういったものが実現できると、よりいろいろなサービス事業者さんからの参画も進み、もう一度、(資料の)左下のオープンや相乗りといったようなサイクルが強化され、このループはより加速的によく回っていくのではないかというふうに考えている。
当面、われわれが提供していくサービスについて。ハコベルについては、今、物流の中でも、輸配送の領域に特化している。なので倉庫からの出荷以降の領域、具体的には配送の計画を立てるところとか、 運送するところ、あるいはそのオペレーションを管理するところに価値提供していくという形。配送の計画とか、オペレーションの管理というのは今、多くの会社さんでエクセルやメールを使って属人的に作業されているという中で、ここはソフトウェアの提供、ハコベルコネクトの提供を通して、お客様、あるいは運送会社様の中での業務の生産性を上げる、デジタル化を進めるということを支援していきたいというふうに思っている。
また、実際の運送のところに関しては、企業間取引のところで私どもがやってきた車両の手配に加え、セイノーホールディングスさんとも今回組ませていただくことで、配送の種類、キャパシティーの増強を図り、お客様へのメリットを提供していきたいというふうに考えている。
また、もう少し長い時間軸では、今回、セイノーホールディングス様とJVを設立することで、多くの便益があるというふうに思っている。1つ目が、お客様に提供できるサービスの領域、利便というのが増えること、かつそれがワンストップで提供できると いうところ。具体的には配送手段で申すと、私どもでは今、1台貸切のお車の提供のみのところは、セイノーさんが今運行してらっしゃる鉄道輸送と組み合わせるところで、よりCO2の排出が少ない、あるいはドライバーさんの負荷がない鉄道輸送とトラック輸送の組み合わせが実現できる、あるいはセイノーはドローンの会社さんにも出資されているというところで、トラックで運んで、最後ラストマイルをドローンで配達するといったようなところで、山間部とか、非常に過疎地域への配送が可能になる、あるいはシステム面においてもセイノーさんが強みを持ってらっしゃる倉庫のシステムと、私どもが強みを持つ運行のシステムとの組み合わせにより、システムとしての提供領域も広がるというふうに考えている。
あるいはお客様だけではなくて、運送会社様、私ども今、ネットワークの中に約3万台を超えるドライバーさん、運送会社さんに登録いただいているが、そういった運送会社さん、ドライバーさんに対しても、ドライバーさんの採用支援マッチングとか、セイノーさんの規模、ブランディングを生かした、運送会社にとってのコストのダウン、保険や燃油の一括請求、あるいはトラックのリース、整備といったような支援といったこともできるのではないかというふうに考えている。
また長い時間軸では、 先ほど申し上げた、こういったことを業界の標準にしていく、さらに、他社に展開していって互換性を持たせて、お客様、運送会社様に提供していくというようなことでの業界全体への便益の提供というのができるというふうに考えている。
中長期的な方向性(公表資料より引用)
ロードマップとしては、まず短期的にはしっかりと今回、両社持ち寄るシナジー、セイノー様のブランディング、インフラ、営業ネットワーク、拠点といったような強みと、私どもの有するテクノロジー、ソフトウェア、オペレーション力といったものを組み合わせる、そこによる事業としての成長の加速が1点目、それから先ほどご説明申し上げた中長期のビジネス的な広がりというところでお客様、運送会社様にしっかり提供できるサービスの質、量、広さというものを実現していきたいと考えている。
最後に、長期的にはしっかりとオープンパブリックプラットフォームを、いろんな会社さんを巻き込んで、業界、企業間の垣根を越えて、日本の効率良い物流ネットワークを作るということをしっかりと実現してまいりたいと考えている。
ところで、オープンパブリックプラットフォームという名前に込めた思いとしては、日本の物流ネットワークの再構築、 いろんな会社さん、業界を巻き込んで、物流網、21世紀の物流網というのを新しくしていくというような思いを込めて、こういったプラットフォームを実現したいというところでハコベルの設立を、今回セイノーHD様とラクスルで合意に至らせていただいた。引き続きよろしくお願い申し上げる。
狭間本部長
(後編に続く)
(藤原秀行)