日野自動車・小木曽社長記者会見詳報(その3・完)
日野自動車・小木曽社長記者会見詳報(その1)
日野自動車・小木曽社長記者会見詳報(その2)
日野自動車の日本市場向けトラック・バス用ディーゼルエンジンの排出ガスや燃費に関する認証申請に不正行為があった問題で、社内に設けた第三者による特別調査委員会(委員長・榊原一夫元大阪高等検察庁検事長)の調査報告書公表を受け、同社の小木曽聡社長は8月2日、東京都内で記者会見を開いた。内容の詳報を全3回にわたって掲載する。
会見で頭を下げる小木曽社長
拡大戦略を軌道修正する
――これまでE6の規制の時から不正を行うようになったとの説明だった。E6からE9まで規制強化がなされているが、私の記憶が正しければ、このE7新長期規制は諸般の事情によって確か規制の時期が2年ほど前倒しされたというように記憶している。規制の強化が、例えば現場の大きな負荷につながって今回のような大きな話になっていったのかどうか、そういうことは考えられないのか。現場からはそういった声が聞かれなかったのか。ディーゼルエンジンに関しては、数年前にもディーゼルゲート事件(編集部注:ドイツのフォルクスワーゲンが起こした、ディーゼルエンジンの排気ガステストに関する不正行為。2015年に発覚)が海外で発生した。規制強化される中で今回のような問題が起きている。ディーゼルエンジンの将来はどうなっていくのか。
小木曽社長
「実際、E6が2003年からの規制、E7、2005年、E8、2009年、E9、2016年ということで、リードタイム、短いということは時期的に言えると思う。規制とかハードルが高いということと、やはり不正をしてしまうということは別にしなければいけないんだと思う。やはり、これからの自動車というものはトラック、バス、まさにカーボンニュートラルに与える影響も大きいし、乗用車も同じだと思うので、どんどんクリーンにCO2を減らしていくというチャレンジはやはり必要だと思う」
「これを安心してチャレンジする、安全にチャレンジする、こういったことが大切なので、確かにE7のスケジューリングと不正には何らかの、因果関係と言うと不適切だと思うので、何か相互作用はあるかもしれないが、かといって不正をしない、チャレンジはする、結果に対しては正しい評価と対応をするといったことが、やはりポイントなんではないかと思っている。あまり説明になっていないが、やはりそういった背景が基に不正をするよりは、これにミートできないという事実を明らかにしていくということが、特にこれからの製造業では問われていく姿勢なのではないか」
「当社は『HINOウェイ』というものを作り直したと先ほど申し上げた。プレスインフォメーションにも書いている通り、そういった価値観をこれから大切にしていこうと思う。その中で高いハードルを越えられるように人材育成、技術革新をしていくことが必要だが、これはルールの中でしっかり世の中にお役に立つようにしていくということだと思っている」
「規制がどんどん厳しくなる中で、ディーゼルエンジンというものは非常に対応が難しくなってくる。これはその通りだ。ただ、お客様の観点からいくと、大型の幹線輸送のトラックが一気にバッテリーEVになるのも厳しいし、やはり日本の環境を考えると、ガソリンに置き換えるというわけにもいかないので、われわれはこの厳しい規制に対応するとともに、どのようにお客様の利便性を守っていけるかということを考えてまいる」
「長期的には、内燃機関を使って、よりCO2の負荷が少なくて、NOx(窒素酸化物)とかが出にくい、PM(粒子状物質)も出にくい代替燃料を探してみたり、電池だけに頼らない燃料電池水素のようなものに向かってもやっていきたいと思うが、これらは全てチャレンジが伴うので、冒頭の話にいつも戻らさせていただくが、しっかりチャレンジしながら、必ず正しいことをやる、そういう評価をするということが大事だと思っている」
――特別調査委員会の調査報告書の真因分析のところについて、非常に多くの従業員の方がグローバルな仕向け地の拡大や多くの車種、バリエーションを維持することは今の日野にとって現実的ではないと受け止めているとのくだりがある。これが今回の問題につながったという認識を持っていることがうかがわれるというところまで言及している。これはかなり重い指摘だと思うが、従業員の方々の受け止めについて、トップとしてどういうふうに考えているか。
「今回の特別調査委員会の報告の中には、私たちの社員の声がしっかり入っていると理解している。これは、われわれ経営陣が重く受け止めて彼らの声に向き合って、経営に生かしていく、もしくは経営のかなりの部分を変えていかなければいけないと考えている」
「もちろんメーカーであり、企業なので成長は必要かもしれない。それから日野のトラック、バスを欲しいと言われれば、世界中のお客様にお届けしたいというふうに企業としても思うが、何よりも大事なのは、1人1人のお客様、1つ1つの国に信頼をしていただける、丁寧にお役に立つということが、数を増やすことよりもさらに大切なんだということだと思う。きっとこういうことを社員の人に伝えれば、当たり前だと、何でそうしてくれなかったんだって言うと思う。なので、われわれは企業としての成長をもちろん目指すが、まずは1人1人のお客様へ丁寧に向き合える、品質の良い、法令を順守したものに注力していく」
「そのために、ある程度現場の声を聞いて、拡大とかバリエーションについては少し我慢をする。場合によって、今の日野からいくと、大きく我慢をする。その分できた時間で仕事の改善をして、人を育てて、より能力の高いメンバーがより工夫した仕事で、密度の高い仕事を、仲間ともちゃんと連携をして、するようになれば、良い方向へ回っていくんではないかと思っている」
「なので、グローバルの拡大とか、バリエーションっていうこと、先にやり過ぎて、負のスパイラルに入ってしまったと理解しているので、ここは少し踊り場を作りながら、今申し上げたような考え方、優先順位で、社員の人たちとも会話をして、軌道修正を図っていきたいと思う。いったん良い状態を作れば健全に成長していくということは可能だと思っているので、まずはそういう会話にできる状態、スタート台に立つところまでを目下のところは目指していきたいと考えている」
――そういう問題意識に対して会社として、何らかの回答を示す必要があるように思われると指摘を受けているが、今話したようなことをちゃんと経営計画みたいな形であらためて示す考えはあるか。
「あります。実は先ほど少しお話があった通り、私どもは昨年からいろいろ調査を継続して、問題が少なくとも3月で発生している事案までは認識していたので、本年度の計画にはやはり身の丈に合った、1つ1つのお客様に向き合うためにはどのような計画にするんだという軌道修正を始めている。ただ、まだまだ足りないと思うので、3カ月と申し上げた日程の中でより具体的な内容、体制を含めて、もっと進めていきたいと思っている。社員とも会話をしながら、具体的な対応をみんなで考えて、実行していこうと考えている」
一部車種の生産再開、今後は調整して決めたい
――真因についてもう1点。上司に逆らえない雰囲気が醸成されやすく、結果パワハラが生まれやすくなっている、心理的安全性が確保されにくい組織となっているという指摘を受けている。今回の指摘を受ける前から社長として、こういう組織体質が日野にはあるというような認識はあったか。
「今回、特別調査委員会で多岐に調べていただいた結果を真摯に今受け止めている次第。一方で、日野自動車そのものも社員の職場風土のアンケート等はこれまでもずっと取ってきている。当然アンケート結果は、何千人の社員の声があるので、どこの部分をどう捉えるかというのはあるが、自分は、社員、現場で何が起きているかというのは大変気になる性格、それから、昨年から社長というポストでやってきたので、そのアンケート、日野で実施したアンケートも夜な夜な全部読んだりしている。その中にこういった意見も入っていたことは当然、気付いていたので、よりこれを真正面に受け取ってやっていきたいと思う」
「上から下へパワハラっていうような言葉だと、ちょっと言葉だけが先に走って誤解を得てしまうこともあるかもしれないが、やや日野の社風、社員というのは非常に素直で真面目っていう面があるので、やはり上下の関係があると、言われたことをとにかく守ろうとする。問題があっても守ろうとすると。こういった傾向から、なかなか下から上に上がりにくかったということもやはりハラスメントという以前にあったと、あると認識している。この辺りも会社としてやはり、仕事の現場、これは製造の現場でも開発の現場でも、お客様の営業の現場でも、そういう現場で起きていることが最も会社の中で優先順位が高く、そこを中心にみんな仕事しようよというふうに変えていくと、ネガティブなワーディングということではなく、より良い方向へ、この日野の社風をベースに良い方向へ持っていくことができるんではないかと考えている。これは社長1人ではできないことなので、関係するマネジメント層から1人1人の元気な新入社員まで、一緒になって考えて対応をしていきたいと思っている」
――3月に公表されてた出荷停止をした車種で、一部生産再開していると聞いている。今回のことを受けて、そうした車種の生産を再停止することはあるか。
「3月4日に停止した車両のうち、大型のトラックのA09のエンジンについて、こちらは燃費が届出の数値に満たさず、排ガス性能としては満足している。再申請可能になった場合には燃費値を修正するという形を計画していたので、われわれメーカー側の責任で少し少量だけ生産を開始している。目的は、再開した時にお客様をお待たせしていることもあって、一気にというようなことになると仕入れ先さんも含めて、生産のリードタイムの長いものは止めておくと海外で製造しているものなどはパイプラインが、いわゆる船で輸送する期間が掛かるので、いろんなご相談をさせていただいて少量を開始したという次第だ」
「ただ、これはあくまでメーカー側で生産をしているだけであって、認可をいただいていないので出荷はしていない。今回、問題の全容が明確になったので、これをベースに今後生産の調整をどのようにしておくかというかというのは、また製造の状況とか仕入れ先とかいろんなことを相談しながら対応を決めていきたいと考えている」
――その場合に少量生産する車種を増やすといったようなことも考えられるのか。
「これからの計画はまだ決まっていないが、3月4日に止まったもののうち、今回E13Cのエンジンについては排ガス性能の問題が明確になったので、これはこれから省との相談になるが、もちろん排ガス性能を満足するものに変更する必要がある。変更した場合は変更の内容に基づいて劣化耐久試験等々をやり直す必要があり、これらの検討が必要なので、今後すぐに増やしていくという可能性はあまり高くないと思う。将来の計画は都度都度、生産の状況とか仕入れ先、関係会社さんの状況にもご相談をさせていただきながら決めていきたいと思っている」
――先ほど広報の方から47万7000台と、あと最大で29万5000台というふうに不正が確認されている台数について説明があった。これに対象する3月時点での影響台数、不正確認台数は何台だったのか。3月の会見ではちょっとこれと対応しない数値をいただいているようにも見えるので、3月時点で何台だった影響が何台になりそうだという形で教えていただきたい。
(担当者)
「3月時点の台数は2万2893台」
質問に答える小木曽社長
体質改善、3年掛かりくらいで一定のレベルに持っていく
――主な再発防止策の中で、体制およびプロセスの改善というのは実施済みということだが、やはり企業風土の改善とコンプライアンス強化、ここは社長としてどれぐらい時間が掛かると考えているのか、教えてもらいたい。
「企業風土の改善は、実はゴールがないぐらいずっと持続的に続けないといけないことだとは思っているが、今回ご指摘をいただいたような問題点については、やはり3カ月で具体的な計画等、実行をしっかりスタートしながらやっていく必要があると思う。やはり1年後、来年、1年単位ぐらいでかなり良くなっているっていうような形にしていきたいと思う。特にこの企業風土そのもの」
「一方でその間、必ずコンプライアンスは守らなければいけないものだから、少し繰り返しになるが、様々な制度によってコンプライアンスが守られるようには徹底して枠組みで固めていくが、やはり全員が悩むことなくコンプライアンス優先の行動を取り、上司が必ずそういうふうに会話をし、それでこの企業風土がいいということは、他部門と一緒になったら相手の部署のことをよく思って全体最適で動く、こういったのを達成しようとすると3年掛かりぐらいであるレベルに持っていくということだと思う。私も親会社にいたり、部品サプライヤーにいたり、関係会社を非常勤で見ることもたくさんあったが、様々なレベルがあるが、この企業風土のところで全員で全体最適で助け合うというのが完璧にやれていたことは過去自分でもあまりないので、満足せずに毎年、毎年やっていく必要がある」
「ただ今回、日野自動車でいくと、もともと調査委員会に今日3つの真因と言っていただいたエリアについてはかなり大幅な改善が早急に必要と認識しているので、3カ月で方策と既に実施していることを加速し、1年ごとに大きく進んでいく必要があると思う。なかなか風土のところなので、やはり概念的な説明になってしまったが、これをとにかく会社の最優先事項にするということを経営層から職場の先輩といわれる人まで理解して行動に移すということだと思っている」
――再発防止策や組織風土を変えていく、将来のことについて考えるのは非常に大事なことだと思うが、5~6年の話ではなくかなり長期の話。責任について、自身は代表取締役としても続投していくのか。
「調査報告書をいただいたばかりで、この内容と、内容に応じた、われわれ、また再度、確認、調査、検討を尽くして、現在の自分も含めた経営層ならびに、下も含めた過去の経営層に対しての責任については厳正に、しっかり対応を検討してまいりたいと考えている。先ほども少し申し上げたが、今回多くのステークホルダー、お客様、皆様へご迷惑をお掛けしているので、やはり次に向けての体制というものを考える必要がある。併せて考えていきたい。とにかく今回起きた事案は、確かに特定の部署で不正そのものは起きているが、起きてしまった背景というのは経営の体制に調査委員会から報告していただいたように、やはり責任があるので、厳正に対処してまいりたい。私自身も同じように対処していきたい」
集まったメディア関係者に説明する小木曽社長
――今回、特別調査委員会による調査がいったんは終了して、報告書が出たのが1つのゴールだと思うが、2000年前半の規制対象のエンジンで不正行為があったということは、おそらく2000年ちょうどだったり、下手をしたら1990年代にまでさかのぼる可能性もあると思う。御社として今後もまた調査を続けるのか。
「こちらはまだ今後、検討させていただくことになると思う。調査委員会の説明の中でもあった通り、今回、われわれから調査委員会には可能な限り、さかのぼって調査を委嘱した。実際、調査に協力させていただきながら、これ、外部でやっているので、われわれが入り込むことはできないが協力をさせていただいていたので、調査委員会の先生方はさかのぼれるだけの全てのデジタルデータから、会議議事録から、ヒアリング、全てを尽くして、あとわれわれの技術情報も含めて、さかのぼった結果、2003年までさかのぼれたというのが実態だ」
「これ以上のことが可能かどうかというのは、また結果を見ながら検討していきたいと思うが、現時点でまだ決まっていない。これを待つよりは今回なぜ起きたか、どのように起きたか、何が問題かというのはおそらく、もう既に分かるので、分かったことに対して厳正に対応、対処して再発防止、二度と起きないようなことをまず加速していきたいと考えている」
――再発防止策を見ても、正直、きらりと光るものはなく平凡なものだと思う。特に他社と変わったところがないとの印象だ。トヨタ流まで注入されておきながら、20年間にわたって不正が続いていたということを考えると、本当に立ち直ることができるのか。不正が今後、再発しないと断言できるのか。
「そんな簡単に変われるものではないっていうのが先に、同じ認識をしている。今回、私どものプレスインフォメーションに書いてある再発防止というのはご指摘いただいた通り、今回分かった不正行為に対してどうやったら取りあえず流出防止ができるのか、通称、止血、血を止めるという、止血といわれる流出防止をしたのにすぎないと思っている。こちらはやらないと、今のままでは品質が保証できないので、止血をしっかりやっていく」
「ただ、後半のところに少し職場風土とか、コンプライアンスとか書いている。この、おっしゃっていただいたように、2001年に大変な思いをした日野自動車がトヨタグループに入って、ある程度の枠組みを入れたにもかかわらず、やはり中身のところで、品質優先だったり、人材育成に至ってなかったところというのは、今回のこのプレスインフォメーションの内容だけで変わるとは全く思っていない。今回の調査委員会の報告を、たぶん、これをわれわれがそこをヒントとしてしっかり読み込んで、社員と考えて、どのようにやっていくのが筋道かと、これを決める。そのリーダーの人材をある程度明確にするとか、体制を作る。これだけで3カ月掛かると思う」
「これを1年1年きっちりやって、おっしゃっていただいた通り、その1年1年やっていく中でそういうことが分かる人が20代の若者でも、30代の若者でも、40代、若者じゃないかもしれないが、そうやって育っていって、次々とたすきを渡していく、そういう会社になっていくというふうにしていくのをこれからやっていく。ただ、不正を起こした会社なので、流出防止は少し厳しくきっちりやって、足元ではご迷惑をお掛けしないようにということは、みんなで目を凝らしてやっていこうと思っている」
(本文・藤原秀行、写真・中島祐)