【独自】三菱商事設立の物流向けロボットサービスなど手掛けるGaussy・中村社長CEO独占インタビュー(前編)

【独自】三菱商事設立の物流向けロボットサービスなど手掛けるGaussy・中村社長CEO独占インタビュー(前編)

「業界と一体で使いやすいロボットの開発を図る」

三菱商事は今年1月、物流現場向けロボットの導入を支援するサービス「Roboware(ロボウェア)」や倉庫の空きスペースと保管したい荷物をマッチングするサービス「WareX(ウェアX)」の成長持続へ新会社「Gaussy(ガウシー)」を設立。7月1日付でそれまで本体で展開してきた両サービスを新会社に移管した。同社には大手物流施設デベロッパーのプロロジスや三井不動産、三菱地所などが出資。連携して物流現場のDXを促進していくことを目指している。

両サービスの立ち上げに携わってきたGaussyの中村遼太郎社長CEO(最高経営責任者)がこのほど、ロジビズ・オンラインのインタビューに応じ、物流現場へのロボット導入を後押しするとともに、ロボット自体、専門知識がなくても容易に操作できるよう、利用者の声を踏まえ、メーカーなどと連携して改良していくことに強い意欲を見せた。

中村氏の発言を前後編の2回に分けて紹介する。


中村氏(Gaussyウェブサイトより引用)

導入後のアフターサービスが重要

――今年7月、大手物流施設デベロッパーなどが御社に出資し、倉庫産業のDXに連携して取り組んでいくことを発表されました。そもそも、こうした形になる構想が出たのはいつぐらいですか。
「関係者の間では2~3年前くらいから話をしていました。具体化したのはこの1年くらいですね」

――三菱商事本体から倉庫産業のDX事業を切り離し、新会社を創設するということも前から検討していたのでしょうか。
「そうですね。三菱商事では倉庫向けロボットのサブスクリプションサービス『Roboware(ロボウェア)』と、倉庫スペースのシェアリングサービス『WareX(ウェアX)』を進めていく中で、オープンな形でパートナーも募り、やはり皆さんに使っていただけるサービスにしていくということを含めて考えていたので、新会社を立ち上げる構想自体は結構昔からありました」

――物流施設のデベロッパーと組むというのも早い段階から考えていたのでしょうか。
「われわれ自身、実は今回出資いただいたプロロジスさんや三井不動産さん、三菱地所さんなどとこれまでにビジネスをさせていただく機会が多くはなかったので、あらためてわれわれの方から、こんなことを考えていて、ぜひご一緒にやらせていただきたいという話を各社さんにさせていただいたんです。倉庫向けロボットと倉庫シェアリングという2つのサービスを展開する上で、倉庫の業界と倉庫を使われるお客様のそれぞれに幅広く接点を持たれている物流不動産のパートナーさんと手を組むことを、事業のシナリオの中で一番大きく考えていました」

――今回出資した企業以外のデベロッパーにも話をされたと思いますが、デベロッパー側の反応はいかがでしたか。
「皆さん、前向きにご検討いただけました。そこは非常にありがたかったですね。不動産会社さんだとやはり、ご自身の施設のテナントさんにより付加価値を提供したいと考えておられていますので、われわれから次の一手をご一緒に考えましょうと申し上げました。例えば倉庫内で計測できた作業生産性などのデータをどのように活用していくか、といったことですね。われわれのそうした提案にデベロッパーの皆さんも価値を感じていただけたのかなと思っています」

――最初に新会社の社長就任の打診があった時はどう感じましたか。
「本当にありがたいお話でした。2015年以降、私は新規事業開発のため米国のシリコンバレーに派遣されていて、当時はDXという言葉もほとんど知られていないころでしたが、物流の新規事業を考えていました。当時、スタートアップは現地で500社ぐらい存在していました。ちょうど物流で地殻変動が起こりそうなところを考えていった時に、やはり大きな動きはオートメーションでした。メーカーとして自動化機器を提供するという視点ではなく、ロボットの利用をさらに広げるために、米国ではRaaS(Robot As a Services)と表現していますし、サブスクリプションとも呼ばれますが、従量課金制にしてハードルを下げ、手軽に使えるような形でロボットを提供する、それをサービスにしていくという動きが明らかに進行していました。そこでやはりオートメーションに着目すべきだと感じました」

「倉庫スペースのシェアリングに関しては、米国のスタートアップで既にそうしたサービスを展開していたフレックス(Flexe)が17年当時、非常に光る存在でした。彼らのビジネスモデルを日本に持ってくるためずっと口説き続けて、何年もかけてようやく三菱商事との資本提携にこぎ着けたんです。そうした流れがありましたから、私自身、新会社のトップをぜひやらせてほしいと思っていました。一方で自分に務まるかなという不安もありましたが、本当にありがたいお話でしたね」

――倉庫シェアリングに関しては、最初にシリコンバレーでフレックスのモデルに触れてから5年程度で、現在の規模まで事業を成長させてこられていることについて、どう振り返りますか。
「いろいろ苦労は多かったかなと思います。やはり、三菱商事の中でもそうでしたし、今回出資いただいたパートナー企業の皆さんもそうなんですが、周りの方々に非常に助けていただいています。お客様から悩みを打ち明けられれば、どのように解決すべきかを周りの方々へ容易に相談できる環境ができています」

――倉庫向けロボットと倉庫シェアリングの両サービスの現状はいかがですか。
「新会社立ち上げの際のプレスリリースにも書かせていただいたんですが、倉庫ロボットは順調に進捗しています。やはり、倉庫ロボットは台数を増減させるなど、その時々の状況に応じて柔軟に自動化を図ることができる点が重要だと思っています。もっと幅広くご利用いただく、首都圏のメーンのセンターだけでなく地方のセンターも含めて自動化していく、省人化しつつ業務の生産性を上げていくことが、日本の産業の競争優位性を上げていくためにすごく大事だと考えています。倉庫ロボットには今後もポテンシャルを感じます」

「今われわれとしては、お客様の14拠点に倉庫ロボットを導入済みですが、これを今後1年間で30拠点とか、一気に倍倍という形で増やしていきながら、倉庫の自動化を容易に実現できる環境を広げていきたいですね」

――倉庫ロボットの利用形態はサブスクリプションの方が多いですか。
「(購入と)半々ぐらいだと思います。長期的に見て投資分をきちんと回収できるならハードウェアは自前で持ちたいというお客様もいらっしゃいます。この割合が今後どうなるかはマーケットの動きを見極めていく必要があります」

――倉庫ロボットサービスを成長させていく上で今の課題は何でしょうか。
「サービスを提供してきて、ロボットは導入することが目的ではなく、導入した後の運用が重要だなということにあらためて気づかされました。導入後のカスタマーサービスとしてまずは障害への対応をしっかりと行っていく。その中で何か問題があれば当社から現地に駆け付ける。リモートで対応できる部分も非常に多い。仮にロボットが現場で1台止まっても、残りのロボットが稼働していれば十分オペレーションは対応できますし、復旧もリモートで対応可能です。あと、大事なポイントは定期保守ですね。ハードウェアを含めてメンテナンスをしっかり行い、小さなトラブルを防いでいきます」

「ロボットを制御するソフトウェア自身、本当に運用方法で成果が変わります。ロボットを10台使っていたとしても、ソフトウェアの設定で稼働状況が全然違ってくる。稼働状況のデータを取りながら、どういった改善を加えていくべきかをお客様と一緒になって検討していく。そうしたカスタマーサービスの部分が非常に大きな意味を持っています。導入した後、どういうふうに改善していくか、生産性を上げていくかがあらためてロボットを運用していく上でわれわれがやるべきことだと考えています。ソフトウェアも定期的に必ずアップデートされますから、われわれ自身の現場でまず問題なくロボットが動くかを実証した上で、お客様にご提供していく。サービスとしてしっかり成り立たせていくことが重要です」


Robowareで取り扱っているロボット(Gaussyウェブサイトより引用)

都心部以外にも倉庫シェアのニーズが広がる

――物流の現場を見ていると、担当者は必ずしもロボットに詳しいとは限らないため、ユーザーからはロボットが予期せず止まってしまった時の迅速な対応を強く求めているように思えます。
「まさにその通りだと思います。われわれもそのサポートをどれだけリモートでしっかりとできるかが重要です。ロボットを入れられた現場はやはり、マニュアルだった作業がシステム化されていくので、物流会社さん、3PL事業者さんに求められるスキルセット、機能も変わってくると思っています。ですから、現場監督として人材をアロケーションしていた時代から、やはりシステムを扱えないといけなくなる。システムご担当の方々だけではなく、物流現場の方を含めてアップデートされていくことが必要なんだろうと感じています。そこをわれわれが補えるのが一番理想だと思いますが」

――現場で受け入れられ、より使われていくためにはロボット自体、より操作を容易にしていく必要もありそうです。御社の知見をロボット開発に生かしていくことも重要なのでは?
「おっしゃる通り、トラブルが起こった時に、ユーザー体験を上げていくためにはこのボタンを押せば済む、みたいなシンプルな構造にしていくことでトラブルはなくなっていきますので、まさにそうしたナレッジを、われわれを通じていろんなメーカーと共有させていただいています。実は最近、ありがたいことに、メーカーさんからこんなロボットを扱ってもらえませんか、というようなご提案を多くいただくようになりました。本当に、ロボットを使いやすくしていくというところは業界一体になって、取り組んでいきたいですね」

――取り扱うロボットの種類はさらに増やしますか。
「そうですね。今はGreyOrange(グレイオレンジ)製の棚を持ち上げて運ぶ『Ranger(レンジャー)GTP』(旧名Butler=バトラー=)とパレットごと荷物を搬送する『Ranger IL』、中国のロボットメーカーHC Robotics製高速自動ソーター『Omni Sorter(オムニ・ソーター)』、同じく中国の新興ロボットメーカー、シリウスロボティクス製の自律走行型ロボット(AMR)『FlexComet(フレックスコメット)』の4種類をご提供しています。さらに、中国系ロボットメーカー、HAI ROBOTICS JAPANのケース搬送ロボット『HAIPICK(ハイピック)』の取り扱いと実証も始めます。他にも今、何点か新しいロボットを仕込んでいるところです」

――倉庫シェアリングの方はいかがですか。
「こちらも現状、おかげ様で今、登録している倉庫が1000拠点を超えて順調に拡大してきています。引き合いも100パレット以下のものもあれば、1000パレット、1万パレット分を借りたいという方もいらっしゃいます。スポットから長期利用まで本当にいろんな案件がありますね。サービスを展開してみて、あらためて感じたのは、倉庫をちょっと使いたいというニーズがものすごくたくさんあるということです。今までは倉庫スペースを一時的に手配できないのでプロジェクト自体をあきらめてしまうお客様も結構いらっしゃった。倉庫スペースがスポットですぐに手配できるという世界に変わると、今まで機会損失があったところもビジネスを実現したり、もしくは最近のお客様だと、中小企業の方々も倉庫スペースを使えるようになったというお声を聞いたりします。こういうふうにサービス利用の裾野が広がっていくんだなと肌身で感じています」

――都心部以外でもニーズはありますか。
「ありますね。地方は結構多いですね。やはり関東圏は倉庫の数も、お客様の数も多いですが、地方でも案件はいただくようになってきましたね」

――サービス利用者の業種も隔たりなく、という感じでしょうか。
「本当にその通りです。最初は食品やアパレルが多かったんですが、今はもう、建築資材ですとか、ありとあらゆるものになってきました」

――それは、米シリコンバレーで見つけた時点で、倉庫シェアリングのビジネスモデルが非常に優れていて、時代を先取りしていたということでしょうか。
「そうですね。われわれがフレックスに学ばせていただいたということが大きいですし、フレックスも先日、巨額の資金調達を実施していましたし、ユニコーン(企業価値が10億ドル以上の非公開企業)になりました。サービスが徐々に広がってきているんだなということをあらためて感じますね。われわれはフレックスからすれば3~4年くらい前に歩んでいたところにいるんじゃないでしょうか。早く現状のところまで到達したいですね」

――米国でのフレックスのビジネスモデルはかなり進化しているのでしょうか。
「いえ、根本的なところは変わっていないと思います。倉庫スペースをシェアリングするという概念は変わらないですし、同社は言い方をいろいろ変えたりしますから、最初は倉庫のシェアリングと説明したところ、今は『オンデマンドウェアハウジング』、欲しい時にすぐ倉庫スペースが手配できる、という表現になっています。最近は『プログラマブルロジスティクス』とも言っていますね。標準化したサービスになればなるほど、ブロックを組み立てるような形で倉庫を手配できる感覚、まさにフィジカルインターネットに近くなるような感覚をしていて、中小企業、大手企業のいずれにとってもデジタル3PLに近くなってきているイメージですね」

後編に続く)

(藤原秀行)

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