IBMが世界主要企業対象の調査結果公表
日本IBMは1月24日、IBMグループのシンクタンク部門「IBM Institute for Business Value(IBV)」が世界主要企業でサプライチェーン運営の責任を担うCSCO(最高サプライチェーン責任者)やCOO(最高執行責任者)を対象とした意識調査結果を公表した。
調査は2022年4~6月、IBMグループが実施。北米や中南米、欧州、中東・アフリカ、中華圏、アジア太平洋、日本の35カ国以上で活動している24業界の1500人が対象で、日本人はこのうち75人だった。
調査結果を基に、IBMグループは「世界が混迷を極め、サプライチェーンに対してマクロ経済とサステナビリティーの両要因が重みを増しており、サプライチェーン(の適正な運営)が重要経営課題になっている。競争優位のためCSCOの戦略的役割が高まっている」と分析。データに基づいて戦略策定や計画立案、意思決定を進める「データ・ドリブン」を実現することなども求められていると解説した。
「マクロ経済要因」や「社会経済要因」が自社に影響との予想が最多
調査結果によると、過去2年間に最も大きなサプライチェーンの混乱を経験した分野として、世界のCSCOは「需要変動への対応」と「輸送および物流手段の確保」を挙げた割合が46%、「供給拠点の在庫充足」が45%に上り、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的感染拡大)やロシアのウクライナ侵攻がサプライチェーン運営に大きな混乱をもたらしたことをあらためて浮き彫りにした。
日本の場合は、「輸送および物流手段の確保」が56%、「生産」が51%、「供給拠点の在庫充足」が48%、「需要変動への対応」が45%などとなった。製造業が以前産業で相当な役割を果たしているため、生産面での混乱も顕著だった。
今後2~3年にわたって自社に影響を及ぼすと思われる最も重要な外部要因を尋ねた結果、世界のCSCOは「マクロ経済要因」が52%でトップ。続いて「環境要因」(48%)、「テクノロジー」(47%)などと続いた。
2019年に世界の主要企業のCOOを対象とした同様の調査では、「テクノロジー」が61%で最も多く、「市場の変化」(55%)、「法規制」(50%)、「人材・スキル」(44%)などが上位に来ていた。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻が意識の変化につながっていることをうかがわせた。
一方、日本のCSCOは「社会経済要因」が53%でトップ。「マクロ経済要因」(51%)、「市場の変化」(49%)、「環境要因」(47%)などが続いた。「テクノロジー」は43%だった。世界、日本ともに、マクロ経済やサステナビリティを重く見る傾向が強まっているほか、業務自動化につながるテクノロジーにも引き続き高い関心を寄せているとみられる。
サプライチェーン業務でCSCOが責任を担っている分野としては「サプライチェーンの変革」が48%で首位。「サステナブルなオペレーション」と「ビジネスモデルの変革」が38%、「販売・業務計画」が37%などとなった。サプライチェーンの変革が最重要の職責と認識している向きが多いことが明らかになった。
また、今後3年間にわたるサプライチェーンのDXテーマを質問したところ、世界のCSCOは「カーボンニュートラルに向け積極的に動く」と「インテリジェント化したワークフローがデータを解釈し、それに従って反応・意思決定・行動する」が52%でトップ。「アジリティー(俊敏性)が広く求められ、エコシステム・パートナーと協働するチームの流動性が高まる」が51%で続いた。
日本のCSCOは「カーボンニュートラルに向け積極的に動く」と「顧客が商品配送にもパーソナライズ化を求めるようになり、ラストランマイル(消費者の玄関先への配送)での対応を迫られる」がともに57%で最多。「カーボンニュートラルに向け積極的に動く」と「インテリジェント化したワークフローがデータを解釈し、それに従って反応・意思決定・行動する」と「アジリティー(俊敏性)が広く求められ、エコシステム・パートナーと協働するチームの流動性が高まる」が53%で続いた。
日本はラストワンマイル配送に対する消費者からの細かな要望への対応がより重視されていることを示唆した。
(日本IBM調査資料より引用)
また、「自社のサステナビリティ―投資はビジネスの成長を加速させるだろう」と考えている割合が、日本のCSCOは59%で、世界平均の50%を上回り、各エリアの中でもトップだった。
同日、オンラインで調査結果を説明した日本IBMのコンサルティング事業本部ビジネス・トランスフォーメーションサービス ファイナンス・サプライチェーン改革サービスの鈴村敏央SCM・サステナビリティー担当シニアパートナーはCSCOの存在について「機能として必要だし、調査に出ているような課題感を持っている企業の方々はそういった機能を置こうとする動きが出てきている」と指摘。サプライチェーン全体を組織横断的に管理する役職の重要視を強調した。
コンサルティング事業本部ビジネス・トランスフォーメーションサービス ファイナンス・サプライチェーン改革サービスの志田光洋サプライチェーン・マネジメント担当パートナーは自動車業界を例に挙げ、「サプライチェーンの断絶回避だけでなく、経済価値を高めていくための取り組みとしても、川上、川下の双方でサプライヤーとの連携は進んでいる」と紹介。関係者間の連携強化の観点からもサプライチェーンのDX促進が必要と訴えた。
オンライン説明会に登壇した鈴村氏(左)と志田氏(日本IBM提供)
(藤原秀行)