AIやビッグデータ活用で2024年問題の克服と「サステナブルな倉庫」実現は可能

AIやビッグデータ活用で2024年問題の克服と「サステナブルな倉庫」実現は可能

内閣府プロジェクトSIP採択のスタートアップ3社、先端技術活用の実証実験成果を発表

内閣府が関係省庁や民間企業と組んで進めている先端技術実用化の国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のうち、物流業務の効率化・自動化に照準を合わせた「スマート物流サービス」に採択されたスタートアップ3社が2月7日、東京都内で記者会見し、それぞれが展開してきた実証実験の成果を発表した。

会見には中小運送事業者らのDX支援を手掛けるascend(アセンド)、ビジネス領域でのAI活用を図るMatrix Flow(マトリックスフロー)、AIを使ったデータ分析を担うアイディオットが参加。

登壇した各社のトップはAIを駆使した入出荷の数量予測、実際のトラック稼働データを基にした業務由来のCO2排出量可視化、需給状況に応じたトラック輸送の変動運賃制(ダイナミックプライシング)など5種類のプロジェクトについて報告。それぞれ効率化が期待できるだけの成果を得られたと強調し、トラックドライバーの長時間労働規制が強化される「2024年問題」の克服や、継続して運営できる可能性を高めた「サステナブルな倉庫」の実現などに向け、実用化を目指す姿勢を示した。

倉庫管理AIで作業時間29%短縮

会見の冒頭、SIPスマート物流サービスのプログラムディレクターを務める田中従雅ヤマト運輸執行役員があいさつ。「今日登壇された3社の研究成果の必要性を多くの方に広めていきたい」と強調した。

Matrix Flowの田本芳文代表取締役は、WMS(倉庫管理システム)に蓄えられている入出荷や在庫の情報を生かし、庫内のピッキング作業を効率化する実証実験について紹介。「トラック輸送と比べると倉庫の作業はパターン化していることが多く、AIの得意分野と一致している」と指摘した。

実験では、これまでの出荷履歴や気象、売れ行きなどを基に未来の出荷量をはじき出す「出荷予測AI」、予測出荷を基に最適な貨物配置を割り出す「貨物配置最適化AI」、ピッキングの際の最適な行動を導き出す「作業最適化AI」の3種類を組み合わせ、「倉庫管理AI」として活用。大手物流会社の現場でそれぞれのAIを導入したところ、庫内作業時間を29%短縮するなどの効果が出たという。

さらに、庫内の在庫レイアウトも最適化するなどのプラスが現れたと解説。提案している3つのAIをうまく運用することで、労働力や保管スペースの効率的運用につながる「サステナブルな倉庫」を実現できると意気込みを示した。

田本氏は、菓子卸大手が既に倉庫管理AIシステムを導入したほか、Matrix Flowの既存顧客でも複数社が導入を検討していると報告。「2025年までに1000社の導入を目指す」とアピールした。

業務由来のCO2排出を2割削減

続いてプレゼンテーションに臨んだアイディオットの井上智喜代表取締役は、様々なデータを使い、ある事象を忠実に再現できる大規模な仮想空間「デジタルツイン」を利用し、大手3PL事業者と連携して、生活協同組合から商品配送先の各都道府県別に利用する梱包数やカート数の需要を予測。配車コストが最小になるよう、4tと10tのトラックの割り当て台数を算出した。

その結果、10tトラックをより多く使い、商品を積み合わせる手法を確立。配送コストが12%、車両台数が32%それぞれ減ったという。

また、トラックの稼働状況を車両に取り付けたセンサーからリアルタイムで集め、CO2排出量を可視化。そのデータを基に、独自のアルゴリズムを用いてサプライチェーン全体の排出量を算出し、車両台数の最適化を図った。その結果、10tをより多く使い、まとめて荷物を運ぶようにしたことでCO2を20.4%削減できることが見込めた上、コスト削減にもつながったという。

井上氏は「今後は航空や船、コンテナなど複数の配送選択肢でシミュレートする機能も搭載し、CO2削減をシミュレートするシナリオの幅を広げていきたい」と語った。

ただ、配送量を届ける店舗別にAIが予測するモデルについては、誤差が13~47%発生し不十分だったと指摘。改善の余地があると言及した。

「変動運賃」自動算出し交渉で説得力ある材料に

最後に解説したascendの日下瑞貴代表取締役は、ダイナミックプライシングの実証実験について紹介した。実在する数種類の求貨求車システムの取引データを活用し、実際のマーケットの運賃動向も踏まえた上で、荷物の発送・到着の地域、荷物の種類など、運送サービスごとの価格設定を、幅を持たせる形でAIが自動算出するエンジンを開発。

そのエンジンを使い、要したコストや適正な利益といった要素を加味して運送業の実態に即した運賃を「最低金額」「推奨金額」「最高金額」の3つで提示、運送事業者が荷主企業と「適正な価格」を交渉するための有力な判断材料になるようにした。

日下氏は、国土交通省がトラック運賃の適正化に向けて作成した「標準的な運賃」を補佐する役割のものになり得るとの見解を表明。同社が既に提供している運送事業者向けのクラウドベースの運行管理支援システム「LogiX(ロジックス)」に搭載、早ければ今年春にも実際に提供を始める考えを明らかにした。日下氏は「サプライチェーン全体の効率化にも貢献できるのではないか」と自信をのぞかせた。


会見の際、撮影に応じる(左から)Matrix Flow・田本氏、アイディオット・井上氏、ascend・日下氏、ヤマト運輸・田中氏

(藤原秀行)

テクノロジー/製品カテゴリの最新記事