建物内で配送や配膳、清掃など担うロボット、24年度の実装に向け「群管理技術」標準化加速へ

建物内で配送や配膳、清掃など担うロボット、24年度の実装に向け「群管理技術」標準化加速へ

普及団体と経産省が取り組みの成果報告会開催

建物内の荷物搬送や清掃、店舗内の料理配膳などへのロボット普及拡大を図る「ロボットフレンドリー施設推進機構」(RFA)と経済産業省は3月8日、東京都内で、RFAに参加している企業のロボット活用の取り組み状況に関する成果報告会を開催した。

参加している不動産会社やメーカーは、普及に向け、施設内の廊下で人とロボットが出合い頭にぶつからないよう技術面で工夫したり、複数の異なる用途のロボットが施設内で衝突・接触といったトラブルを起こさず同時に運用できるようにする群管理技術の実用化を図ったりしていることを報告。

経産省とRFAは、2024年度に一定程度、ロボットが建物内の荷物運搬や清掃などに使われている状況を実現するため、群管理技術の標準化などを図る方針を示した。


会場にお目見えした荷物搬送や清掃などのロボット

ビル内の100カ所以上へ完全無人配送達成

冒頭、経産省製造産業局の安田篤産業機械課長兼ロボット政策室長と、同局の板橋洋平ロボット政策室室長補佐がそれぞれ登壇。産業界主導でロボットを導入しやすい「ロボットフレンドリー」(ロボフレ)な建物や施設の環境を実現していくためにRFAが発足した経緯などを紹介した。

併せて、サービスは多少いびつな部分があってもユーザーが受け入れて使うことで、技術の発展を促す「人々の寛容さ」を醸成していく必要性を強調。安田氏は「今日はサービス分野のロボット活用にとって非常に大きな一歩になる」と取り組みの広がりに自信をのぞかせた。

続いて、RFA参加企業の担当者がロボフレ実現のための施策を発表した。三菱地所管理・技術統括部兼DX推進部統括の渋谷一太郎氏は、同社のオフィスビルで、実際にビル内で営業している飲食店舗から配膳ロボットを使い、従業員に注文したメニューなどを届けていることを紹介した。

メーカーを問わずロボットを利用できるようにする「メーカーフリーな連携システム」の実用化などを促進。トラブル回避のため、ロボット移動中に、ロボット自身が音声を発信して周囲に注意喚起したり、出入口のフラッパーを通行する際のルールを決めたりしたことを引用。オフィスビル内にある複数のフロアの100カ所以上へ完全無人配送サービスを実現したことなどを成果として挙げた。

30分の配達指定枠に最大10のオーダーが入った際も、4台のロボットがそれぞれのタスクを無事完遂できた。利用者を対象としたアンケートでは、回答者の9割がまた利用したいと答えたという。

渋谷氏はロボフレの「ワーカーの満足度を向上させるサービスを横展開することが期待できるのではないか」と語った。

東急不動産ビル運営事業部 東京ポートシティ竹芝総支配人の潮田喜一郎氏は、ロボフレを達成するための建物の物理的環境に関する課題の解決策について報告した。建物内の廊下の曲がり角でロボットと人が衝突するのを避けるため様々な取り組みを試した結果、ロボットが曲がり角に来ると警笛を鳴らしたり、あらかじめぶつからないようロボットが大回りしたり、角にステッカーを貼って注意を呼び掛けたりしたことが成果を挙げたと指摘した。

潮田氏は、ロボフレ実現に向け、運用のガイドラインをあらかじめ策定しておくことで、ロボット導入のハードルを下げ、導入のROI(費用対効果)を改善することにつながると強調。「ロボフレビル」として建物や管理方法の標準化を進める必要性に言及した。

「ロボフレ」環境へ施設内の業務フローも見直し重要に

森トラスト社長室戦略本部デジタルデザイン室の朝比奈泰裕部長代理も、ロボットを使って施設内の段差や溝、勾配などをどの程度克服できるか調査したことを引用。ロボットのタイプによって、乗り越えられる段差の幅が変わるなど一律に設定することの難しさが分かったと説明した。

建物の躯体以外にも、ホテルの廊下で端に置かれたカートにリネンを積み上げているシーンでは、リネンを丁寧に積んでいればロボットは脇を通行できたが、乱雑に積み上げているとロボットが通れなくなったことを紹介。「物理的な環境だけでなく(施設内の)業務フローも(ロボットが自動走行しやすいよう)見直していくことが今後重要になってくるのではないか」と指摘した。

また、ロボットが場所を確認するのに使うマーカーについても、現状はロボットごとに異なる仕様のものが使われているが、統一することでロボットをより導入しやすくなり、様々な用途のロボットが同一エリアで共存、協働できるようになると提案した。

パナソニックホールディングス事業開発室ロボティクス・アクセシビリティPJ総括担当の黒川崇裕氏は、複数のロボットを同一の建物内で支障なくスムーズに使えるようにする群管理制御の技術開発についてプレゼンテーションした。

これまでの実験の成果を基に「ロボットシステムの中で、複数ロボットを運用させる場合の規格化、ルール化により他の施設への展開が加速する」と予想。配送や清掃など異なるロボットを運用する際、移動中に出会った時はロボットに優先順位を付けて一方が退避できる場所を指定することで、すれ違わずに運用を継続できるようになったと語った。

RFAの脇谷勉代表理事は、RFAの活動内容などを説明。より具体的な課題の解決策を話し合うため、既に設置しているエレベーター連携、セキュリティ連携のTC(テクニカル・コミッティ)に加え、4月に物理環境、ロボット群管理のRCも設置する方針を発表。エレベーターと連携して異なるフロア間をロボットが円滑に移動したり、エントランスのゲートといったセキュリティ設備と連携してスムーズに通行できるようにしたり、建物自体をロボットが作業しやすいように仕様を標準化していったりすることに取り組んでいく姿勢をアピールした。

説明会にはRCAが新たに公開を始めた、ロボフレの環境を分かりやすくイメージしてもらうためのコンセプトムービーでナレーションを務めた人気声優の東山奈央さんもゲストとして登場。「ムービーの素敵な近未来の姿が決して遠い世界の話ではなく、近々訪れるかもしれないというとワクワクした。これからもいろいろなロボットを見かけることができればいいなと思う」と感想を語った。


撮影に応じる(前列左から)声優の東山さん、RFA・脇谷氏、経産省・安田氏、板橋氏、(後列左から)東急不動産・潮田氏、森トラスト・朝比奈氏、三菱地所・渋谷氏、パナソニックHD・黒川氏

(藤原秀行)

テクノロジー/製品カテゴリの最新記事